イサクパシャ宮殿には中程にモスクがあった。モスクのドームは小アーチが一巡した上がキノコの傘のように膨らんで、頂部がやや尖っている。
ドームの周囲には4つの小塔があるが、これは装飾的なものだろう。
ドームはモスク内部から見上げると、建物の四隅にスキンチがある。
スキンチ・アーチは各辺中央の平面的なアーチと合わせて8つのアーチとなり、アーチの頂部に接して円をつくり、そこから窓の高さの分を円筒に立ち上げて、上にドームを載せている。
スキンチを用いてドームを架構する場合、下図のように、8つのアーチのある面で、平面の正方形から八角形を導いて、更にその上を円形に近づける工夫をしてドームを載せる。
ところが、このドームでは、8つのアーチは八角形をつくらず、上の円との間に小さなペンデンティブ(穹隅)を8つ作っている。
8つのペンデンティブのモスクというと、イスタンブールのリュステム・パシャ・ジャーミイを思い出す。リュステム・パシャ・ジャーミイはミマール・シナンが1561年に建立した小さなモスク。
シナンは、アヤソフィアのように4本のピアから4つのペンデンティブで大ドームを架構したスレイマニエ・ジャーミイを完成させたすぐ後に、正方形に8つのアーチを載せ、8つのペンデンティブを構成してドームを載せた。
イサクパシャ宮殿のモスクのペンデンティブは三角形の平面か曲面か。切石でうまく曲面を造り出している。
天才シナンの創り出した8つのペンデンティブのあるドームは柱から立ち上がって軽快な印象を受けるが、このモスクは壁面から出ている。
そういえば、17世紀前半に建立されたイスタンブールのスルタンアフメット廟も壁面から8つのペンデンティブを架構している。
スルタンアフメット廟についてはこちら
シナン以降の建築家は、小さな建物は壁面からドームを架構していったようだ。
スキンチは、隅に植物文の浮彫のある三角形の出っ張りの先の片と両側の片に半円形の面を造り、その周囲から放射状に細長い石を並べて扇状の曲面にしている。
しかしこれは、仕上げの貼り石で、スキンチの構造ではないだろう。
高昌故城β寺院講堂のスキンチのように、隅から小さなアーチ列を並べていかないと上の荷重を支えられないのではないだろうか。
※参考文献
「イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史」深見奈緒子 2003年 東京堂出版