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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2025/09/30

ヒッタイト時代の装飾付き壺


貼付文装飾付き壺 古ヒッタイト時代、前1650年頃
説明パネルは、青銅器時代の土器はヒッタイト人によって途切れることなく継承された。日常生活で使われた壺は、礼拝用に設計された壺とは容易に区別できる。祭祀用の壺は器壁が薄く、金属のような光沢がある。その上立体的で、彩色などが施され、牛の彫刻、神や女神の像など、宗教的なものもあるという。
頸部に二段、胴部にも二段にわたって祭祀の様子などが描かれている。胴部には四つの大きな把手で四つの区画ができている。

展開図
1段目は荷車を牽く牡牛とその前には楽士たち。
それは2段目左に続き、御簾をかけた聖所へ。聖所には聖なる物が置かれ、何か儀式が行われている様子。
3段目は鹿や羊を牽く人たち、その前の人の中には竪琴を弾く人もいる。右端の人々に向かって椅子に坐る人がいる。
4段目は牡牛たち。


1段目は荷車が部分的に残っている。2段目は右方向に歩く女性(長い服装)たち。3段目は男性(短い服装)4段目は右向きの牡牛。

荷車は幌をかぶせていて、中に供物が入っているのだろうか。後ろに人が乗っている。
興味深いのは、車輪がスポークではなく、隙間のある板を5枚並べて、中央の板に四角い軸が出ていることだ。メソポタミアのウル第1王朝時代(前2500年頃)の四輪立ての戦車の車輪が2枚の板を合わせたものだったのに比べると進歩しているというものの、あまり丈夫だったとは思えない。
2段目の人物はかなり盛り上げている。

その続き
1段目は牛車を挽く人の前に楽士たちが行進し、2段目は婦人たちを従えた黒い服の巫女?とその前の二人は笙のような楽器を奏でて、祭儀所の入口に到着している。


3段目は展開図にはないが、男性は左手に白いものを提げている。4段目は角を立てて威嚇する牡牛。


続きの面
この面からは口縁部の上に平たい突起がある。
1段目は男女の楽士たちで、右方向に行進するだけでなく、向かいあっている者も。2段目は台の上に二人、その右に一人。3段目は白い服の男性たちと台を挟んで向かい合う人物。4段目は牡牛

1段目に牡牛を挽く人物の前に楽士たちの行進。2段目は御簾の垂れた祭祀の場だろうか。

続いて1段目は楽士たちの行進。2段目は建物の中?の高い壇の上で二人が向かいあい、奥の男性と一緒に盃またはリュトンで何かを飲んでいるようだ。

3段目は鹿を挽く男性。鹿の体は厚みがあるのに、角は描かれているだけ。4段目は牡牛。

3段目は羊を運ぶ男性と前には楽器を持たない男性たち。4段目は牡牛

続き
3段目竪琴を弾く男性とこちらに後ろ姿を見せる男性、間に祭壇のようなものが置かれ、反対側の椅子に腰掛けているのは祭祀を司る巫女?


貼付文装飾付壺 古ヒッタイト時代 フセインデデテペスィ出土
もう一点は頸部の貼付文装飾が残っている程度で把手もない。

頸部には牛のような動物や宙を舞う人物などが残っているので、軽業師たちの様子を表していたのではないだろうか。

『トルコ三大文明展図録』に、ひょっとするとこの反対側ではないかと思われる壺があった。しかもチョルム博物館の館蔵品と明記されている。

浮彫装飾壺 古ヒッタイト時代 
同展図録は、把手なし。口縁部外側直下に幅7㎝、長さ52㎝の一列の帯状装飾が施されている。帯状装飾帯は赤色だったのが、火災で変色している。轆轤製。
高浮彫で描かれている主題は祭儀儀礼の一場面である雄牛への跳躍場面であるという。
これがチョルム博物館での写真にあたる。

それに歌手と演奏家が随伴している。一頭の雄牛、2人の女性歌手、7人の演奏家のうち5人がシンバルを2人が弦楽器を演奏しているが、シンバルを演奏する一人が女性である以外は全て男性である。そして3人の男性軽業師と、一人の牡牛を捕まえている男性が描かれているという。
以前は貼付文ではなく高浮彫と思われていたようだ。楽士たちは裾の長い服を着ていても男性だという。
チョルム博物館蔵フセインデデテペスィ出土浮彫装飾壺 トルコ三大文明展図録より


貼付文装飾付き壺は『世界美術大全集東洋編16 西アジア』にあったが、その作品はアンカラのアナトリア文明博物館が所蔵しており、後日実物を見学した。

貼付文装飾付き壺 前16世紀 トルコ、イナンドゥックテペ出土 粘土 高82㎝ 径46㎝ アンカラ、アナトリア文明博物館蔵
同書は、ボアズキョイから北西に100㎞ほど離れた位置にあるイナンドゥックテペの遺跡は、土取りによって大きく破壊され、緊急の発掘調査が1966年に実施された。その調査で神殿が発見され、そこからハットゥシュリ一世王に関係する粘土板文書が出土したことから、前16世紀ころの古ヒッタイト時代に属するものであることが明らかになった。
この神殿の一室から発見された全面を貼付文装飾によって覆われる土器は、例の少ないこの時代の美術の様相を明らかにしてくれる優品である。
こうした儀礼の場面は、ヒッタイト帝国時代のものであるアラジャ・ホユックのオルトスタット(腰羽目用石板)にも類似するものが認められ、興味深いという。

展開図
土器の外面は、細い突帯や2条の突帯によって水平に4段に区画され、そこには土器を全周する形でさまざまな儀礼の場面が描かれている。
上の2段には、さまざまな楽器を持った楽士、曲芸師に加え、聖婚の場面が描かれ、下の2段には、楽士のほかに祭壇を挟んで執り行われた儀礼のようすや牛を神に捧げる場面が描かれている。
人物などは貼付文によって表され、赤・黒・白の顔料で彩色が施されている。衣服は男性と女性の違いがはっきり表されており、男は短いマントを羽織り、その下からは一部腿の部分まで下がる衣服が顔をのぞかせている。また靴も履いている。女性は足首まで達する長い衣服を着用し、ベルトをしている。また後ろに束ねた髪が長く垂れ下がるのも特徴であるという。
アナトリア文明博物館蔵 イナンドゥックテペ出土貼付文装飾付き壺展開図 世界美術大全集東洋編16 西アジアより

口縁部は写せなかったが、チョルム博物館の貼付文装飾付き壺と同様に口縁部に二つの平たい突起がある。
同書は、口縁部の内側には牛の頭部が四つつけられ、それぞれが管によって結ばれていて、牛の口から液体が流れ出す仕組みになっているという。
そんな仕掛けがあろうとは。やや分かりにくい解説だが、『トルコ三大文明展図録』にそれが分かる図版があったので後に。

1段目は竪琴、タンバリンの女性を奏でて行進。2段目はタンバリン奏者の前の女性は杖を担いでいる。

3段目は竪琴を奏でる人と竪琴を支える子供。続いて壇の左の男性は壺を、右の椅子にすわる巫女?は盃を掲げている。この壇はチョルム博物館本に表されているものに近似する。
4段目は四つ並んだ甕の一つ目を棒で混ぜる女性。

次の場面

1段目はタンバリン奏者の先には縄跳びをしていて、2段目は竪琴や笙のような楽器を奏でながら歩いている。

3段目は前の二人が小さな祭壇を運び、4段目は向かい合う女性の先に大きな竪琴を小さな人物が二人で弾いている。


更に続く。

1段目はタンバリンを叩く女性の間に弦楽器を弾く男性、2段目は高い壇の上に小さな人たち。

3段目は四人連れ、4段目は祭壇を挟んで椅子に坐る巫女たち。左の巫女は壺を前に置き、左の巫女は盃を掲げている。



最後の面

1段目は聖婚、2段目は祭壇や壺、テーブルに盛られた供え物?

3段目の左の3人の前には不明の人物がいて、その前に牡牛(または牡牛像)が祀られている。4段目は不明。


そして、貼付文装飾付壺の口縁部に突き出るものに繋がると思われる壺

立体装飾付容器 ヒッタイト古王国時代 エスキヤパル (非発掘品) 明褐色土、薄紅色スリップ・良好磨研 高59.7㎝、幅40.5㎝、口径38.5㎝ アナトリア文明博物館(アンカラ)
『トルコ三大文明展図録』は、漏斗状の頸部と円形の開口部、楕円形の胴部と丸底を持つという。
チョルム博物館本とアナトリア文明博物館本の把手は平たい帯状で実用には向いていないように思われるが、この壺の把手は小さいが丸みがあって、縄を通せば持ち上げられるのではないだろうか。
    アナトリア文明博物館蔵立体装飾付容器 トルコ三大文明展図録より

この壺はアナトリア文明博物館で、上から口縁部が見られるように展示されていた。

同展図録は、口縁内側に設けられた方形の注入口から注ぎ込まれた液体は管を通って内側に備え付けられた四つの雄牛頭部の口から容器内に流れ込むようになっている。
雄牛の角の間には杉綾文が、額には三角形が刻まれているという。
飾り壺ではなく、祭祀に用いられるものだった。これほど複雑なつくりを施すほど、その儀式は重要なものだったのだろう。
他の貼付文装飾付き壺も似たような構造になっているのだろう。

頸付け根部には三つの溝状装飾が取り巻いている。肩部には断面三角形の四つの垂直把手がシンメトリー状に配置されている。把手の間には四つの雄牛座像が配置されている。それらの胴部は高浮彫で様式化されて表現されている。頸部と外側に向けられた頭部は立体表現されている。
雄牛の下方にはそれぞれ同一の印章が押されているという。
四つの区画にS字を横にしたような文様が配置されている。
アナトリア文明博物館蔵立体装飾付容器 トルコ三大文明展図録より


ヒッタイト古王国時代はこのように凝った壺がつくられていた。





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参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 2000年 小学館
「ヒッタイトの歴史と文化 前2千年紀の忘れられた帝国への扉」 ビリー・ジーン・コリンズ著 アダ・タガー・コヘン日本語版監修 山本孟訳 2021年 リトン