お知らせ

忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/04/24

アニ、セルジューク朝の石タイル1 4・5・6点星

アニ遺跡にはセルジューク朝時代の遺構が幾つか残っている。13:大モスク、19:キャラバンサライそして21:セルジューク朝の宮殿で、それぞれに赤と黒の色石のタイルによる装飾がみられる。
セルジューク朝の宮殿は遠方から眺めただけなので、門の壁面にタイル装飾があったが、それがどのような文様になっているのかまではわからなかった。
キャラバンサライの天井にはたくさんの文様があった。
キャラバンサライについてはこちら
当時陶器製のこのような色のタイルはなかったが、一つ一つの部品を1枚のタイル、何種類かのタイルで壁面を装飾していると考えると理解し易い。
下の写真には4点星・5点星・6点星・8点星、そして六角形の文様がある。
赤石の小さな4点星、黒石の変則的な四角タイルが4点星を取り巻いて、大きな4点星となる。それを更に菱形の赤石タイルが囲む。
4点星は意外と古い文様だ。

連続4射星形文鉢 赤(緑色に風化)と白色ガラス 北イラク、アッシュール311号墓出土 前7-6世紀(アッシリア期) ベルリン国立博物館蔵
白い部分を主文とすると4点星で、赤い部分を主文と見ると七宝繋文になる。
同じ文様はイスタンブール考古学博物館のオリエント館で見たが、製作年代がわからなかった。
ローマ郊外、4世紀に創建のサンタ・コスタンツァ廟 Mausoleo di Santa Costanza周歩廊の天井モザイクにも4点星を4つの菱形が囲む繋ぎ文様があった。
コスタンツァ廟についてはこちら
この方が大モスクの天井の4点星に似ているかも。
タイル セルジュク 12世紀後半 縦15㎝横34㎝ コンヤ、クルチアスランⅡ世の館跡出土
八角形と4点星のタイルを組み合わせた壁面を、このような四角形のタイルに絵付けして表している。
5点星は中が赤石の小さな五角形タイル、各辺に黒石の三角形タイルつけて5点星ができている。しかしその周囲に大きな五角形タイルを5つ並べるのは無理だったようで、5点星の左側は赤と黒の平たい二等辺三角形のタイルを配置している。
6点星が文様として一番安定しているかも。
内側が赤石の六角形タイル、各辺に三角形タイルを配置して6点星が造られ、それぞれの三角形タイルを隣の6点星と共有しあっている。
見方を変えると大きな正三角形を上下反対にして組み合わせたダビデの星で、重なった部分が赤になっていともいえる。
ウィキペディアによると、六芒星、中にある六角形を抜いた形を六光星と呼ぶそうだ。
しかし、赤い六角形タイルを千鳥に配し、その隙間に黒い三角形タイルを嵌め込んでいるという風にも見える。
六角形タイル イズニク 1530頃 平均径18㎝
六角形のタイルがこのように並べられているということは、空間の三角形のところに単色のタイルが嵌め込まれていた可能性もある。
六角形タイルといえば、アニ遺跡のイスラーム建築よりも下るが青いタイルが出土している。

青釉六角形タイル イラン 12-14世紀 大原美術館蔵
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、イスラーム建築最古のタイルは、イラクのサーマッラーから発掘された9世紀アッバース朝のもので、正方形や六角形の単色タイルと正方形や八角形のラスター・タイルがある。
細かい年代決定は難しいが、無釉タイルの合間に色彩のアクセントにしたり、他の色のタイルと組み合わせたという。
上のキャラバンサライの天井では、どちらかというと黒石のタイルがアクセントとして使われているようだ。
大モスク、7の部屋は、ほぼ正方形の平面で、中央の平天井は複雑な文様となっている。
大モスクについてはこちら
黒い帯を見ると、六角形の各角を隣の六角形と重なるように配置した繋ぎ文様に見えるし、三菱を千鳥に配しているようにも見える。
タイルでいうと、赤い6点星のタイルと赤い小さな菱形タイル、黒いタイルは2辺の長い五角形ということになるだろうか。
不思議なことに、赤石の6点星タイルの中には二重に6点星が凹凸で表されていたり、六花文があったりする。それが水色っぽいもので文様がはっきりするものと、色がなくてはっきりわからないものなどが見えるのだが、これは何だろう?
8の部屋の天井はピントが合わなかった。
六角形タイルと6点星タイルを黒い五角形タイルを巡らせてうまく組み合わせている。
6点星の中に六角形があって、そこが凹んでいる。そして、下のものには水色っぽいものが溜まっているように見える。きっと光の反射だろう。
タイルの六角形と6点星の組み合わせでは14世紀のものがある。

6点星のラスター・タイル コルフードのマスジディ・ジャーミイ
19世紀に貼り直されているので、青タイルは19世紀のものかも知れない。
石やレンガで造られた建物がヴォールト天井やドームが一般的だったこの時代に、平天井があることだけでも驚きなのに、その装飾は色石のタイルを組み合わせたとしか思えない。
タイルの歴史を辿ると、この時代にはすでにタイルはあったようだが、壁面に使われていた。
セルジューク朝の人々がアニに来る以前に、そのようなタイル装飾をどこかで見ていた。アニに来ると建物は赤や黒の柔らかく加工しやすい凝灰岩で造られていた。そこで、高価で製作にも技術を要するタイルを作るよりも、ふんだんにある赤と黒2色の石をタイルのように使って装飾したといったところではないだろうか。

※参考サイト
ウィキペディアの六芒星

※参考文献
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」2001年 岡山市オリエント美術館