『鉄を生みだした帝国 ヒッタイト発掘』(以下『鉄を生みだした帝国』)は、王墓は全部で13発見された。墓は竪穴の形式をとっており、長方形の形をしていた。周囲は自然石で囲まれていた。13の墓の形式は、ほぼ同じであるが、上層部に向かうに従って、つまり時代が下るにつれて、しだいに簡素化されていったという。
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| アラジャホユックの13の王墓 初期青銅器時代 鉄を生みだした帝国 ヒッタイト発掘より |
アラジャホユックで復元展示されている六つの王墓はAからLのどれにあたるのだろうか。説明パネルがあったのに写していなかった。
アナトリア文明博物館での青銅器の製作の再現。
説明パネルは、前3000-1950年、アナトリア文明博物館に収蔵されている初期青銅器時代の中心地、主にアラジャホユック、ホロズテペ、エスキヤパル、カラオーラン、アフラトルベル、ベイゼスルタン、カラタシュセマユク、ハサンオーランからの出土品。
銅と錫を合金にして高温で溶かし、冷やすと再び硬化する青銅が発明され、鉱業は生活のあらゆる側面に影響を及ぼすようになったという。
アナトリア文明博物館の説明パネルは、展示されている青銅製祭祀用具は、アラジャホユックとホロズテペの王墓から出土したものという。
『鉄を生みだした帝国』は、周囲に付属的にリングがついているものがある。スタンダードをふると、そのリングがカチカチなるような構造である。すべてのスタンダードが王墓内から出土していることから推測して、私はこれは葬礼に使用されたものではないか、と考えているという。
スタンダード(牡鹿と牛) 前3千年紀後半 アラジャホユックL墓出土 24㎝
L墓はチョルム考古学博物館だけでなく、アラジャホユックにも復元展示されていた。
『アナトリア文明博物館図録』は、円盤形のスタンダードにも、基部附近に牛の角がシンボライズされた形で付加されている例が多く見られるという。
『アナトリア文明博物館図録』は、円盤形のスタンダードにも、基部附近に牛の角がシンボライズされた形で付加されている例が多く見られるという。
これは円盤の下両側に出た蛇みたいなものを指している。
そして円盤上部にX字形のある小さな輪っかが三つ。円盤部はX字形のある矩形が縦横に並んでいて、 アラジャホユックA墓出土の金冠と同じ文様である。
そして円盤上部にX字形のある小さな輪っかが三つ。円盤部はX字形のある矩形が縦横に並んでいて、 アラジャホユックA墓出土の金冠と同じ文様である。
上部に神が3柱、その外側に人物が3名、少し離れて1名が取り付けられていて、それぞれに鈴が四つずつ付いているように見える。三つの鳴り物と共に儀式の時に振り鳴らされて、邪気などを追い払っていたのだろう。
鹿と牛のスタンダード 前3千年紀後半 アラジャホユックB墓出土
牡牛よりも牡鹿の方が大きい。
右下が上のスタンダードで、左上はL墓と同じつくりのように見える。
複雑な作りのスタンダードと、単純な作りのスタンダードが同じ墓室にあることも。
スタンダードとサンディスク
大角鹿のスタンダードには長い柄が同鋳されている。
大角鹿のスタンダード アラジャホユックL墓出土
鹿の角は毎年生え替わるので、死者の再生を願って安置されたのかな。これはチョルム考古学博物館にあるL墓の復元展示にあった。
前後に展示されているサンディスクは、双方とも車輪状の輪っかが上部に取り付けられているが、奥の緑青の出ているものの方が古そう。後方のものは正方形の中にX状に区切られているが、前の方はそれが崩れて、不揃いな三角形の集まりのようになっているからだ。最も同じ墓室から出土した可能性はある。右側のスタンダードはもっと複雑。X字形のある矩形が縦横に並ぶサンディスクの中央下に鹿が嵌め込まれて、枝の多い角を前面に出している。
儀式用スタンダード アラジャホユック出土 高さ34㎝
この卍もアラジャホユックの王墓の一つから出土している。正方形を斜めにして三つの頂点に卍の入った鳴り物が掛けてある。これはL墓にもあった(四つ上の写真)。
サンディスクは様々なヴァリエーションがあるし、サンディスクを伴わず動物だけのものもある。
サンディスクと動物のスタンダード アラジャホユックの王墓出土 高23㎝
特に気にしていなかったが、動物が牡鹿でも牡牛でもないのに気が付いた。と言って耳が大きいので馬ではないのでロバだろう。
二つの甕と奥の牡牛のスタンダードは同じL墓から出土している。
牡牛のスタンダード
『トルコ文明展図録』は、牡牛の胴と頸のまわりと、角の先端には、太い帯状の銀象嵌が、また、眉間には長三角形の銀象嵌が施されているという。
右端のものはアラジャホユックの王墓の一つから出土したもの。左は羊毛用の紡錘車だろうか。
その隣の大角鹿はチョルム考古学博物館のL墓にもあった。
今回撮影していなかったが、同館には象嵌が施された牡鹿のスタンダードもある。
牡鹿のスタンダード 前期青銅器時代、前3千年紀後半 青銅銀象嵌、鋳造および鍛造 高52.5㎝体長26㎝ アラジャホユックB墓 アナトリア文明博物館蔵
『トルコ文明展図録』は、上部が四つに分かれている細長い柱状の台に4足を接着させて立つ牡鹿像。一対の長い枝角をつける。頭部の両側に出た小突起は耳を表わす。頭・枝角・耳はそれぞれ異なる3枚の銀薄板で被覆されている。
像は別々に鋳造された幾つかの部分を接合する方法で製作されている。
アナトリアにおいては前2千年紀と同様に、前期青銅器時代においても、牡鹿が神聖な動物であったことが考えられる。牡鹿像は、棒状のものの上につけられ、祭祀においてシンボルとして使用されたものであろうという。
同展図録は、左右両側の肩部から腰部にかけて、種々の銀象嵌文様が施されている。背骨の位置に直線文を配し、これを軸にして左右対称に、肩部から脇腹、腰部にかけて、7個の二重同心円文を描いている。また肩上部と腰上部には、左右対称に十字文が描かれている。頸部には、三重の連続山形文を、これも左右対称になるようにめぐらせている。尾の先端には銅板が覆せてあるという。
『鉄を生みだした帝国』は、発掘されたスタンダードのうち、上層部の王墓から出土したものは、墓の形式と同様、形のうえでも小さくなり、簡素化されており、周辺に付属していたリングも姿を消しているという。
スタンダード(壁に掛かったもの) A墓出土 銀 高23.4㎝幅24.8㎝ アナトリア文明博物館蔵
『トルコ文明展図録』は、半円形の平盤。中央に円形の穿孔がある。孔の縁は、背面へ折り返されている。一般には「日輪」として知られるという。
ところで、『アナトリア文明博物館図録』には、副葬品と共に埋葬されていた王妃の隣りに王の遺体をおさめようとしている想像復元図がある。
王の遺体をのせた寝台の四方に鹿のスタンダードが立てられ、王墓全体の上に仮設した天幕の枠に幾つかサンディスクが並んでいる。儀式の後に墓室に副葬されたのだろうが、見学した各王墓には西北隅に一名の遺体しかなかったのだが。
ついでに
青銅器時代の墓より出土したものの中に四輪の牛車があった。
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参考文献
「鉄を生みだした帝国 ヒッタイト発掘」 大村幸弘 1981年 NHK BOOKS
「アナトリア文明博物館図録」 アンカラ、アナトリア文明博物館
「トルコ文明展図録」 中近東文化センター 1985年 平凡社
参考にしたもの
現地説明パネル





































