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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/08/31

モワサック、サンピエール修道院 南回廊柱頭


続いて南回廊へ。
モワサックのサンピエール聖堂回廊の柱頭彫刻はについて『Sculptures Romanes』は、その類似性から、最初の工房の作品は、モワサックの回廊完成のすぐ後に制作され、1100-1110年頃とされている8つの聖書の物語と6つの頂板で、モワサック集団の一工房が造ったものである。
全体の形や柱頭の大きさ、図柄の構成と、人物を特定できる姿がモワサックの柱頭と似ており、トゥールーズ風の柱頭彫刻が生まれるのはその後のことである
モワサックの回廊の柱頭のように、四角錐のピラミッドの形を俯せにした花籠飾りが特徴である。卵形の顔に小さくずんぐりした体の人物像は静的で、ほぼ正面向き、そして何もない背景から高く抜き出ている。場面は各面毎に区切られている
という。

サンピエール修道院回廊は、北西から入って北側から時計回りに回ったが、『moissac』の平面図では西回廊から番号が打ってあるので、それに従うことにする。
また、中庭には入らなかったので4面ある柱頭彫刻のうち3面しか見えなかったし、限られた時間の中で1面しか写せなかったものもある。
尚、その注釈は同書のものである。
四隅の支柱は2箇所に2本の付け柱があり、そこから単柱と2本の円柱が交互に並んでいる

24 支柱南面 聖マタイ
最初の福音書の著者
身体は正面を向いているが、顔は左を向く。支柱の西面で右を向くバルトロマイとは90度という角度はあるが、向かい合っていることになるだろう。
手に持つ書物には、ダビデの息子、アブラハムの息子であるイエズス・キリストの家系の本。アブラハムはイサクを、イサクはヤコブをなした

25 洗者ヨハネの殉教 新約聖書の物語 双円柱の付け柱の上 ピンボケ
頂板は透彫の環つなぎ唐草
東面 不気味な誕生日の菓子のように、テーブルの上に殉教者の血まみれの首が置かれている
トゥールーズ、ドラド修道院回廊の最初の工房作の柱頭では、宴会の場面ヨハネの首の場面が分けられていて、同じくトゥールーズのサンテティエンヌ司教座付聖堂回廊のものとされる柱頭(12世紀後半)では宴会の場面でサロメがヨハネの首を運んでいる。
柱頭には関係ないが、彫刻の下部に彩色の痕が認められる。

26 木と鳥 装飾的な文様 単円柱の上
鳥にしても動物にしても、面の中央に相対することはなく、互いにそっぽを向いている。
頂板には双頭の鳥(鷲)

27 偉大なるバビロン 旧約聖書の物語 双円柱の上
エルサレムと敵対する町
バビロンを城壁と高い見張り塔がたくさん立つ立派な都として表している。
東面
二人の女性が棒状のものを持って城壁の上に姿を見せているように見えるが、兵士かも
西面
この面では二人は上を向いて大声で呼びかけているみたい。これはバビロン捕囚を表しているのかな。

28 図案化された鳥 装飾的な文様 単円柱の上
西面
2羽とも奥側の肢で棒か巻き物のようなものを掴んでいる。
頂板は組紐文

29 ネブカドネザル王 旧約聖書の物語 双円柱の上
頂板の銘文は、大きなバビロンは私が建てたのか?彼は言う、汝ネブカドネザル王は、汝の王の座から退き、牛のように草を食べ、7年が過ぎるであろう
北面 (写真なし) バビロン
東面 王と右に夢を解釈するダニエル。だが占い師は異議を申し立てる
南面 巻き物に名が記されたネブカドネザルはその玉座に坐っている
西面 王は動物に変身し、草を食んでいる

30 聖ステファヌス(サンティエンヌ)の殉教 聖人の殉教 単円柱の上
東面 信仰と聖霊に満ちたステファヌスが説教している
頂板の下向きの蕾は、右から左へと少しずつ開いていく。
北面 (写真なし) 兵士たちは彼を刑場へ連れて行く
西面 教会の歴史上最初の殉教は石を投げて殺された
頂板の花は蕾から種ができたものまで様々
南面 埋葬
布を掛けた棺を担ぐ人たち
頂板の花は開き始めたものが並ぶ

31 2段のアカンサス 装飾的な文様 双円柱の上
北面
頂板には左を向いて蹲るネコ科の動物。向かい合うのでも、そっぽを向くのでもなく、並んで同じ方向を向くのは珍しい。

32 ダビデと楽士たち 旧約聖書の物語 単円柱の上
南面 ダビデは我々に言った、主の家でキタラを奏でよ。彼の前にリラを演奏するアサフがいる
玉座に坐ったダビデは段のある足置き台に片足ずつ置いている。
モワサックの工房の彫刻師が造ったというドラド修道院回廊の柱頭でもダビデ王は角で玉座に坐っている。
頂板には長い首の怪物が互いに首を回して、自分の尾をくわえている。
東面 エマンはロッタを弾く
ドラド修道院回廊の柱頭でも竪琴を弾く楽士が登場する。
北面 (写真なし) エタンがタールを叩く
ドラド修道院回廊の柱頭のタールを叩く楽士はこちら
西面 イデトゥムがシンバルを持った両手を広げる
東面と西面の頂板は、向かい合って首を絡ませる鳥が2対表されている。

33 聖なるエルサレムの町 旧約聖書の物語 双円柱の上
鋸壁の上に町の名が刻まれている
東面 
石を投げているのだろうか
南面
右手に剣を持つ兵士
西面
右の人物は剣を持っている

34 中央柱
3面は赤大理石で補修されている

35 黙示録の動物 新約聖書 双円柱の上
「1000年の恐怖」の伝説は、この黙示録の第20章の幻視に由来する
東面 怪物は千年の間鎖で繋がれている
南面 天使は重い鎖を牽き、深い井戸を開く
西面 千年は過ぎ、怪物は解放された
北面 (写真なし) ゴグやマゴグは天上の火が焼き尽くした異教徒の国を象徴する

36 四福音書記者 新約聖書 単円柱の上
南面 マタイ 有翼の人物
西面 マルコ ライオン
北面(写真なし) ルカ 牡牛
東面 ヨハネ 鷲 

37 イエズスの2つの奇蹟 キリスト伝 双円柱の上
信仰を賛美し願いを聞き入れた異教徒たちとイエズスとの2つの出会い
カナンの女
西面 カナン人の娘(狂気の)は小神殿(左)に監禁されている。その母は聖ペテロの前で、他に3名の使徒を連れたイエズスに懇願した
南面 キリストに同行している3名の使徒
東面 病人が床に伏している。ローマ人の役人がキリストに懇願している
北面(写真なし) イエズスが異邦人を受け入れるので、聖ペテロはローマの百人隊長の望みでユダヤ教ではない教会を何時か開くだろう

38 善きサマリア人 キリスト伝 単円柱の上
福音書記者ルカのこのたとえ話は、サマリア人の慈悲の例である
西面 盗人たちの上に落ちた
大きな道の3名の追いはぎの内の一人が不幸な旅人を剣で刺した
頂板は蔓に絡まれた首の長い動物と有翼の動物が左右対称に表される。
南面 一人のサマリア人
オイルとワインでその傷の手当てをし、包帯を巻いた
東面 その道を通っていた聖職者とレヴィ人
しかし善きサマリア人はけが人を動物に乗せて・・・
北面(写真なし) 彼の世話をする
宿(教会)に運んで宿の主人(聖ペテロ)に任せた
モワサックの彫刻師の親方は十字の腕を表しながら、「善きサマリア人」がイエズス・キリストを思い起こすことを望んだ

39 キリストの誘惑 キリスト伝 双円柱の上
頂板は透彫のようなの環つなぎ唐草
東面 イエズスは、石をパンに変えるよう悪魔に試された
北面(写真なし) イエズスは神殿の高いところから飛び降りるよう試された
南面 イエズスはサタンの前でひれ伏すよう試された 
西面 イエズスは二人の天使に励まされた
悪魔も天使も翼があって見分けにくいが、天使は足首までの衣装を着ているが、悪魔は短いか裸のようだ。

40 ヨハネの幻視 新約聖書 単円柱の上
南面 パトモス島で、聖ヨハネは霊感にとらわれる。天使に起こされて「神の啓示の本」を書くよう使命を受ける
東面 黙示録の騎士 
西面 黙示録の騎士
北面(写真なし) よく切れる鎌を持った天使

41 キリストの変容 キリスト伝 双円柱の上
イエズスは3名の使徒を高い山に連れて行った。彼らの前で変身し、顔面は太陽のように輝き、白い着衣は光のように白い神性を示した
北面(写真なし) エルサレム
南面(写真なし) 雲の渦巻は変容の場面を隠し、我々には(左から右に)ペテロ、ヤコブ、ヨハネの3名を見せる
ドラド修道院回廊の最初の工房が作成した柱頭では2面にわたって描写されている。
東面 モーゼとエリヤとイエズス
西面 イエズスと使徒たちは山から下りた

42 ペテロの解放 単円柱の上 
南面 ヘロデは警護の者に連れてこられたペテロを断罪する
東面 ペテロは監獄に繋がれ、使命を伝えに来た天使に起こされる
北面(写真なし) 警護の兵士たちは背後の楯につかまった
西面 聖ペテロと天使は解放された 

43 キリストの洗礼 キリスト伝 双円柱の付け柱の上
西面 ヨルダン川の水に浸かったイエズスは聖洗者ヨハネによって洗礼を受ける。二人の使徒がイエズスの衣服を持っている。中央の天上から聖霊を表したハトが降りてくる
初期キリスト教美術では、ラヴェンナ、アリウス派礼拝堂のドーム(500年頃)にキリストの洗礼がモザイクで表されている。そこではヨルダン川に浸かるキリストは若い。初期の作品ほど若く表され、時代を経ると共に年齢が高く表される傾向にある。

44 支柱 パウロ
彼はキリストに伴った十二使徒のうちに入らないが、彼が使徒とされるのは、異教徒にキリストの教えを説くという使命を課されているからである

 サンピエール修道院 西回廊柱頭←   →サンピエール修道院 東回廊柱頭

関連項目
トゥールーズ、オーギュスタン美術館 ドラド修道院の最初の工房
キリスト降誕図の最古は?
翻波式衣文はどこから
雲崗石窟の忍冬唐草文
サンピエール修道院 北回廊柱頭
サンピエール聖堂 南扉口

参考文献
「中世の街角で」 木村尚三郎 1989年 グラフィック社
「図説ロマネスクの教会堂」 辻本敬子・ダーリング益代 2003年 河出書房新社(ふくろうの本)
「Moissac porte du ciel」 Pierre Sirgant 発行年不明 Jean-Michel Mothes
「moissac ABBAYE SAINT-PIERRE Guide de visite」 Pierre Sirgant 1986年 l’association Montmurat-Montauriol