大モスクの5の部屋の天井は一番面積が大きい。
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そこには、六角形タイルと菱形タイルでジグザグ文ができている。
1の部屋の天井は雨ざらしのせいか、かなり色がくすんでいる。
この天井を見ていると、色石の大きさに比べてかなりの厚みがある。どのようにして平天井に貼り付けたのだろう。
タイル装飾を見ると、六角形は千鳥に並べると安定した文様になる。これは亀甲繋ぎ文ではないか。
キャラバンサライの天井にも亀甲繋ぎ文はある。
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厚みを無視すると、正六角形の赤石タイルと、偏平な六角形の黒石タイルでこのような文様ができている。
このタイルの組み合わせで思い浮かぶのは、イスタンブール、トプカプ宮殿の敷地内に1472年に建造されたチニリ・キョシュクの壁面だ。きっとタイルの組み合わせとして長く継承されたのだろう。
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六角形の組み合わせというと、アニの大モスク以前にもある。
ウズベキスタン、ブハラのサーマーン廟(913-43年)は焼成レンガを様々な文様に組み合わせた建物だった。内部の床は六角形の焼成レンガを千鳥に並べて亀甲繋ぎ文風だ。焼成レンガの間は、細長いレンガを詰めたのではなく、目地だろう。
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しかし、亀甲繋ぎ文は、現在私の知っている範囲では前11世紀に遡る古い文様だ。
バビロニアのクドゥル 前11世紀 黒色石灰岩 高61㎝ 大英博蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、このクドゥッルは、イシン第2王朝の6代目の王マルドゥク・ナディン・アヘ(在位1098-1081)の治世年間に起こった土地の譲渡を記録したもである。
王が盛装をして公式の場面に現れる折の姿であろう。衣装の表面の細かな文様は実際には刺繍か、あるいはアップリケの手法で施されたものと考えられるという。
亀甲繋ぎ文には、六角形の部分に花の文様がある。
美術史は日本の美術や仏教美術から入ったので、六角形の上下左右に繋がった文様をみると亀甲繋ぎ文と思ってしまう。
しかし、東トルコのお花畑を通り抜け、朝食には蜂の巣ごとハチミツが出てくるような旅をしていると、六角形の繋がった文様は蜂の巣をモティーフにした文様ではないかと思えてきた。
その上、バビロニアのクドゥルの六角形の中には花の文様がある。蜂の巣文様は花咲く大地とそこからとれる蜂蜜の豊かさを表していたのだろう。
※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」2000年 小学館