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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/10/30

ロカマドゥール 聖ミシェル礼拝堂


ロカマドゥールの聖域の教会前広場から階段を上がった右側には奇蹟の聖母礼拝堂、左に聖ミシェル礼拝堂がある。
礼拝堂には北側に後陣の出っ張りがあり、その上に人頭のモディヨンと壁画が残っている。
外壁正面から見上げると
3つのアーチの上側や全く手を付けられていない岩壁にも彩色された痕跡が残っている。
そして3つのアーチの下の凹んだ壁面には、左に「受胎告知」、右に「マリアのエリザベート訪問」が描かれている。
『Rocamadour』は、12世紀の画家が描いて以来、一度も描き直しされていないという。
「受胎告知」では、大天使ガブリエルがマリアに神の子を身ごもったことを知らせている。マリアは玉座に正面向きに坐し、顔だけガブリエルの方を向いている。
『Rocamadour』は、聖母の頭に留まったハトは聖霊を表しているという。
青い背景に円形の凸状のものがたくさんあるのは何を表しているのだろう。星?
双方とも襞の多い長衣を着けているが、その襞の凹凸の表し方が独特。
その言葉が記された巻き物で表されているのが興味深い。
「マリアのエリザベート訪問」は、右の若い方が訪ねてきたマリア。従姉も身ごもったことを知ったマリアが祝福に来た場面。エリザベートは後の洗者ヨハネを産む。
2人の右のモディヨン(軒下飾り)は女性。
両者の着衣にトルコブルーの大きな衣文と、その間の黄土色のところの細かな衣褶が重なっていて独特。
マリアを囲む2つモディヨンの人頭も女性のよう。
このように拡大すると、アーチの内側の彩色は雨にさらされないのでよく残っているし、アーチの内側にはひらひらと波打った線が色を分けるなど、丁寧に荘厳されている。
下の層のモディヨンは男性、上にも一つ髭面のモディヨンが。
誰も微笑すらしていない。むしろ峻厳とでも言い表した方が良いくらいで、カオールのサンテティエンヌ司教座聖堂に見られる遊び心あふれるモディヨンとはえらい違いだ。
後陣の窓には蔓草文様があるが、ステンドグラスではなさそう。
こっちは女性のようで、表情は幾分柔らかい。

後陣の壁面にはもう一つ壁画があったようだ。かろうじて絵と判別できる程度に色褪せ、しかも男性立像の半分だけが残っている。
その左腕から垂れる布には円文繋ぎの文様が残っている。その中には白い四弁の花が描かれ、それが襞とは無関係に描かれているところなど、平安仏画にも似ている。
縦に襞のある布の下の方には、色を違えて別の文様が斜めに走る。

ところで、頭上には左手に本を保った子供も描かれている。
『Rocamadour』は、最古のもの(14世紀)は、子供として表されたイエズスを背負った巨大な聖クリストフォロスを描いている。彼は旅人と巡礼者の守護聖人であるという。
大きいのでキリスト像かと思っていたが、巡礼者の守護聖人が描かれていたのだ。面白いことに、このテーマは、矢筈繋ぎ文が縁を囲んでいたようで、それが額縁を思わせる。

ところで、聖ミシェル礼拝堂の中は見学していない。ヴォールト天井下の通路を通って、その先の聖王ルイの礼拝堂に行ったのだから、開いていたら見学したはず。
幸い現地で買った2冊の本で、礼拝堂内はなんとかわかった。

『Rocamadour』は、長さ6.5m幅6m、聖母礼拝堂の広場から高さ5.4m。
監視塔として使われた聖域で最も高い位置にある建物。時として壁、穹窿、屋根に使用された崖の張り出しにつくられた巣のようだ。岩壁に守られて、この礼拝堂は12世紀のままであるという。
後陣を荘厳する絵の主題について同書は、四福音書記者に囲まれたキリストと魂を量る大天使ミカエル。ミカエルは僧帽を被っているという。
アーモンド形ではなく、日本風に言えば木瓜形のマンドルラの中でキリストが玉座に坐っている。書見台の前に坐っていて、文字を書いたり、筆記用具を吹いたり?して、四福音書記者の珍しい表現で、下方の2人の下側には床か壇に蔓草文様が描かれている。
右隅には4枚翼の天使、セラフィムかケルビムが登場。そして左隅でキリストに背中を向けて天秤で魂を量っているのが大天使ミカエルである。
小さな明かり取りの窓はやはりガラスに蔓草が描かれているだけで、ステンドグラスではないようだ。
祭壇はアカンサスの葉を表したコリント式柱頭が支え、その下にはメドゥーサのような髪に人魚のような下半身の怪物を倒す聖人の浮彫板がある。『ROCAMADOUR』はドラゴンを打ち倒す聖ミカエルとする。
祭壇の前には白と黒の切石を交互に並べている。

聖ミシェル礼拝堂を教会前広場から見上げると、本当に岩陰にすっぽりとおさまっている。
聖ミシェル礼拝堂の上階には三連の窓があり、そこには円文繋ぎのステンドグラスが嵌め込まれている。

               →ロカマドゥール 聖母礼拝堂の黒い聖母子像

関連項目
カオール、サンテティエンヌ司教座聖堂 モディヨン
東寺旧蔵十二天図10 截金9円文

参考文献
「ROCAMADOUR admirer contempler prier」 P.Clément Nastorg 2005年 Édition du Signe
「Rocamadour Haut Lieu de Pèlerinage」 Didier 2006年 APA-POUX-ALBI