ハトゥシャ遺跡のライオン門
外側で敵を威嚇するためのライオンではなく、『古代都市Ⅰ ヒッタイトの都ハットゥシャ アラジャフユクとシャピヌワ』(以下『古代都市Ⅰ』)は、威嚇するように口を大きくあけたライオンには、悪霊が城内に入るのを防ぎ、町を守る役割があった。城壁の外から見て左側のライオンの頭部は破損がひどく、最近修復を施されたという。
説明パネルは、開いた口と睨みつける目は、元々は別の素材で象嵌されていたが、ヒッタイトやメソポタミアの建築でよく知られたモチーフであり、防御機能を果たしている。ライオンの頭部は発見される前に破損していたが、現在は復元されているという。
確かに左のライオンは当時のものにしては不自然。
でも、もっと古くからライオンには毛渦文はあったのではと、あれこれ探していてやっと見つけた。田辺勝美氏の「アッシリアと東アジア文化の交流と伝播」という解説にあった。
同展図録は、毛渦文はメソポタミアやスシアーナにおいて前23世紀頃にライオン像の肩(前足のつけ根)の部分に施されるようになった(エジプトでも前3千年紀に類似の文様がライオン像の肩に施されるようになった。その後、この毛渦文は古バビロニア時代(前19-16世紀)を経てアッシリアのライオン像にまで伝えられたのであるが、上述したライオン像の毛渦文の位置は古バビロニア時代やカッシート時代(前16-12世紀)のライオン像に表された毛渦文のそれに等しいという。
残念ながら私にはそんなに古い時代のライオン像を見る術がない。
以前イスタンブール考古学博物館のオリエント館では後期ヒッタイト時代(前12-8世紀)のライオン像にある丸い装飾やX字形のものを見ていた。
前脚は揃えているのに、後ろ脚は歩いているように左脚が一歩前に出ている。その間に尻尾がある。メソポタミアのラマッスの影響かと思ったが、ラマッスは前脚を揃えて2本、側面から見た時用に向こう側の前脚が一歩遅れてもう1本、計5本ある。どちらがどちらに影響したのだろう。
外のライオンはたてがみははっきりわからなかったが、このライオンは菱形を並べたようなたてがみだ。
前脚の膝と後ろ脚の付け根に丸いものが毛渦文
ライオンの門番 後期ヒッタイト時代、前8世紀 アラム人(古代シリア人) ズィンジルリ、サマル宮殿建物P出土 玄武岩
外のライオンはたてがみははっきりわからなかったが、このライオンは菱形を並べたようなたてがみだ。
前脚の膝と後ろ脚の付け根に丸いものが毛渦文
アーモンドを規則正しく並べたようなたてがみだ。前脚の付け根に大きくX印がある。
脚はやっぱり5本で後ろ脚の間に尻尾がある。
そう言えば後期ヒッタイト時代のライオンの門番には翼がない。
バフラム二世のライオン狩り サーサーン朝 276-293年 イラン サル・マシュハド出土
その後のライオンまたは獅子の毛渦文についてはすでに獅子から狛犬へという記事にしています。
脚はやっぱり5本で後ろ脚の間に尻尾がある。
そう言えば後期ヒッタイト時代のライオンの門番には翼がない。
また、アンカラのアナトリア文明博物館でもオルトスタットにライオンの行進浮彫があった。これも後期ヒッタイト時代のものだが、大きな円にバッテンが線刻されている。
国王のライオン狩り 浮彫 アッシュールナシルバル二世 前875-860頃 ニムルド北西宮殿西翼のオルトスタット
同展図録は、首の部分に2本の矢を打ち込まれた雄ライオンが横たわっている。その右前足のつけ根の部分(肩近く)を見ると、渦巻きが1個描かれていることがわかるという。
同展図録は、しかし、アッシュールバニバルの宮殿のライオン狩り図のライオンではこの毛渦文がタテガミの中に移行しているという。
![]() |
| 新アッシリア ニネヴェ出土アッシュールバニパルのライオン狩り 大英博物館 アッシリア大文明展図録より |
これらライオン像の毛渦文は実は野生の若いライオンの肩に原則としてあるものであって、それをライオン像に再現したのであるという。
時代が下がった方が写実的な描写になったということかな。
同展図録は、このような毛渦文は以後、アケメネス朝(前6-4世紀)、アルサケス朝(前3-後3世紀)、ササン朝ペルシャ(3-7世紀)のライオン像に若干受け継がれていったという。
同展図録は、一方、中央アジアには、グレコ・パクトリア朝(前3-2世紀)のヘレニズム文化を通して、この西アジア系のライオン像が伝播し、毛渦文を肩に表したライオン像を描写した銀製碗などが制作された。ライオン像の毛渦文はその後も存続し、6-8世紀の西トルキスタンの美術にも類例を見ることができる。
一方、このギリシャ系文化はパキスタン北部のガンダーラにも影響を及ぼしたが、2-4世紀のガンダーラ仏教美術のライオン像においては、肩と尻の2ヵ所にこの毛渦文が配されるようになったという。
その後のライオンまたは獅子の毛渦文についてはすでに獅子から狛犬へという記事にしています。
関連記事
参考文献
「アッシリア大文明展図録」 大英博物館 1996年 朝日新聞社
「獅子 王権と魔除けのシンボル」 荒俣宏・大村次郷 2000年 集英社











