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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2026/07/14

旅する善財童子 34-44


新・善財童子 求道の旅-華厳経入法品・華厳五十五所絵巻-』(以下『新・善財童子』)の図版と本文、時には梵文和訳 華厳経入法界品(下)などから引用して作成しています。

彦坂周氏の印度學仏教學研究第41巻第2號「華厳経入法界品と南インドの地名について」は、第三十師が南方堕落鉢底城 Dvaravatin でそこが南端となっており、そこより南方は大海であるため、第三十一師以後は再び釈尊の教化された地である北インドの摩蜴提国に戻っている。
華厳経入法界品における善財童子の南行は南インドの新興商業都市に大乗仏教が広まっていった跡付けを象徴的に表わしているのではなかろうか。そしてこの大乗の教法を正統づけるためにインド最南端まで行った後、再び仏教の聖地北インドに戻っているのであるということで、長い年月をかけてインドの南端まで辿り着いたのに、第三十師の大天神(マハーデーヴァ)にインド北部のマガダ国へ行くように言われ、善財くんはマガダ国を巡ることになった。

同じマガダ国の菩提道場のすぐ隣へ。
第二の夜の女神の勧めに従って、善財童子は喜目観察衆生という夜の女神に会うために、世尊の説法会の方へ向かった。

34 喜日観察衆生主夜神(第三の夜の女神プラムディタ・ナヤナ・ジャガッド・ヴィローチャナー)
第二の女神のすぐ横にいて、「普く優れた喜びの広大で無垢の勢いの幢」という菩薩の解脱を得、あらゆる衆生を教化し成熟させる(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

喜日観察衆生主夜神はそこに臨んでおられるとのことであった。女神の方ではすでに善財童子がやって来ることに気づいており、童子が一歩でも二歩でも無上の悟りに近づけるようにと、みずからもしっかりと心構えをして待った。
善財童子が近づくと、女神は立派な蓮華の獅子座に端坐し、喜びが無限に溢れる大勢力普喜幢という菩薩の解脱に入っていた。
華厳五十五所絵巻 34 喜目観察衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

善財が合掌しもうくてよく見ると、女神のあらゆる毛孔から妙なる雲気が立ち昇っている。しかも、それは様々な形をなす雲となってあらゆる衆生を喜ばせ、楽しませながら何事かを語り、何事かを説いているようであった。雲に照らし出されているのは波羅蜜行の教えか。
夜の女神の喜目観察はこのような十種の波羅蜜の行を説き明かしたのであるが、しかしこれだけに止まらなかった。

華厳五十五所絵巻 34 喜目観察衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

布施、持戒、忍辱、精進、禅定、般若、方便、願、力、智の十種の各波羅蜜であって、善財童子はこの女神の会得していた広大無辺な智波羅蜜と結びつく、さらにありとあらゆる菩薩の法までをも目の当たりにしたのである。
「女神よ、あなたは無上の悟りに安住されてからどれほどの時が流れ、あなたがこの大勢力普喜幢という菩薩の解脱を得られてからどれほどの時が過ぎたのでしょうか」 
華厳五十五所絵巻 34 喜目観察衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

「・・・・、私はこうしてこの大勢力普喜幢という菩薩の解脱を会得したのでした。
善財よ、私はただこの菩薩の解脱を知っているだけです。私のすぐ隣、やはり如来の説法会に普救衆生妙徳という名の夜の女神が来ておられますから、尋ねてみられるとよいでしょう」
如来の説法会に来ている普救衆生妙徳の元へ。


35 普救衆生妙德主夜神(第四の夜の女神サマンタ・サットヴァ・トラーノージャッハ・シュリー)
第三の女神のすぐ隣にいて、「一切世間に現前して(如来が)世の衆生を教化する様子を示現する」菩薩の解説を得、無数の仏に奉仕する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
童子は、このとき究竟清浄輪という三味を体得していた。

第三の夜の女神に教えられた通り、善財童子は次なる夜の女神、普救衆生妙徳に近づいた。すると女神は、完全な相好を具えたみずからの姿を現わすや、眉間の白毫から一条の光をささっと放った。それはあまねき智慧が焰となって一切世間を照らし出す、無垢そのものの光であった。眉間から放たれた光は善財童子に届き、童子の全身はその光に包まれた
華厳五十五所絵巻 35 普救衆生妙德主夜神 新・善財童子 求道の旅より

その途端、善財童子は目の前に広がる山野の、すべての微塵のなかの一々の微塵において、仏国土の微塵の数に等しい世界が生成し、消滅するのを見た。
童子は、このとき究竟清浄輪という三味を体得していたのである。
華厳五十五所絵巻 35 普救衆生妙德主夜神 新・善財童子 求道の旅より

「善財童子よ、あの折の私の父、転輪聖王はビルシャナ宝蓮華蔵妙吉祥髻といい、その王妃は具足円満吉祥面というのですが、実は転輪聖王は弥勒菩薩その方であり、王妃は私のすぐとなりに坐っておられる寂静音海という夜の女神、主夜神なのです。王女の私は普賢菩薩のお導きでを目の当たりにしたとき、調伏一切衆生という菩薩の解脱を会得しました。私はこの調伏一切衆生という解脱を知っているだけなのです。 
何と、この普救衆生妙德主夜神は弥勒菩薩と寂静音海という主夜神との娘だった。
華厳五十五所絵巻 35 普救衆生妙德主夜神 新・善財童子 求道の旅より

行きなさい、善財よ。まさにこの菩提道場に寂静音海主夜神がおられます。この方に尋ねてごらんなさい。いかにして菩薩行を実践すればよいかを」
善財くんは菩提道場を歩いて普救衆生妙德主夜神の母寂静音海主夜神のもとへ向かった。


36 寂静音海主夜神(第五の夜の女神プラシャーンタ・ルタ・サーガラヴァティー)
第四の女神のすぐ隣にいて、「広大な歓喜の衝動を生じる心刹那の荘厳」という菩薩の解脱を得、一切衆生に法を説き、彼らを防護する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

「善財よ、自分は一念一念に広大な歓喜が溢れくる荘厳という菩薩の解脱を体得しておる。
善財よ、自分はこのように、一切衆生を法施によって導き、様々な苦に満ちた悪趣への道から抜け出させ、法楽の喜びを味合わせてきた。それは自分にとって、大いなる歓喜の光明の海を体得することでもあったのだ。
なんと普救衆生妙德主夜神の母寂静音海主夜神が髭面の女神とは。見上げた時に笑いそうになりませんでしたか善財くん?
華厳五十五所絵巻 36 寂静音海主夜神菩薩 新・善財童子 求道の旅より

「どのような修行によってその解脱を成就されたのですか」
私のようなええ加減な人間ではない善財くんにとって、主夜神に髭があるかどうかなどどうでも良いことだった。
華厳五十五所絵巻 36 寂静音海主夜神菩薩 新・善財童子 求道の旅より

「それは十種の広く無限に広がる大法蔵を修したからだ。
善財よ、もし菩薩がこれらを成就し安住できれば、自分のような解脱を体得して浄らかに成長し、堅固に出現し、大いなる完成へと持続できるというものだ。
だがそれでも、菩薩行について語り尽くせたとは言えない。
華厳五十五所絵巻 36 寂静音海主夜神菩薩 新・善財童子 求道の旅より

この菩提道場におけるビルシャナ世尊の説法会に、守護一切城増長威徳主夜神という夜神がおられる。その方に菩薩の実践について尋ねるとよい」
そこで善財くんは、寂静音海主夜神を讃嘆する詩頌を唱えてそのもとを去った。


37 守護一切城増長威徳主夜神(第六の夜の女神サルヴァ・ナガラ・ラクシャー・サンバヴァ・テージャッハシュリー)
同じ菩提道場の毘盧遮那仏の説法会の中の獅子座において、「心に適った音声の深遠な神変に入る」という菩薩の解脱を得、無上の法を摂取し、法を説く(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

近づくと、獅子の大蓮華座に坐った容貌魁偉な夜神が、 髪を逆立て睨むようにして待っていた。周りを取り囲む異形の神々も鋭い目付きをして身構えている。蓮華座の獅子さえ、今にも吼え出しそうに見える。
華厳五十五所絵巻 37 守護一切城増長威徳主夜神 新・善財童子 求道の旅より

「善財よ、よくぞ参った。儂は菩薩の甚深自在の妙音という解脱を体得しておる。
儂はあらゆる衆生にこれらの法を施し、金剛力士の如き仏力と善知識を頼りとして、一切の煩悩、一切の惑障の山を打ち破ってきた。そのようなとき、儂は十種の観察によって法界に通暁できたのじゃ。
華厳五十五所絵巻 37 守護一切城増長威徳主夜神 新・善財童子 求道の旅より

行かれよ善財、ここなるビルシャナ世尊の足下に、開敷一切樹花主夜神という夜神が来ており、菩薩は衆生をどのようにして真理に目覚めさせればよいか尋ねられよ」
華厳五十五所絵巻 37 守護一切城増長威徳主夜神 新・善財童子 求道の旅より

善財童子はこの夜神が説き明かす菩薩の解脱を聞くうちに、この甚深自在の妙音という解脱を体得して、無辺の三味門の海に入り、広大な陀羅尼門の海に入り、菩薩の大神通の光輝を得て、全身が喜びに満ち溢れて来るのを感じた。その喜びのまま、善財は守護一切城增長威德主夜神を讃嘆する詩頌を唱えて主夜神に頂礼し立ち去った。
ビルシャナ世尊の足下に来ている開敷一切樹花主夜神の許に行くことになった。


38 開敷一切樹花主夜神(第七の夜の女神サルヴァ・ヴリクシャ・プラプッラナ・スカ・サンヴァーサー)
毘盧遮那仏の足下、 第六の女神の隣で、「広大な喜びを産みだす大満足の光明」という菩薩の解脱を得、 如来の徳により衆生を包容する智慧と方便の光明をもつ(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

獅子座の礼盤上に一枝の花を手にして坐っておられた。楼閣の周りには、花開いた樹木が立ち並び、その下に異形の天部衆が合掌しながら、あるいは跨り、あるいは目を爛々と輝かせながら夜神の説法に聞き入っている。善財童子は夜神に向かって恭しく合掌した。
儂の本領は広大な喜びを生み出す歓喜の光明という菩薩の解脱を会得したことじゃ。この解脱に入れば、如来の福徳によりよく衆生を導く方便智を知ることができる。
華厳五十五所絵巻 38 開敷一切樹花主夜神 新・善財童子 求道の旅より

儂はこの世尊の威神力に支えられて、衆生たちの願いを清浄なものに、善根を修めた衆生たちが心堅固にして自在にことが運ぶようにと、そのように欲して法を説くことができるのじゃ。儂もこの境地に至るには長い長い過去世を経ねばならなかった。
華厳五十五所絵巻 38 開敷一切樹花主夜神 新・善財童子 求道の旅より

善男子よ。儂はこの出生広大歓喜光明という菩薩の解脱を知っているのみじゃ。
華厳五十五所絵巻 38 開敷一切樹花主夜神 新・善財童子 求道の旅より

行きなされ。まさにこの菩提道場に大願精進力救護一切衆生という夜神がやってきて、世尊のもとにいる。その夜神に尋ねられるとよかろう」
善財くんは続いて大願精進力救護一切衆生夜神の許へ。


39 大願精進力救護一切衆生主夜神(第八の夜の女神サルヴァ・ジャガッド・ラクシャサー・ブラニダーナ・ヴィーリヤ・プラバー)
同じ説法会の獅子座において、「あらゆる衆生を願いに応じて成熟させ、善(根)を産み出すように勧告する」という菩薩の解脱を得、一切法の自性の平等性に目覚める(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

善財童子は、開敷一切樹花主夜神から同じ菩提道場の世尊のもとにやって来ていると聞いた大願精進力救護一切衆生主夜神を訪ねた。夜神はあらゆる衆生の宮殿を映し出すという立派な獅子座に安坐し、その頭上には侍者がもつ不思議な天蓋が掛かっていた。
この女神も髭がある
華厳五十五所絵巻 39 大願精進力救護一切衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

善財童子はそのような夜神の姿を見てぴたりと跪き、やおら合掌して夜神を仰ぎ見た。そうすることしばらく、突如善財童子には十種の思念が湧き上がり、善知識とあい通じる心を得たのである。
善財童子はこれら十種の浄らかな思念を得たことによって、この夜神の解脱に通じるものを仏国土の微塵数だけ得たのである。
善財童子は、そのような菩薩たちに通じあうものを数え切れないほど得たのである。童子はまさに身も心も浄らかに澄みきり、夜神に尋ねた。
「夜神よ、あなたは菩薩の不可思議な解脱を私に解き明かして下さいました。どうかお教え下さい。あなたの解脱は何と言われるのでしょうか。あなたが無上の悟りを求めて発心されてからどれほどの時が経ったのでしょうか」
華厳五十五所絵巻 39 大願精進力救護一切衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

「善財よ、これはあらゆる衆生に、願いに応じて善根を生じさせるよう教化するという解脱だ。儂はこの解脱を修得したことによって、すべての法の自性の平等なることを悟り、あらゆる法の本性に入って無依の法を依り所とすることができた。もはや世間に煩わされることがないのだ。
儂が解脱を得ようと発心してからどのくらい時が経ったか、どのくらい劫が過ぎたかということじゃが、善財よ、実は菩薩たちの智の日輪はそうした分別を超えているのじゃ。
華厳五十五所絵巻 39 大願精進力救護一切衆生主夜神 新・善財童子 求道の旅より

儂はこの教化衆生令生善根という菩薩の解脱を知っているが、あらゆる世間の境涯を超越し、あらゆる言語道の方便の海をことごとく理解する菩薩たちの行についてはよく知らないのだ。よければルンビニーの森に妙徳円満という女神が住んでいるから菩薩行について尋ねられるとよい」
ルンビニーって、釈迦牟尼が生まれたところ?


40 妙徳円満主夜神(森の女神ステージョー・マンダラ・ラティシュリー)
ルンビニーの森(嵐毘尼林)の中の楼閣で、「無量劫に亘り一切の境界における菩薩誕生の神変を示現する」という菩薩の解脱を得、毘盧遮那仏誕生の神変の海に悟入する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

ルンビニーの森にたどり着いてしばらくすると、目の前に立派な高殿が現われ、そのなかの宝蓮華獅子座に森の女神、妙徳円満が坐っていた。森の精たちが女神を取り囲んで説法を聞いている。善財童子は自分も説法を聞こうと、急ぎ石段を上がり、跪いて合掌した。
華厳五十五所絵巻 40 妙徳円満主夜神 新・善財童子 求道の旅より

「善財よ、菩薩が誕生するにはそれなりの縁が要りまする。それには十種あり、それぞれ受生蔵と言います。
善財よ、実はわらわは、無量劫にわたり一切の菩薩誕生の神変を現わすという菩薩の解脱を体得しておりまする。わらわは一切の菩薩の誕生に親しくお仕えしたい、とりわけビルシャナ如来の尊き誕生にはぜひとも手をお貸ししたいとの誓願を起こし、その昔日の誓願により、わらわはこのルンビニー園に生まれ申した。
摩耶夫人がカピラ城を出られ、ルンビニー園のプラクシャ樹下でご休息なされますると、その光明はいっそうの輝きを増しました。それは摩耶夫人のお身体全体から光明が放たれていたからでありまする。吉兆はさらに続きました。菩薩誕生の瞬間が近づきますると、摩耶夫人の目の前の大地が割れ、大きな摩尼宝石の蓮華が出現しました。それは蓮弁といい、華芯といい、無数の宝石が配列され、まさに見事なものでありました。その後菩薩は摩耶夫人の胎内から無量の光明を放たれながら出現されました。それはまるで、日輪が天空の雲間から幾筋もの光明を四方に放ちながら出現するようなものでありました。
華厳五十五所絵巻 40 妙徳円満主夜神 新・善財童子 求道の旅より

善財よ、わらわはこのように自在受生という菩薩の解脱を知るのみです。行きなされ。 まさにカピラ城に瞿婆という釈迦族の娘が住んでおりまする。菩薩行について尋ねられるとよろしいでしょう。
ルンビニー園の森の女神は別れぎわ、カピラ城は釈迦族の瞿婆女人に会うようにと勧めてくれた。善財童子はルンビニーからカピラ城へとまた旅に出た。


41 瞿婆女人(シャカ族の女ゴーパー)
カピラヴァストゥ城の普現法界光明という菩薩の講堂の蓮華座において、「すべての菩薩の三味の海の真理の観察の境界」という菩薩の解脱を得て、衆生たちの行なうすべての業やその果報を知る(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
すべての菩薩の三味海を観察するという解脱を会得しております。

カピラ城に入り、菩薩方が集まっておられるという普現法界講堂に近づくと、その講堂の主ともいうべき無憂徳女神が善財童子を出迎え、善財童子の頭上に天上の華を散らして祝福した。 
華厳五十五所絵巻 41 瞿婆女人 新・善財童子 求道の旅より


瞿婆女人にまみえて合掌した。 女人は大勢の侍女にかしずかれ、その清純な面立ちは智の日輪を思わせるものがあった。
ここにも異時同図が見られる。
華厳五十五所絵巻 41 瞿婆女人 新・善財童子 求道の旅より

太子(釈迦牟尼世尊)と私はかの勝日身如来に供養し、その後も次々に出現された如来方に供養して参りました。そして最後に広大歓喜如来が出現され、その如来の法門を拝聴したとき、私には智の眼が具わり、一切の菩薩の三味海の境界を観察するという菩薩の解脱を会得したのです。
華厳五十五所絵巻 41 瞿婆女人 新・善財童子 求道の旅より

ただ私は菩薩方の種々の解脱を会得したものの、普賢なる菩薩の解脱には到りませんでした。それはあまりにも広大無辺な真理だからでありましょう。善財よ、実はこの同じビルシャナ世尊の足下に、世尊の母后摩耶夫人がおられます。尋ねられたらよろしいでしょう」
なんと摩耶夫人に会えるとは。


42 摩耶夫人(菩薩の母マーヤー王妃)
毘盧遮那仏の足下の蓮華座において、「偉大な誓願の智の幻の荘厳」という菩薩の解脱を得、菩薩の生母となる(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

善財童子は瞿婆女人から教えられた菩薩としての心得について、あれこれ思いめぐらしながら摩耶夫人のもとへと向かった。すると天上からはらはらと蓮華の花びらが舞い降り、善財童子の頭上に声が響いた。見上げると宝眼という名のカピラ城の女神が呼び掛けている。
「善財よ、そなたはまず心の城の守りを固めるべきです。それにはこの世の楽しみを貪らないことよ。そして如来の十力で心の城を荘厳し、嫉妬や物惜しみから離れて心の城を浄化し、一切智を求めたいといっそう精進に励んで心の城を増強することです。心を惑わす様々な障害に出会おうとも、守りを固めておればいずれは善知識が眼前に現われるというものですよ」
善財童子は励ましの言葉を聞いてうれしくなり、歩みを進めると、今度は蓮華法徳という名の天女が、摩耶夫人を讃嘆しながら、心の願いを明らかにする光、歓喜をいっそう増す光、苦痛を喜びに変える光、様々な色光の光網を善財童子の頭上に放った。すると善財には広大な仏国土が照らし出され、そのすべてのところに一切の如来がおられるのが見えたのである。
華厳五十五所絵巻 42 摩耶夫人 新・善財童子 求道の旅より

シャカム二世尊の母后、摩耶夫人のもとへと向かう善財童子の頭上でカビラ城の守護神宝眼(鬼形神)が励まし、天女の蓮華法徳が光網を放った。
華厳五十五所絵巻 42 摩耶夫人 新・善財童子 求道の旅より

 「善財よ、五体投地をして善知識への思いを深くし、心を身体に替えて進むことです」 
と守護神スネートラに諭されたとおり、善財童子は五体投地をして瞑想に入った。何時経ったであろうか。突然目の前の大地が割れ、そこから大きな蓮華の蕾がすくすくと現われたではないか。目を凝らすと蓮華は色あざやかな宝石から出来ている。やがて蕾はゆっくりと花弁を花開かせた。
華厳五十五所絵巻 42 摩耶夫人 新・善財童子 求道の旅より

なんと蓮台のうえには宝形造りの楼閣が乗っており、その中央、摩尼宝石の蓮華座に美しい女性が坐っておられた。シャカムニ世尊の母后摩耶夫人であった。
善財童子は摩耶夫人のこの世を超えたお姿を見た。それはすべての衆生の心の願いのままに化現する幻のような姿であり、虚空界のような清浄なる姿であり、生と死に係わりない無尽の姿であった。
華厳五十五所絵巻 42 摩耶夫人 新・善財童子 求道の旅より

ただ私は大願智の幻荘厳という菩薩の解脱を知るのみです。行きなさい、善財よ。この三十三天の宮殿に天主光という天の娘がおられます。菩薩はいかにして菩薩行を実践すべきか尋ねなさい」
善財は摩耶夫人に頂礼し、幾度となく見つめて去った。
三十三天の宮殿にいる天主光という天の娘を訪ねることにした。

43 天主光天女(天の娘スレーンドラーバー)
三十三天の王宮において、「無礙の憶念の清浄なる荘厳」という菩薩の解説を得、無数の如来にお仕えする(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
無礙念清浄荘厳という菩薩の法門に通達している

善財童子は摩耶夫人から教わった、次なる善知識天主光天女がおられるという三十三天の宮殿へ赴き、天主光天女に近づくと、頂礼して合掌し、 訪ねてきたわけを話した。
三十三天の宮殿は岩山のそこここに点在していて、善財くんは頂上にいる天主光天女のところまで上っていかなければならなかった。
華厳五十五所絵巻 43 天主光天女 新・善財童子 求道の旅より

「善財と言われまするか。よくぞここまで参られましたね。私は無礙念清浄荘厳という菩薩の法門に通達しておりまする。
華厳五十五所絵巻 43 天主光天女 新・善財童子 求道の旅より

お行きなさい、善財さま。カピラ城に遍友という子供たちの教師をなさっている方がおられまする。その方に菩薩行のことをお尋ねになってはいかがでしょう」
善財くんはカピラ城に行くことを勧められた。


44 遍友童子(ヴィシュヴァーミトラ童師)
カピラヴァストゥ城において、次の善知識を紹介する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)

天主光天女から言われて善財童子は、三十三天の宮殿から降り、カピラ城にやって来た。
すると、子供たちを教えているという遍友は、まだあどけなさの残る若者であった。悟りを得るにはどのような菩薩行を学ぶべきかと、訪ねて来たわけを話すと、
同書の注釈は、善財の瞑想は天上界から地上界に降りてきたとする。
華厳五十五所絵巻 44 遍友童子 新・善財童子 求道の旅より

「ここカピラ城内に善知衆芸覚童子という長者の子がいて、菩薩から文字に関する学問を学んでいる。彼に尋ねたら」
と、童子は言うのみであった。
同書の注釈は、この善知識は子供たちの教師をしており、正しくは遍友童子師(漢訳三種)もしくは遍友童師というべきであろう。また他の善知識のように、みずからが体得した法門、あるいは菩薩の解脱を説くことなく、ただ次の善知識を紹介するのみというのはこの遍友童子だけであるとする。

華厳五十五所絵巻 44 遍友童子 新・善財童子 求道の旅より


       旅する善財童子 23-33
 

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参考文献
「新・善財童子 求道の旅-華厳経入法品・華厳五十五所絵巻より-」 森本公誠 2023年 朝日新聞社