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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2025/02/25

エディルネ ムラディエジャーミイの壁画


エディルネ、ムラディエジャーミイ 1425-27年
ムラディエジャーミイキュッリエ(複合施設) Google Earth より
①正門 ②シャドゥルヴァン(清めの泉亭) ③トイレ? ④モスクの柱廊(ソンジェマアトイェリ、礼拝の時刻に遅れてきた人が礼拝する場所) ⑥大ドーム ⑦ミフラーブのあるドーム ⑧右タブハネ(修行者を泊めたザーヴィエがモスクに隣接した部分になってタブハーネと呼ばれ、旅行者が無料で短期間利用できる施設となった) ⑨左タブハネ
用語解説は『トルコ・イスラム建築紀行』より
イスタンブール 旅する21世紀ブック望遠郷』(以下『望遠郷』)は、モスクは逆T字形で1基のミナレを備え、正面には五つに分かれたポーチがあり、礼拝場には四つの部屋があるという。


内部にはタイルだけではなく部分的とはいえ壁画が残っていた。
『望遠郷』は、礼拝場はタイルとフレスコ画で豪華に飾られているという。


礼拝室左壁
天井近くと腰壁上に帯状にカリグラフィーが描かれるが、下側は左と右では高さが合っていない。

左端上
驚いたことに、イスラームの壁画ではこれまで見たことのない文様ではなく自然の植物が描かれていた。しかも、手慣れた筆づかいで。

窓を挟んだ右側にも、草や葉の茂る樹木が描かれている。イスラームでは植物文様や幾何学文様、あるいはカリグラフィーが描かれるのが一般的だったとしても、このような庭園を描写したような絵画というジャンルがあったことをうかがわせる。


下側のカリグラフィー
目立たないが細い蔓草が渦巻くように描かれている。
TDV イスラム百科事典ムラディエ・コンプレックスは、タイル壁の上端にはレリーフ装飾が施されたパルメットのフリーズがある。このフリーズの下にも手描きの装飾が続いていることから、後から付加されたものと考えられているという。


確かにフィニアルのタイルがなくなったところは色彩が鮮やか。
フィニアルが取り付けられた時期だが、壁画が完成した直後なのか、後の時代なのだろうか。イスタンブールのチニリキョスク蔵のフィニアルは15世紀中頃のイズニク製ということだが、このフィニアルによく似ているし、セリミエジャーミイのメドレセに展示されていたムラディエジャーミイのフィニアル断片も15世紀だった。ということは同時期ということになる。
別の箇所ではカリグラフィーの下に何かの花弁らしきものが描かれていた。

フィニアルを模して描いたものかも。


右上のカリグラフィーと植物文様による装飾

メダイヨンにも正三角形を逆にして重ねた六点星に蔓のような植物文様が描かれていて、彩色された地文様も垣間見える。


ミフラーブ壁にも壁画はあった。

左側の窓の上カリグラフィーが残っているが、その上に新たな壁画を塗ったらしく、よく接着するために無数の穴が開けられている。
そして、この窓枠の上からフィニアルの形とタイルの文様帯の絵柄が変わっている。


ミフラーブ上部の壁画
カリグラフィーの続きが建物の絵とは。

建物の隣に突然カリグラフィーが表されているのも変。どちらかが上塗りされたのだろう。
建物の方は太短いのにコリント様式の柱頭らしく、アカンサスの葉が誇張して描かれている。

その建物の続きにもアカンサスの葉が派手に描かれた円柱が並ぶ。複数の建物はいったい何を描いたものだろう。上部には部分的にカリグラフィーが見えている。カリグラフィーの上に建物が描かれたようにも見えるが、ムラディエジャーミイがモスクでなかった時代があったのだろうか。


右壁の壁画
左壁と同じ植物が描かれていたようだが、違いは腰壁の少し上に白地藍彩タイルを真似た文様が描かれていること。

窓の上に描かれているので、陶器のフィニアルが貼り付けられていない。
めくれ方から、カリグラフィーの壁画の上に青と白の文様帯が描かれていたみたい。

平行四辺形の枠(タイル様の)で区切られて、文様も変えている。


⑥ホールの大ドーム
階段を上がって見上げればトルコ襞からの架構で、わずかに壁画が残っていた。
六角形の採光塔について『望遠郷』は、礼拝場には四つの部屋がある。礼拝場のドームには当初は採光窓が開いていたが、今では採光塔が取りつけられているという。ひょっとすると、⑦エスキジャーミイの採光塔も後の時代の補修で取り付けられたものかも。

滴形のメダイヨンと黄色い帯状のカリグラフィーが交互に並ぶ。

大ドームを支えるトルコ襞にも

大ドームの四方のアーチにも

その四隅にも

壁画は断片的に残っているので、創建当時は礼拝室同様にタイルの腰壁の上は壁画で埋め尽くされていたのだろう。


⑥大ドームと⑦ミフラーブのあるドームの境にあるアーチ

これまでに見てきたモスクのドームに描かれたものと共通するモティーフだった。複雑に絡み合う組紐は茎となって葉や花を出している。


反対側のアーチには、植物文様と組紐文様の文様帯の間にカリグラフィーの区画がある。


⑧右タブハネ

上に新たな壁画を描くために無数の穴が描かれている。


⑨左タブハネ

中央の濃い部分はよく分からないが、

その外側には植物が描かれている。

樹木ではなく草本。元は色があったのだろうが、まるで水墨画のよう。

小さなモスクだったが、ドームの形といい、タイル装飾といい、壁画といい、見どころ満載だった。




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参考文献
「トルコ・イスラム建築紀行」 飯島英夫 2013年 彩流社
「イスタンブール 旅する21世紀ブック望遠郷」 編集ガリマール社・同朋舎出版 1994年 同朋舎出版