ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2013/08/06
イストミアのガラス・モザイク・パネル
コリントス運河の東端にあるイストミアは、港のある小さな町程度に思っていた。
そこでは、運河を通行する船が通る度に、橋が沈下することをあるサイトで知った。
それについてはこちら
調べていくうちに、イストミアはギリシア史では重要な祭が行われた、かなり重要なポセイドン聖域のある町だったことがわかった。
大きな地図で見る
『CORINTHIA-ARGOLIDA』は、ポセイドン神殿は、前11世紀中期以来供犠が行われた聖なる場所の上に前650-630年の間に建立さた。最初の神殿は木の列柱廊があり、前500年に石の祭壇が置かれたが、前479-460年に焼失した。新神殿は石の列柱廊で、6X13のドーリス式円柱だったが、前390年に破壊され、前4世紀末までに再建されたという。
現在残っているのは、神殿の土台部分のみ。遠くに見えているのはサロニコス湾。
コリントスやミケーネの遺跡や博物館の本がほしかったが、「CORINTHIA-ARGOLIDA」という小さな本しか見付けられずに残念に思っていた。ところが、この本にはイストミア遺跡について記されており、考古学博物館の中で私の目を惹きつけて離させない、2枚のガラスの象嵌パネルの写真が載っていた。無駄な本というのはないのだなあ。
港の建物と船を表したガラス・モザイク・パネル1
同書は、ガラス・モザイク・パネルは、ケンクレアイ(Kenchreai)港の水没した建物から引き上げられた、複数の木箱に収められた状態で発見された。これらのパネルは、おそらくエジプト起源で、オプス・セクティレ(opus sectile)という技法でプラスターのようなものを土台にして、色ガラスで作られた。これらは異なったテーマが表されている。それは、動植物の世界と、ホメロスやプラトンのような、哲学者の姿をした男たち、そして港に並んだ建物を表した複数の構図で、それらは最高の技術で制作されたという。
オプス・セクティレとは、色石の象嵌のこと。
それについてはこちら
残念なことに、同書には制作年代や大きさが記されていなかった。
帆船の帆が風を受けて膨らんでいる様子が、白色ガラス?でみごとに表現されている。
両端に灯台のある湾に、人が建物に比べて大きく表されている。このイカを釣っている人物が哲学者風出で立ちなのだろうか。
ヴェネツィアのような、杭の上に建てた家屋や、階上に列柱のある建物などが描かれている。
同2
動植物というよりも、イカや魚などの海の生き物が表されている。
魚はヒレがモザイク・ガラスの手法でつくられた部品のように思える。
モザイク・ガラスについてはこちら
柱頭がよくわからないが、列柱廊がある。その中にも建物が表されている。
これらの場面の上下に、七宝繋文の文様帯があり、更にその上下にもガラス・モザイクは続いていたらしい。
邸宅の壁面を飾っていたのかとも思ったが、箱に収められていたことから、特別な時にだけ出して眺める、小さな衝立のようよなものだったのかも知れない。
オプス・セクティレは、色石を使ったものはローマのパラティーノの丘にある、ドムス・アウグスターナの前の床で見かけたが、同博物館では精巧なものが壁面に展示されていて、とても床を飾るものには見えなかった。
執政官行進図 後325-350年頃 ローマ、ユニウス・バッススのバシリカ出土 大理石・石・ガラス ローマ国立博物館(マッシモ宮)蔵
『世界美術大全集5古代地中海とローマ』は、後331年の執政官ユニウス・バッススが謁見の間として用いた大広間の壁面は豪華なモザイクで装飾されていた。その状態は16世紀まで維持されており、ジュリアーノ・ダ・サンガッロ(1445-4516)らが記録にとどめている。しかし、現存するのはコンセルヴァトーリ美術館のパネル2点とローマ国立博物館のパネル2点だけである。
色大理石と色石用いてのこのモザイクはおそらくエジプトで制作されたもので、それをローマで壁面に貼りつけたのであろう。このようなオプス・セクティレによる壁面の装飾が流行するにつれ、壁画は次第に衰退していくという。
精密なオプス・セクティレは壁面を飾ったようだが、それが色大理石ではなく、色ガラスとなると、壁面にも嵌め込まず、たまに箱から取り出すくらいで、大事に仕舞っていたのかも。
古代ガラス展とアンティキティラ島出土物 円錐ガラス碗←
→ローマ時代、色ガラスの舗床モザイクがあった
関連項目
ポンペイ悲劇詩人の家(Casa del Poeta Tragico)、タブリヌムの舗床モザイク
八木洋子氏のモザイクガラスにびっくり
2-5 パラティーノの丘、ドムス・アウグスターナ
その他ガラス・ファイアンスに関するものは多数
※参考文献
「CORINTHIA-ARGOLIDA」 Elsie Spathari 2010年 HESPEROS EDETIONS