昔々、新聞で藤森照信氏のエッセイを読んでとても面白かった。建築史の学者であることはわかったが、建築家でもあることは知らずにいた。
その後歳月は流れ、日経新聞の日曜版に、藤森照信氏の奇妙な建築物群が紹介されていて驚いた。どれも興味深く、実際に見てみたかったが、その中で、滋賀県の湖東にある商業施設が、一番手軽に行けそうなことがわかった。
昨年、近江八幡市で八幡山に登ったり、水郷めぐりをしたりした時、琵琶湖の東側で何か見るものがあったはず、と萎縮した脳の片隅にあるものがどうにも思い出せなかった。それが藤森照信氏が建てた草葺き屋根のある建物なのは浮かんできたし、和菓子屋の店舗がだったことも思い出せたのに、店の名称や場所は、もはや記憶の外だったのだ。
そして今年の夏、醒ヶ井で梅花藻が見られることをテレビで知り、それなら近くの伊吹山にも行って・・・と、計画を立てていて、ふと去年行きたかったのが、たねやのラコリーナという名前だったことを思い出した。調べてみると、なんと、水郷めぐり舟の乗り場のすぐ近くにあったのだった😁
水郷めぐりについての記事はこちら
平日に9時過ぎについたので、広大な駐車場の入口近くに車を置くことができた。
入場は木の枝のアーチから。
ラコリーナのメインショップへ続く笹のアプローチ という日誌によると、アラカシのアーチとのこと。蔓性の植物でもないので、成長すればアーチの開口部のある立派な生け垣になるだろう。
左の注意書きは店内マスク着用、バームクーヘンがマスクを着けている。右の大きな丸いものには蜘蛛の巣とクモのイラスト👀 車を駐めた位置を覚えておくものかな?
まず入って見えた景色。通路以外は笹原になっている。同ページによると、おかめ笹という種類らしい。
ラコリーナの建物群。左の草葺き屋根がメインショップ《草屋根》。
『この建物お菓子屋です』は、〈ラコリーナ近江八幡〉の建築は、屋根のおもしろさで瞬間的に人の気持ちをつかんでしまう。前庭では到着早々の人たちが、〈草屋根〉を見上げてシャッターを切り、中庭へ出れば〈銅屋根〉の巨大な海坊主のような姿に目は釘付けだ。
〈草屋根〉では銅色のステンレスで屋根を葺き、雪止めの金物8000丁を取り付けた。その上に芝のマット一式が載っている。
山が連なる屋根形にはたくさんの谷があり、小窓がいくつも突き出ている。板金職人の丹保
さんにとって、雨漏りしないように屋根を葺くことが一番の基本であり、金属板の継ぎ目や雨水が集中する部分が多いほどリスクが高くなるという。
横長で平らな尾根に山が3つ。3つの「山」から成る『山』という漢字を横に引っ張って、右の「山」を中央に移動させたように思える。
また、駐車場や苑路はワラ入り土風モルタルという。
その西翼には残りの「山」。真ん中の「山」との間に焼き板塀の2階があり、草葺き屋根の深い軒は、丸太の柱に支えられている。円柱と呼ばないのは、それぞれが曲がったり、枝分かれの跡があったりしているから。
同書は、〈ラコリーナ近江八幡〉の建築に、藤森照信さんはたくさんの栗の木を使っている。どの建物も、軒を支えてずらりと並ぶ栗の柱は自然の形のままに曲がったり二股に分かれたり、節や瘤もある。木材の欠点といわれる部分を生かした形が、藤森建築に強い個性を生み出しているという。
栗の丸太はそれぞれに表情があり、目を楽しませてくれる🤗
近づいてみると、2つの開口部の間に人がいるが、奥行が感じられず、建物というよりも映画のセットファサードみたい🤔
そして「山」の頂上には松が植わっている。ちょっと弱っているみたい。
低い方は元気そう。
ではショップの中へ。
軒にさしかかった時、水滴が落ちたようにみえた。? 屋根の上から水滴が。屋根の草に水を与えているのだ。それは芝生で、芝生が屋根にあるのは初めて見た。
低い方は元気そう。
ではショップの中へ。
軒にさしかかった時、水滴が落ちたようにみえた。? 屋根の上から水滴が。屋根の草に水を与えているのだ。それは芝生で、芝生が屋根にあるのは初めて見た。
人の通るところだけは銅の樋があるが、水量をうまくコントロールしてあって、たまに水滴が落ちる程度。
エレベーターと階段の前の床には淡く美しいピンク色の大理石「ノルウェージアンローズ」が選ばれた。矢崎さんが特別に取り置いていたものだ。
《草屋根》の鉄、ガラス、石、漆喰の階段。職人の技が集約されているという。
そうそう、この上に松が植わっているのだった😎
同書は、建物の内部の壁・天井は藤本さんたちが「漆喰塗りっぱなし」と呼ぶ鏝跡を残した仕上げだ。藤本さんが言う。
「藤森先生はの仕上げは、機械的にきっちり揃えたような感じではいけないんですという。
そしてカフェへの階段脇に大鉢が赤いカフェへの階段の傍には木賊が生けてあった。
同書は、階段脇に据えられた寄せ植え用の大鉢は、イラン産の「レッドトラヴァーチン」の塊を彫り込んだものという。
「大鉢」とはいうが、床から1mを超えるこの高さまでの直方体の石の塊を鉢状のくぼみをつくったもの。ずいぶん立派なものだった
木賊は生けてあるのではなく、根のある状態で植えてあり、土筆のような花(胞子)も付けている。どちらもトクサ科トクサ属とはこの年になるまで知らなんだ😖
同書は、藤森建築では工業製品の板ガラスではなく、手づくりのステンドグラスを使っている。藤森さんは手吹きのガラスのクリア(無色)だけを使う。ガラスを嵌め込む鉛線は、障子の桟のように格子に組んだものだ。〈ラコリーナ近江八幡〉では〈草屋根〉の中央から2階吹き抜けへと連続する鍛鉄の手すりに取り付けられているという。
コンクのサントフォワ修道院聖堂は、白から灰色というモノトーンのステンドグラスで、1995年にピエール・スラージュ(Pierre Soulages)が制作しているが、無色透明なステンドグラスとは🧐
サントフォワ聖堂のステンドグラスについてはこちら
尚、この階段の手すりは川久保朋哉氏が担当していて、鍛造の建築金物というと、唐草のような装飾的な形を好む人も多いんですが、藤森先生は、直線的なデザインで、素材に人の手が入った感じを好まれています。手すりの材料は叩いて鎚目をつけます。かなり凹凸を出して、荒い感じに仕上げますねという。
そこまで見ていなかったな~😵
傍にも植え込みがあった。土に植わっている植物は、切り花や盆栽とはまた違う、和めるディスプレイである。とりあえずトイレへ行くと、通路にも無色の手吹きガラスのステンドグラス。近くで見ると向こうの景色がデフォルメされて面白い😄
でも、最初に見た時は、レトロ調のガラスだと思った😅
外の柱列の内側に白いベンチが続いてるのは、外からは見ていなかった。次回は座ってみよう。
同書は、メインショップ〈草屋根〉の北側へ出ると、目の前に田んぼが広がり、てっぺんに黒松を頂いた巨石が天を指す。大小七つの石があり〈七つ石〉と呼ばれるという。
七つもあったかな😵
初めは田んぼだったらしいが、今ではマリーゴールドが咲いていて、山の緑を引き立てている。
蟻塚のような土の塊にいろんな草が生えている。
その上にも松。岩に土を盛って小さな穴から植物が顔を出している。
左手から弧状の〈草回廊〉へ行こうとしたら、細長い円錐形の土に草が生えているものが気になった。蟻塚のような土の塊にいろんな草が生えている。
同書は、〈ラコリーナ近江八幡〉のシンボルツリーは巨大なクスノキである。〈銅屋根〉を突き抜け、大空に向かって堂々と枝を広げている姿は巨大な望遠塔と対になり、遠目に眺めると、時を超えて別世界にいるようだという。
クスノキが銅屋根から突き出ている様子は、〈栗百本〉の屋根の松が邪魔して、この位置からは分からない。
無垢板はもちろん栗の木。天井の勾配の異なる斜面が緩いカーブを描く中を、水を打ったばかりの足下を気にしながら歩を進める。
すぐにフードガレッジに着いた。
この回りを食べ物を作ったり、飲み物を販売している店が並んでいる。
この回りを食べ物を作ったり、飲み物を販売している店が並んでいる。
『奇想遺産 世界のふしぎ建築物語』で、屋根のてっぺんがたいへん不思議なことになっている。茅葺きの棟の上にアイリス(アヤメ科)が並んで咲いているのだ。
このフランスの田舎家は、茅葺き屋根とアイリスがお互いを引き立てあってひとつの美をかもしているではないか。その上面白い。
こうした不思議な作りは、この村だけでなく、イギリス海峡に面するノルマンディー地方に広く分布することが知られているが、しかし、いつ始まったものか(地元では数百年前と伝えるが)、なんでこんなことをするのか、さっぱり分からない。名前すらない。
日本では「芝棟」という名がちゃんと付いているし、植物学者と建築学者の研究もあるが、由来についてはフランス同様はっきりしないという。
フランス在住の方のエスカルゴの国からというブログに茅葺き屋根の上につくる芝棟という詳しい記事がありました。
〈草回廊〉の内側を見ると、3つの白い塔があった。土塔と名付けられている。
土塔について同書は、写真撮影のためのモニュメントを依頼され、苦心してデザインした。形状は過去に計画された高さ20mの土塔から。モルタルで土の表情に仕上げ、輪郭に沿って五葉松を植えてあるのがポイントという。
逆光でキキョウはよく写らなかった😳
でも、芝棟では、芝生だけでなく丸い葉の植物も植えてあるのが写っていた。
土塔について同書は、写真撮影のためのモニュメントを依頼され、苦心してデザインした。形状は過去に計画された高さ20mの土塔から。モルタルで土の表情に仕上げ、輪郭に沿って五葉松を植えてあるのがポイントという。
その上ドアがあって、子供が開けてくぐっている。確かに撮影ポイントではあるが、家族や知人たちが写真を撮るだけでなく、〈草回廊〉を通る人たちも、子供たちの楽しそうな姿を見ると、思わず写してしまうだろう。藤森氏はそれも狙ったのかも🤗
また違う子供たちがドアから入っている。
正面には、土塔越しに〈銅屋根〉が。
〈銅屋根〉と〈栗百本〉。銅屋根を突き抜けたクスノキは13mもあるという。
また違う子供たちがドアから入っている。
正面には、土塔越しに〈銅屋根〉が。
〈銅屋根〉と〈栗百本〉。銅屋根を突き抜けたクスノキは13mもあるという。
同書は、海坊主は東西で高低差がついてるのがわかる。四周99本の栗の柱が並ぶバルコニーも長さ60mという。
海坊主という名称があったとは😑
〈草屋根〉とまた姿を変えた土塔群。
クスノキと〈栗百本〉。庭一面にはマリーゴールドが花を咲かせているので、建物の下の方が見えないが、季節が変わるとまた違った見え方になるだろう。その時には草屋根も枯れているだろうけれど。
〈草屋根〉とまた姿を変えた土塔群。
クスノキと〈栗百本〉。庭一面にはマリーゴールドが花を咲かせているので、建物の下の方が見えないが、季節が変わるとまた違った見え方になるだろう。その時には草屋根も枯れているだろうけれど。
同書は、鉛線に前面ハンダをかけていく。さらに表面に銅メッキを施して仕上げるという。
小柄な私は入れたが、亭主はくぐれないと戻っていった😂
中に入るとまた小さなドアが。ここは鍵が掛かっていたので、
明るい方を向くと細長いドアがあったので、出てしまったが、天井を見るのを忘れていた😓
小柄な私は入れたが、亭主はくぐれないと戻っていった😂
中に入るとまた小さなドアが。ここは鍵が掛かっていたので、
明るい方を向くと細長いドアがあったので、出てしまったが、天井を見るのを忘れていた😓
その先は左のドアで終わっているが、同書の平面図では棚田の手前で終わっている。
棚田?そう言えば丘のようなものがあった(土塔の最初の写真の右奥に写っています)。
同書は、〈七つ石〉には散水装置がつけられ、てっぺんの松の木や下草に水分が足りないときに使われるという。
同書は、平面は楕円形、外側の形状は上部に向かうにしたがって勾配がゆるくなる3次曲面で、頂部は前と後で高低差がついている。これを一文字葺きのような一般的な技法で覆うのはつまらないと考えるのが藤森さんである。これまでに銅板が波打ち、活き活きとした表情をつくる方法を藤森さんは編み出し、数多くの建築作品をつくってきたという。
細い栗の柱が屋根を支えている。
こんな通路もあったが、立ち入り禁止。たねや農場に続いているらしい。〈銅屋根〉の斜面に沿った通路をゆくと灯籠が並んでいた。
同書は、行燈のような照明のし上げも土風という。
高さは20mという。
同書は、ワークショップで銅板を折り曲げ、材料をつくるのはいつもの藤森流。今回はそれを重ねて葺き、先端を5㎝ほど起こして影を出し、立体感を与えるというものという。
クスノキは逆光のおかげで枝が立体的に感じられる。
だんだんと〈草屋根〉に近づいてきて、〈七つ石〉の3つが一列に並んでいるように見える。
〈七つ石〉には人の顔に見えるものがある。ひょっとして藤森さんなどという愛称がついているとか😎
クスノキは逆光のおかげで枝が立体的に感じられる。
だんだんと〈草屋根〉に近づいてきて、〈七つ石〉の3つが一列に並んでいるように見える。
〈七つ石〉には人の顔に見えるものがある。ひょっとして藤森さんなどという愛称がついているとか😎
よく見ると、てっぺんにあるのは松だけではない。錆びた太刀のようにも見えるが、これが散水装置?
奥の建物はヴォリーズ記念病院。
ツユクサに
久しぶりに見たウキクサ
北ポーチには大きな植木鉢。これも土風モルタル?少ししか写ってないけど、床はワラ入り土風モルタルではなかった。
久しぶりに見たウキクサ
〈栗百本〉は近くから全体を写すのが難しい。
同書は、とりわけ、味わい深いのは、〈銅屋根〉のホールの床や〈栗百本〉の床などに施工された「人造石研ぎ出し仕上げ」、略してジントギと呼ばれる技法である。セメントに小粒の砂利を混ぜて塗りつけ、適度に乾燥させてから電動のサンダーで表面を研磨し、石のような表情をあらわす。手間がかかるため、現在は施工される機会は少ない。だが、ジントギならではのやさしい雰囲気が人を引きつけるという。
濃い色のナンテンハギが咲いていた。
ラコリーナはさまざま職種の達人たちの腕と工夫の博物館のようだった。
濃い色のナンテンハギが咲いていた。
ラコリーナはさまざま職種の達人たちの腕と工夫の博物館のようだった。
手こぎ舟で近江八幡の水郷をめぐる
サントフォワ修道院聖堂のステンドグラス
参考サイト
エスカルゴの国からというブログの茅葺き屋根の上につくる芝棟
参考文献
「この建物 お菓子屋です ラ コリーナ近江八幡」 藤森照信+たねやグループ 2017年 たねやグループ
「奇想遺産 世界のふしぎ建築物語」 藤森照信他 2007年 新潮社