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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/01/12

ペルシアの彩画陶器は人物文も面白い


ラスター彩陶器には人物文が描かれるものがあり、タブリーズのアゼルバイジャン博物館でも展示されていた。
それについてはこちら

イスラームは動物や人物を表すことが禁じられているのにもかかわらず、人物が描かれるのは、東方からやってきたセルジューク朝のテュルク系の人々の嗜好だと思っていたが、それ以前、深目高鼻の人たちも人物文を描いている。
『タイルの美Ⅱイスラーム編』は、預言者ムハンマドが、神から受けた啓示をまとめたイスラームの聖典コーランには「信者の者よ、酒と賭矢と偶像神と占い矢とは、いずれも嫌うべきこと、悪魔の業じゃ、心して避けよ」とある。これがイスラームの偶像否定や飲酒の禁止のもとになっている一節である。
しかしラスター彩タイルには、ボストン美術館所蔵の1211年の年代銘が記されたラスター彩タイルのように、人物や動物が描かれたものもある。おそらくこれら人物文が表現されたラスター彩タイルは、宗教的な建造物ではなく、宮殿などの私的な居住空間の壁を飾ったものであろうという。
もともと世俗の場では人物が描かれていても構わなかったのだ。

黄地多彩騎馬戦士文鉢 9世紀 東イラン 径28㎝ ジェイ・グラックコレクション
『イランの彩画陶器展図録』は、騎馬の戦士を徒歩の戦士や女性像、魚などが囲んでいる。右側の女性はやや大きめに描かれ、騎馬戦士と向き合っており、重要な存在とみられるという。
正面向きの顔もあれば、戦士の一筆書きのような横向きの顔もある。丸顔ではない。
女性や戦士の頭上に山字形のものは王冠?それとも帽子?
黄地多彩騎馬戦士文鉢 9-10世紀 東イラン 径35.0㎝ 中近東文化センター蔵
同展図録は、騎馬戦士のまわりを数人の徒歩の戦士と動物が、旋回するような方向に連なって、取り巻いているという。
人物は目は大きく描かれるが、輪郭はかなり略されている。それでも全員山字形のものを被っている。

黄地多彩騎馬戦士文鉢 10世紀 東イラン 径20㎝ ジェイ・グラックコレクション
同展図録は、鎖かたびらのような鎧と、かぶとで身を守り、剣と盾とをもったひとりの戦士を、クローズアップして表しているという。
山字形ではない兜を被っている。
正面を向いた顔は細長い。
黄白地多彩戦士文鉢 9-10世紀 東イラン 径22.6高8.6㎝ 岡山市立オリエント美術館蔵
同展図録は、鎖かたびらに身を包み、剣と円盾をもった戦士が攻撃の姿勢をとっている。周囲にはクーフィー体の銘文が崩れたモティーフという。
ガイドのレザーさんのように深目高鼻の人物が描かれている。角が生えているようにも見えるのは兜かな。

黄白地多彩人物文鉢 9-10世紀 東イラン 径20.5高9.2㎝ 松岡美術館蔵
展図録は、周囲にハート形の装飾文。王侯酒宴図は、伝説上の帝王ジャムシードの酒杯の物語を思い出させる主題でもあるという。
細長いリュトンを右手で掲げている。そのそばに描かれているのは酒の入った3つの壺だろうか。
横向きの輪郭が面白い。
両腕の背後の黒いものは何だろう。
黄地多彩人物文皿 9-10世紀 東イラン 径19.1高6.4㎝ 岡山市立オリエント美術館蔵
同展図録は、裾の長い衣を着た人物が酒杯を掲げている。王侯の酒宴を表した画題は、かつてササン朝銀器やソグド壁画などにしばしば表されていたという。
残念ながらその図版はなかった。大きな酒盃は円錐形に渦巻状のものがついている。ブーツ型のリュトンかも。
横向きなのに、目鼻口が顔の中央に描かれて前向きのよう。
やはり両腕の後ろ側には黒い布のようなものが描かれている。

黄白地多彩人物文壺 9-10世紀 東イラン 径21.4高22.4㎝ 岡山市立オリエント美術館蔵
同展図録は、壺の4面に、朱色のマントを着て座した人物が表され、空隙には鳥が描かれている。下方にはハート形の装飾文という。
上の人物と同じような顔の描き方だが、目が大きい。胡坐しているのだろうが、足をどのように組んでいるのか分かりにくい描写だ。
この人物の両腕の後ろ側にも2つに分かれた黒い布が描かれている。
黄地多彩人物文鉢 9-10世紀 東イラン 径19.8高8.0㎝ 松岡美術館蔵
同展図録は、中央に戦士に似た服装で座って花の枝(?)のようなものをもつ男性像。まわりの帯には菱形を渦巻で囲んだモティーフがみえるという。
口縁部は七宝繋文と蔓草文を合成したような文様。
2匹の蛇が絡み合うような足も胡坐のつもりだろうが、こんな風に足を絡めるのは不可能だ。
この横顔も味わい深いが、この図でやっと両腕の後ろ側にたれているのが、ずきんの端だと判明した。

黄地多彩婦人文鉢 10世紀 東イラン 径20㎝ ジェイ・グラックコレクション
同展図録は、裾広がりのスカートを大きく表した構図もときおり見られる。背後にある木はプラタナスともいわれるが、はっきりとはわからないという。
何故か女性の額から上が画面に収まりきれず切れている。右目が少し描かれ、出ているはずの鼻と口は凹んで描かれていて、これまで見てきた横顔の表現とも異なる。
自由に描いたと言えばそれまでだが、いったいどんな思いで描いたのだろう。当時東イランに住んでいたのは深目高鼻の人々だったことは分かった。
こういう面白い人物を描いていたのに、テュルク系のセルジューク朝期になるとその伝統は引きつがれず、丸顔になってしまった。

アゼルバイジャン博物館 面白い動物が描かれた陶器

関連項目
タブリーズ アゼルバイジャン博物館
アゼルバイジャン博物館 ラスター彩

※参考文献
「イランの彩画陶器」 1994年 岡山市立オリエント美術館 
「タイルの美Ⅱ イスラーム編」 岡野智彦・高橋忠久 1994年 TOTO出版