ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2015/09/04
雲崗石窟の忍冬唐草文
かなり以前に軒平瓦の忍冬唐草文を調べていて、長広敏雄氏が分類した忍冬唐草文が、どの窟のどんなところにあるのかが気になっていた。
それについてはこちら
雲崗石窟のパルメット系唐草文の方が古いが、中央アジアの蔓草文に興味をもったこの機会に、せっかくなのでまとめておこう。
『日本の美術358唐草紋』(以下『唐草紋』)は、中国石窟寺院の唐草紋を研究した長広敏雄は、雲崗石窟のパルメット系 唐草紋を羽状唐草、並列唐草、環つなぎ唐草の3群に分類した(『雲崗石窟』京都大学人文科学研究所 1951)。前2群に共通するのは、三葉もしくは四葉の半パルメット、すなわち五葉あるいは七葉の全パルメットを折半したものを単位紋様とした点であるという。
1群:羽状唐草
『唐草紋』は、半パルメットの波状唐草には2種類あって、波状の茎を主軸とし、その山と谷にS字形に彎曲した三葉半パルメットをつけた形式、および半パルメット葉の先端から次の半パルメットが吹き出るように生じて、波状に展開するものとであるという。
第7窟後室西壁第3層仏龕 雲崗中期(470-494)
第3層と4層の境界となる文様帯に1のタイプの反対向き偏行唐草文
第13窟南壁第2層西側 雲崗中期
台座は2のタイプ
第9窟後室南壁東側 雲崗中期(470-494)
台座は3のタイプ、光背は6のタイプで、台座下中央に三葉パルメットがあり、左右に半パルメットが波状にのびている。しかし、下の偏行唐草には中心となる三葉パルメットがないのでタイプ2となる。
2群:並列唐草
『唐草紋』は、波状の茎がなく、S字形の半パルメットを連接させながら並べてゆく単純な構成のもの。これにも2種類あって、下向きの半パルメットが連続している偏行唐草と、中央に全パルメットを配し、そこを起点に左右対称に上向きの半パルメットが連続する均整唐草とである。この類は中央アジアにはみられない中国独自の唐草であることから、伝統的な雲紋との融合を説く論者もいる。雲崗石窟では第1期に属する16-20窟と7・8窟にのみ認められ、第2期にはより複雑な波状唐草、輪つなぎ唐草へと変わったという。
第9窟前室北壁第3層東側
上側は8のタイプだが、環内の文様の中央が三葉パルメットになっていない例、下側は4のタイプ。
第20窟未来仏 曇曜5窟(雲崗初期)
右耳の高さの唐草文は6のタイプのよう。
右目の高さから左にかけては5をひっくり返したタイプが、左右逆の巻き方となっている。頭頂部は『中国石窟雲崗石窟2』の図版では、半パルメットが向かい合って、全パルメットとなっている。
第17窟過去仏 雲崗初期
6のタイプだが、半パルメットが長く伸びている。頭頂部で向かい合った半パルメットが全パルメットをつくり出している。
第7窟後室南壁門拱上側 雲崗中期(470-494)
6のタイプの典型
第9窟前室弥勒菩薩像光背 雲崗中期
6のタイプが着色によって輪郭が強調されている。
第12窟前半西壁 雲崗中期
6のタイプの略された文様のよう。
3群:環つなぎ唐草
同書は、環つなぎ唐草は、輪郭内に色々なパルメットを納めたもので、交差する2本の茎のリズムを基調にした波状唐草系(7)と、単に環形を並べただけの並列唐草系(8)とがある。後者には三葉半パルメットを2個向き合わせて環を形成した例がある。なお、横に伸びる横帯式と縦に連なる縦帯式の二様があるが、基本は変わらない。環のばあいは内部に別のモティーフを配しやすいのであろう、仏像、天人、瑞鳥などをおさめた例が多い。六角形に構成すると亀甲紋に通じるという。
第10窟前室西壁第3層の下 雲崗中期
第3層は交脚菩薩像と両脇侍の菩薩半跏像とを隔てる角柱に環つなぎ唐草が縦に配列され、複弁蓮華文の文様帯で分けられた下層の天蓋に、8の並列唐草系三葉パルメットの環つなぎ唐草文がある。
第6窟後室東壁南側 雲崗中期
8の並列唐草系に、Y字形が入り込み、環の内部を3分割する。上側のパルメットは極端に小さい。
Yの両腕は環の外に伸びて、文様帯の上辺で交わる。横に並ぶ亀甲繋文を部分的に表しているようにも見える。
第10窟後室南壁拱門 雲崗中期
柱には8の変形が縦帯式に並び、環の内部には鳳凰や龍のようなものが入り込む。
框の下側は浅浮彫の天人と、高浮彫の化生童子が交互に配されるが、それらの背景となる唐草文は8のタイプの変形とみることができる。
上部の唐草文は2のタイプで、そこには様々な鳥が表されている。
7のタイプは見つけられなかった。
また、蔓の主茎が波状に上下しながら、それぞれの空間に蔓が弧状に別のモティーフを巻き込む、いわゆる唐草文もある。
第11窟南壁第2層西側仏龕 雲崗中期
二仏並座像の仏龕龕眉には、正面を向き合掌する化生童子を中央において、その頭光あたりからでは茎が小さな三葉の半パルメットを出しながら、それぞれの蔓の先に化生童子を出現させるという唐草文様となっている。
写真に文献名のないものは、雲崗石窟で撮影した写真です。
関連項目
日本の瓦4 パルメット唐草文軒平瓦
※参考文献
「日本の美術358 唐草紋」 山本忠尚 1996年 至文堂
「中国石窟 雲崗石窟2」 雲崗石窟文物保管所編 1994年 文物出版社
「雲崗石窟」 山西雲崗石窟文研所・李治国偏 1995年 人民中国出版社
「世界美術大全集東洋編3 三国・南北朝」 2000年 小学館