ミダス記念碑と呼ばれているものは女神マタルを祀るための神殿とされている。
見上げると整然と彫られた幾何学文様の緻密さと、地震で上部が裂けても尚2千数百年間立ち続けているいる頑丈さに敬服する。
大きな耳のようなものは何の部分だったのだろう。目だろうか?
幸い同じ地区の裏側にある未完成の記念碑 Bitmemiş Anıt に似たものが残っていた。
こんな目を何かで見たことがあるような気がした。それはテル・ブラク出土の目の偶像だった。
『世界の博物館18 シリア国立博物館』は、北シリアのハラフ期の遺跡からしばしば発見される目を強調した土偶である。人間は人体の各部のなかでも目を特別に見てきており、眼光によって悪霊を払うことが可能であると考えたこともあるという。
ハラフ期は前6千年紀前半なので古すぎた。
迷路にはまり込んでいたところ、漆喰のことでガラス作家の田上惠美子氏よりメールを戴いた。添付の福井県三国町の旧森田銀行本店の漆喰装飾の写真の1枚にあったイオニア式柱頭を見て解決した。
しかし、イオニア式柱頭については以前にまとめた記事では、前8世紀に現在のシリアとトルコの国境付近の遺跡アルスランタシュ(アスランタシュ)で出土したものがプロト・アイオリス式の渦巻形柱頭に発展してゆく(『世界の博物館18 シリア国立博物館』より)という。
その記事はこちら
それなら、イオニア式柱頭からこのようなアクロテリオン(頂部装飾)ができたのではなく、このようなものがイオニア式柱頭へとなっていったことになるのかな。
ミダス記念碑の下部中央の壁龕
水の流れによる浸食のため下にいくほど風化しているが、上中央には四角い穴がはっきりと残っていて、その真下にはそれより小さな穴が見える。ここに女神マタルが安置されていた。
この二つの穴についてTürkiye Kültür Portalı の MALTAS FRIG ANITI は、壁龕の基部中央にある窪みは、おそらくキュベレの持ち運び可能な像が置かれていたほぞ穴であろうという。
マルタシュの遺跡 Maltaş ören yeri(前8-6世紀)はアスランタシュとユランタシュの遺跡があるギョイニュシュ渓谷 Göynüş vadisi の南方にある。
ここに安置されていた女神マタルも上下で固定された可動式のものだったのだろう。マルタシュの方は背後に井戸があるからだが、ミダス記念碑の方は何もなさそう。ひょっとすると一年に一度の祭儀の時に乗り物に乗せて集落を練り歩いたのかも。
ミダス記念碑では失われた女神マタルだが、別の遺跡から出土したマタルがゴルディオン博物館やアナトリア文明博物館に展示されていた。
母なる女神キュベレ、安山岩 ゴルディオン博物館蔵
『GORDION MUSEUM』は、フリギア人の主神は母なる女神であり、碑文では単に「マタル」(母)とされ、時には「キュベレ」という呼称が加えられることもある。古フリギア城塞時代のゴルディオンでマタルが崇拝されていたという証拠はほとんどないが、新城塞の建設と関連して、マタルを表したと思われる石像がいくつか発見されているという。
同館図録は、マタルは通常、杯を口に当てている姿で描かれている。ある例では、もう一方の手に猛禽類(タカ?ハヤブサ?)を持つという。
小さくて猛禽類には見えないけれど、小鳥を左手で握っているように見える。
キュベレ像 前7世紀 浮彫 安山岩 アンカラ 、バフチェリエヴラーより発見 アナトリア文明博物館蔵
簡素な造形だが屋根のアクロテリオン(頂部飾り)が大きく表されているが、イオニア式柱頭を思い起こすことはない。牛の角と言う方が相応しいかも。
女神マタルと祭祀記念碑 出土地不明 アナトリア文明博物館蔵
説明パネルは、フリギア人は多くの神々を崇拝していたが、人間の姿で描かれた神はただ一人。それは「母」を意味する名を持つ女神「マタル」で、碑文にはマタルはいくつかの属性とともに記されている。キュベレの語源は、おそらくフリギア語で「山」を意味する「キュベレイア」に由来する。フリギアにおけるキュベレーに捧げられた祭祀記念碑は、前9-6世紀にかけてのものという。
ここにミダス記念碑によく似たアクロテリオンがあった。
頂部とペディメントの装飾の左右に六弁花が表されたり、箱状の装飾があるのはヤズルカヤ近辺の未完成の記念碑に共通するが、ペディメントの丸いものとその中央から出ている円柱のようなものはない。そして目玉のように見えるものを囲うものが円になりきらず、草食獣の角のように先が切れている。
ミダス記念碑の近くではこのようなアクロテリオンが共通するもののようだけれど、出土地不明なのが残念。
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参考サイト
Turkish Archaeological NewsのYazılıkaya - Midas Monument
参考文献
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館
「世界の博物館18 シリア国立博物館」 増田精一・杉村棟 1979年 講談社














