『The treasures of Romanesque Auvergne』は、絵のように美しい村をに花を添えるラヴォデュ修道院は、オーヴェルニュで革命の被害を受けなかった唯一の修道院であり、その回廊はこの地方で唯一のもの。
食堂と簡素な修道院教会の間にあるこの小さな回廊の木造の回廊と不規則な柱はとても魅力的だ。修道院はその控えめな規模のおかげで被害を免れたが、これは「神の谷」の静けさの印象を高めるものであるという。
ロマネスク美術とロマネスク建築というサイトのラヴォデュ(Lavaudieu)<2>に平面図があるので、やっとこの修道院の回廊と付属の教会の形がわかった。平面図によると、サンタンドレ教会は八角形の鐘楼を持つラテン十字平面で、側廊の南に回廊、さらに南に東西に長い食事室がある。
この平面図によると、小さな聖堂は身廊に北側にゴシック様式の側廊が増築されたらしい。
天井は半円ヴォールトに限りなく近いが、フレスコ画で覆われていた。
玉座にすわったキリストだけが、白描画のように描かれている。何時の時代のものだろう。
左上はキリストの遺体を寝かせているのだろうか。いや『フランス・ロマネスク』は右に「聖母の最後の眠り」が描かれているという。
その次に見たのは身廊奥上部の壁画だった。ピンボケながら、磔刑図らしきことくらいは分かるが、ロマネスクの壁面とは趣が異なる。それに半円ではなく、尖頭である。
勝利門か、初期キリスト教会にあるような。そう言えば、ローマのサンタ・プラッセーデ聖堂(Basilica de S.Prassede、9世紀)にも勝利門があったが、聖堂はバシリカ式で木造の平天井の下につくられたものだった。
キリストは、頭部も形も十字架から外れており、それを母マリアと一番若い弟子のヨハネが見つめている。その下には二人の天使が長い羽根を広げ、その間には丸いものがある。
『フランス・ロマネスク』は、左には水平におかれた聖アンドレの十字架があるという。
その下は十二使徒にしては人数が足りない。
さらに下は前向きの司教の左は司教杖を持っていない。右は小さな子供に手を差し伸べる修道僧、子供の口からドラゴンが出ているように見えるのは私だけかも。
キリストの逮捕からゴルゴダの丘へ十字架を担いで行くキリスト
北壁面
キリスト逮捕から磔刑までの3場面キリストのかぶり物が天井に描かれたキリストと同じものなので、フレスコ画は同時期に描かれたものだろう。
その蛇は角に立つ人に体を持ち上げられ、胴体は側面にまで長々と続いている。
正面の木に蛇がよじ登っている。アダムとエヴァの話のよう。
2羽の猛禽類が何かを銜えている。
その上にパルメットの葉が縁飾りのように彫られていて、鳥の表現は古拙でも。丁寧に仕上げている。この古拙というのが大好きな私。
中にはこんなに簡素なアカンサス由来の葉文様も。
円文繋ぎの楯はアカンサスの葉のように反り返り、その上、2本の槍の間に王冠を被った人物が顔を出す。壁には花の文様が黒線で克明に描かれている。下描きで終わってしまったのだろうか。
参考サイトフランスの美しい村のラヴォデュー/LAVAUDIEU
どんな場面を表しているのか不明だが部屋の壁面の文様が細かく描かれ、背もたれのある椅子などもあってどこかの室内を表しているらしい。
北側を見上げると、
西ファサード側の壁面までフレスコ画は続いている。
カーテンの左にもフレスコ画
『フランス・ロマネスク』は、側廊のアーチの上に4人の福音書史家がいて、両端に2人ずつ机をまえにして福音を書いている図もあるという。ひょっとすると、この西ファサードに近い壁面に描かれたのも、四福音書記者の一人かも。
食堂のフレスコ画 玉座のキリスト他
玉座のキリスト
キリストは、顔は小さく上半身は細身なのに、脚部が非常に量感がある、平安前期の仏像のよう。そういえば、昔思い込んでいた涼州式偏袒右肩のよう(あるときにそれが間違っていることに気がついた。それについてはこちら)。それにしても煩雑な衣褶線だろうか。
一般的にはどちらかの方向から伸びていく蔓草が、ここでは紺地に二つ一組の渦巻き風の文様になっている。
ラヴォデュ修道院教会食堂のフレスコ画玉座のキリスト 『The Treasures of Romanesque Auvergne』より |
一般的にはどちらかの方向から伸びていく蔓草が、ここでは紺地に二つ一組の渦巻き風の文様になっている。
四福音書記者の象徴は、左下から時計回りに、マルコの獅子、マタイの人、ヨハネの鷲、ルカの雄牛。
玉座のキリストの下には玉座の聖母
幼子キリストは抱いていない。両側に立っているのは十二使徒だろう。
ラヴォデュ修道院教会食堂のフレスコ画玉座のキリスト下段 玉座の聖母 『The Treasures of Romanesque Auvergne』より |
身廊の柱頭彫刻
蛇が肉食獣の足をかじっているのだろうか。
彫刻というよりも粘土細工のよう。
回廊
ここにも和める柱頭彫刻があるのだが、残念なことに、回廊と食事室は午後2時からしか見学できない。しかもイタリア徒然というサイトの勝手に退室不可の回廊、初体験。(ラヴォデュ2)によると、ガイド付き visite guidée らしい。
『フランス・ロマネスク』は、この教会の回廊は鄙びていてつつましい。まるで大きな農家の
庭と倉庫のような感すら与える。およそ16m四方の大きさであるが、歩く所に小さな丸石が敷いてあったり、つぎはぎの柱が屋根を支えている。それが1本または2本単位の繰り返しのリズム感をつくっている。
柱頭彫刻は、極めて単純なものが多いが、それはほぼ葉文様である。しかしなかに2つの尻尾をもった人魚、祈っている天使、粒状の眼をした獅子の踊っているような彫刻があり、もう一つは蛇にからまれた女のテーマである。2匹のサンショウウオに乳をやっている女の姿があるが、そのサンショウウオは柱頭の裏側にうずくまっている男のなかから出ているという奇怪な図であるという。
『異形のロマネスク』は独自の視点から柱頭彫刻について解説された興味深い著作で、柱頭彫刻のイラストが満載である。しかしながら、やはり図版や写真の柱頭彫刻とは違っているが、せっかくなので、その中からラヴォデュの回廊の柱頭彫刻を挙げてておく。
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参考文献
「The Treasures of Romanesque Auvergne」 Text :Noël Graveline Photographs: Francis Debaisieux Design Mireille Debaisieux 2010年 Édition DEBAISIEUX