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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2026/02/24

アナトリア考古学研究所が発掘しているヒッタイト時代の遺跡


アナトリア考古学研究所が発掘調査しているのは、カマンカレホユック以外にビュクリュカレとヤスホユックのヒッタイト時代の遺跡がある。
地図 Google Earth より
ⓐアンカラ ⓑビュクリュカレ Büklükale 遺跡 ⓒカマンカレホユック遺跡 ⓓヤスホユック Yassıhöyük 遺跡

ⓑビュクリュカレ遺跡について古代オリエント ガイドブック』は、前 17世紀中ごろから中央アナトリア北部のハットゥーシャを中心として栄えたヒッタイト王国があった。それ以前のアナトリアでは、カールム(アッシリア商業植民地)時代のキュルテペ遺跡をはじめとする王国が隣立してアッシリア商人が活躍していたが、それらが崩壊してからヒッタイト王国成立までのことは詳しくわかっていなかった。しかし、現在発掘中のビュクリュカレ遺跡ではその未解明の時期が明らかにされはじめているという。
「暗黒時代」とも呼ばれてきた空白の時代に光が差してきたのですね。 
ビュクリュカレ遺跡 Google Earth より

この遺跡のすぐ南(上流)にアナトリア・セルジュク朝期に建造されたチェシュニギル ÇEŞNİGİR 橋がある。  カマンカレホユック博物館の写真パネルより


ビュクリュカレ遺跡 宮殿跡の発掘 写真パネルより

発掘中の貯蔵庫に並んだ大甕とその中に入る学生たち 写真パネルより
貯蔵用大甕が並んでいる。大甕の大きさと器壁が薄いことが分かる。

同書は、ビュクリュカレ遺跡の考古学調査の目的は、ここの前2千年紀、特にヒッタイト帝国時代の地方都市を調査し、カマン・カレホユック遺跡で確立した中央アナトリア編年における空白部を埋めることです。発掘調査は2009年に開始され、今日まで毎年継続されている。これまで地中磁気探査では「下の町」と呼ばれる都市部ではヒッタイト時代の箱式都市壁とそれより古い、アッシリア商業植民地時代と思われる二つの都市壁が確認されているという。
写真パネルの右の白っぽい城壁がヒッタイト時代だろう。すると、左のグレーの城壁はアッシリア商業植民地時代になる。


城塞部の発掘調査ではアッシリア商業植民地時代に属する宮殿址と思われる巨石建築遺構が出土している。
発掘では、長さ2mを超える巨石が用いられた、高さ7mを超える壁を持つ巨石建築物(長さ50×幅30m)が出土した。この建物は、その規模に加え多数の穀物貯蔵壺が出土し、公共建築物か王宮と考えられ、カールム時代からヒッタイト王国の初めまで居住されており、ヒッタイト王国成立前後の歴史解明において貴重な資料となっているという。
ビュクリュカレ遺跡 宮殿跡の内部 古代オリエント ガイドブックより


同書は、この大型建築物の南東隅からは二つの地下室が見つかり、大量の酒杯とともに白い大理石製のヒョウの頭部小像をはじめとする貴重な遺物が多数出土した。廃棄された大量の土器から判断すると、3000人以上が儀礼に参加し、酒を飲んだ椀を地下室に投げ入れ、地下室の底からのびる「坑道」から地界の神をよび寄せたと考えられる。これはヒッタイト時代以前のアナトリアの土着民ハッティの伝統である建築儀礼と考えられ、ビュクリュカレ遺跡の住人がハッティ人であった可能性を示しているという。

豹の頭部小像 ヒッタイト時代 大理石 ビュクリュカレ遺跡出土 
『古代オリエント ガイドブック』は、地下室から出土した。王笏に付けられたものと思われ、斑点にはエジプシャンブルーが、目には金とラピスラズリが象眼されているという。

エジプシャン・ブルー について『古代オリエント事典』は、エジプト青ともよばれる、珪酸・銅・石灰にアルカリ溶剤を加え加熱して溶融した化合物、艶のないざらっとした質感が外見上の特徴、しばしばガラスやその類似物質と混同されるが、その構造の大部分が結晶質である点でガラスと、表面に釉の皮膜がない点で施釉石や施釉陶器と、中心部まで均質である点でファイアンスと、それぞれ相違し区別できる。上記原料を粉末状にして混ぜ合わせ、 坩堝で摂氏900-1000度に加熱し2段階溶融して製造された、天然にもごくまれに存在するが、人工物はエジプトの第4王朝時代に初現するとされ、第18王朝に盛期を迎え、第 26王朝前半には、表面に赤・黄などの彩色を施したものも認められるという。


カマンカレホユック博物館で展示されていたガラス瓶は驚くべきものだった。

ガラス瓶 古ヒッタイト時代 前1600年頃 ビュクリュカレ出土
説明パネルは、前1600年ごろに消失した石造建築の一室の床面から出土したガラス製細口壺片は人類のガラス製作史上大きな意味を持ってる。ガラス製容器としては世界最古に年代付けられ、さらにガラス製作史上忘れ去られていたアナトリアで出土したことは、これまで古代ガラス製作の中心地とされていた北メソポタミア及びエジプトとは異なるガラス製作の中心地がこのアナトリアにあった可能性を示しているという。
ガラス製作はヒッタイトとアッシリアに挟まれていた国ミタンニが最初だと思っていたのに、ヒッタイトだったとは青天の霹靂や~、と早合点していた。

ところが、『古代オリエント ガイドブック』は、ガラス製作技術は前3千年紀ごろにメソポタミア北部で出現し、ヒッタイトに敵対したミタンニ王国を建国したフリ人が発展させたと考えられています。ビュクリュカレでガラス壺が出土したということは、フリ文化がヒッタイト時代よりも前にすでにアナトリアに深く浸透していたことを示しています。フリ人のガラス職人がアナトリアで活動していたのかもしれませんという。
制作地はヒッタイトだが、ガラス工人はフルリ人ということかな。こんな場合ヒッタイトでつくられたものとして良いのか、ミタンニとするのが適切なのか。

元の色や瓶の下部(何故か展示されていない) 写真パネルより

写真パネルより
このコアガラスが出土したのは、宮殿跡の地下室に廃棄された土器に紛れて。これがその地下室かどうかは分からないが😓


これまで見てきたコアガラスの瓶で似たものと言えば、イラク、アッシュール出土のコアガラス(前15世紀)。

西洋梨形瓶 イラク、アッシュール出土 前15世紀 高23.3㎝ ベルリン国立博物館蔵
元はどんな色をしていたのだろう。テペ・マルリク出土の モザイクガラス坏(前12-11世紀)のように本体が白で文様が赤だったとしたら、かなり派手な器だったことになる。
羽状文が頸部に2本、そのうち下方のものは上下に縄目文、胴部下方に1本、その上に縄目文。頸部の縄目文の下に垂綱文、その下に縄目文がもう1本。
そして、頸部と胴部の主文は縄目文を交差させた組紐文(ギローシュ)とその上下、真ん中の円文(一色のため目玉文とまではいかない)だ。このような文様帯はコアガラスでは今までには見られないものだ。
『世界ガラス工芸史』は、アッシリア帝国の首都であったアッシュールからは、やはり数多くの容器や容器断片が出土するが、この遺跡からは他の遺跡と異なった器形のガラス容器、例えば容器の底部にボタン状の突起のついた西洋梨形瓶や、三足付きゴブレットなどの容器が出土している。それだけでなく文様も眼球文を捻り文が囲んでいるというような同時代のエジプトでも見られるような文様もみられるという。
テペ・マルリク出土のモザイクガラス坏の脚部に似ている。
このような円文も目玉文というのか。
三足付きゴブレットはこちら
イラク アッシュール出土の西洋梨形瓶 前15世紀 世界ガラス工芸史より

ガラスをもう1点、何かわからないが、右端に穴があるので、丸い形のペンダントトップかも。


ⓓヤスホユック遺跡 写真パネルより
説明パネルは、ヤッスホユックは、クズルウルマック川の描く曲線に沿ってそのすぐ東内側にある遺跡としては、発掘調査されている数少ない遺跡の一つで、前3-1千年紀にかけて(青銅器時代-鉄器時代)、南東アナトリアと中央、北アナトリアを結ぶ古代の幹線路に沿って存在した重要な都市を代表する遺跡と考えられる。
ヤッスホユック頂上部で発掘されている大遺構は、北西-南東方向の軸をもち、15.40 X 11.70 m の広さをもつ中央の中庭もしくは謁見の間(R8)を挟んで、廊下や各部屋がまさしく左右対称に配置されている。所により2.30m余りの高さで残っている壁は、石積みの上に日乾煉瓦が積まれ、壁の前面は厚い化粧土と漆喰が塗られていた。R8の北西壁の中央部には、3段のステップがついた壇が設けられ、中央部には鍵穴型の炉(直径220㎝の円形の炉に110X80㎝の矩形の付帯部)が設置されている。ほとんどの部屋の床面には多数の中、大型の土器が押しつぶさてはいるが原位置で検出されている。展示されている遺物の多くはR8の南側の廊下状の細長い空間R27から出土した。
この建物は炭素年代測定により前2260-2135頃(前期青銅器時代末)と年代付けられているという。
ヤスホユック遺跡はビュクリュカレ遺跡よりも更に古そう。

中央に聖なる炉
央部には鍵穴型の炉(直径220㎝の円形の炉に110X80㎝の矩形の付帯部)が設置されているという。

近くの部屋

残念ながらヤスホユックで出土したものを撮影しているのかよく分からない。



参考文献
シリーズ「古代文明を学ぶ」 「古代オリエント ガイドブック」 阿倍雅史・津本英利・長谷川修一編 2024年 新泉社

「古代オリエント事典」 古代オリエント学会編 2004年 岩波書店

参考にしたもの
カマンカレホユック博物館の説明パネル