『新・善財童子 求道の旅-華厳経入法品・華厳五十五所絵巻-』(以下『新・善財童子』)の図版と本文、時には梵文和訳 華厳経入法界品(下)などから引用して作成しています。
善財くんは南の方にあるクータガーラ(楼閣)都城に向かった。
23 婆施羅船師(クーターガーラ)
城の門前の海岸において、「大悲の旗印」という菩薩行を得て、すべての衆生の利益を叶える(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
善財童子は、南へと急ぎ、優鉢羅花長者に勧められた目的地、楼閣城に近づいた。
都城は海岸沿いにあった。城門に続く浜辺をふと見ると、婆施羅船師とおぼしき人が大勢の人たちに囲まれながら坐っている。囲んでいる人たちはどうやら船頭や水夫や貿易商人たちであるらしい。
善財童子は前に進み出て合掌し、来意を告げた。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 23 婆施羅船師 新・善財童子 求道の旅より |
「なに、無上の悟りに向けて発心し、生死の迷いのない一切智の海に入りたいとな。善男子よ、よくぞ参られた。儂はこの大海の岸辺にある楼閣城に住み、海岸路に来ては大悲幢という菩薩行を浄めることに努めておる。儂は貧しい衆生たちを見れば、彼らの望みに応じて財物を与え、そのうえで教えの道を説き明かしますのじゃ。そうすると彼らには智慧の海に導いているということじゃ。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 23 婆施羅船師 新・善財童子 求道の旅より |
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 23 婆施羅船師 新・善財童子 求道の旅より |
善男子よ、儂は自分を見聞きし憶念することがむなしくないという、この大悲幢の菩薩行を会得しておりまするが、他の菩薩行については詳しくないのじゃ。行かれよ。これより南にナンディハーラ、すなわち可楽という名の都城があって、そこに無上勝という長者が住んでいなさる。その方に尋ねられよ。 菩薩行をどのようにして修めればよいかを」
インドは広大で、どこまでも南に続いている。
24 無上勝長者(ジャヨーッタマ)
ナンディハーラ(可楽)城のヴィチトラ・ドヴァジャー(大荘厳幢)無憂樹林において、「あらゆる所に赴く」という菩薩行の門を知り、世間で教えを説く(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
業をつくらない神通力によって、どんなとろへも赴ける菩薩行の法門を知っている。
善財童子はまたまた旅を続け、かなりの日を要して可楽城に入った。早速無上勝長者の居所を尋ねると、都城東端の小さな無憂樹の森のなかで、多くの家長たちに囲まれながら床几に腰掛けて坐っておられた。何をしておいでなのかと近づくと、どうやらあちらこちらの都城の司法事務を決裁し、その事件なり争いごとなりについて、周りの人々に話されている様子。長者を囲んでいるのは大商人や富豪たちであるらしい。
事業の運不運を通じて物欲とは何か、物を所有するとは何か、自我とは何かを明らかにし、あらゆる執着から離れ渇愛の絆を断ち切り、心を深山の湖のごとく清浄にして、仏の教えを受け入れるように、そのように勧めていた。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 24 無上勝長者 新・善財童子 求道の旅より |
不善業とは、生命あるものを殺すこと、・・・それに貪り、瞋り、邪見の三つを入れての十悪のことじゃが、儂は衆生たちこれらの行為を止めさせ、代りに技術を学ばせ、世間に利益をもたら論書を説いて、衆生たちに喜びを与えるのじゃ。仏法を説き、邪見を除くためには、たとえ異教徒の教えでも手本とすることがある。
善男子よ、このように儂は業をつくらない神通力によって、どんなとろへも赴ける菩薩行の法門を知っている。だが他の菩薩たちについてはわからぬ。
善財くんはこれまでよりきりっとした顔で合掌している。
行け、善男子よ。ここより南の輸那国にカリンガヴァナという都城があって、師子奮迅という名の比丘尼が住んでいる。この尼さんを訪ねるとよい」
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 24 無上勝長者 新・善財童子 求道の旅より |
行け、善男子よ。ここより南の輸那国にカリンガヴァナという都城があって、師子奮迅という名の比丘尼が住んでいる。この尼さんを訪ねるとよい」
とやはり南に行くことになった。
25 師子奮迅比丘尼(シンハヴィジュリンビター)
シュローナーパラーンタ(難忍/輸那/無辺際河)国のカリンガヴァナ(迦陵迦婆提/迦陵迦林/羯陵迦林)城の日光園において、「一切の慢心を打ち破る」という菩薩の解脱を得、十方世界の諸仏に供養し、奉仕する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
無上勝長者から聞いたカリンガヴァナ城を目指してひたすら歩き続けた。旅を始めた頃からすると足取りは軽い。
都城に着き、比丘尼が都城のなかの大園林に逗留し、説法するというので、それを聞きに行く途中だったのである。その園林はジャヤプラバー王が寄進したもので、その名も日光園ということであった。
宝樹の根元にはどれも獅子座が設けられており、それも色とりどりの宝石で飾られ、一つとして同じものはない。すると宝樹の根元にあるどの獅子座にも比丘尼が坐っておられるではないか。しかも獅子座の周りには、いずれも大勢の人たちが比丘尼の説法を聞こうと坐っている。だが坐っている人たちが獅子座ごとに違う。
なんと姿、容貌は不二ならず、どの比丘尼も師子奮迅尼その人なのだ。師子奮迅尼はそれぞれの獅子座において、それぞれの聴衆たちに応じ、それぞれにふさわしい法をお説きになっておられるのだ。
このようなことがお出来になるのは、この比丘尼の前世の善業の果報、出世間の広大な善根より生じたものであり、また比丘尼が普眼捨得や説一切仏法や法界弁別や生一切衆生善心や無礙真実蔵や法界の円満といった十の般若波羅蜜の禅定門に悟入されているからであろう。なんとすばらしいことよ。善財童子はそう感じ入りながら、ひときわ輝く師子奮迅比丘尼の前に坐り、合掌して菩薩行のことを尋ねた。比丘尼は諭した。
「善男子よ、私は一切の慢心を打ち破るという菩薩の解脱を体得しているのです。その境界、要するに心の対象領域はといえば、それは三世に属す森羅万象を一心刹那のうちに辺際まで顕現させる、そうしたことのできる智の光明なのです。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 25 師子奮迅比丘尼 新・善財童子 求道の旅より |
この章はとりわけ自然描写が素晴らしい。
水辺の柳、州浜もあれば岩も出ている。そこに集まるカモや小鳥たち。尾の長い小鳥はオナガかな?
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 25 師子奮迅比丘尼 新・善財童子 求道の旅より |
ただ私はあなたのご覧の通りの菩薩の解脱を知るのみで、他の善知識については存じません。ここより南のドルガ、別名険難国のラトナヴューハ、宝荘厳という意味の都城に婆須蜜多女という名の遊女が住んでおられます。その方にも聞いてごらんなさい」
と、南を目指すことになった。
26 婆須蜜多女(ヴァスミトラー)
ドゥルガ(険難)国のラトナヴューハ(宝荘厳)城の大邸宅において、「離欲の究極を究めた」という菩薩の解脱を得、すべての衆生が離欲するように説法する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
婆須蜜多女は宮殿風の建物のなかに、豪華な敷物で飾り、多くの侍女や立派な男たちに囲まれて坐っていた。善財重子は彼女の魅力に圧倒されながらも、彼女に向かって合掌し、はるばる訪ねてきたわけを話した。
善財くんは石段の下で手を合わせている。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 26 婆須蜜多女 新・善財童子 求道の旅より |
「善財童子とやら、よくぞ来られましたね。私は離貪欲際、要するに離欲の究極を究めたという菩薩の解説を会得しておりますの」
「私はすべての衆生が欲望を離れることができるように言葉で、あるいは身体で法を説きますの。そうすると衆生たちはそれぞれすばらしい菩薩の三味の世界、いわば忘我の世界に入り、離欲の究極に達するのですよ」
「あなたは一体どのような善業を積まれて、そのすばらしい菩薩の解脱を体得されたのですか」「私はある長者の妻でスマティと申しましたが、世尊の示された奇蹟に駆りたてられ、夫とともに走り出し、町角に近づいて来られた世尊に一枚の宝石のお金を差し上げました。世尊の傍らには文殊師利菩薩が侍者として仕えておられましたが、その文殊菩薩が私をこのうえない悟りに向けて発心させて下さったのです」
釈迦如来の侍者としてやってきた文殊師利から悟りに向けて発心させてもらったという。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 26 婆須蜜多女 新・善財童子 求道の旅より |
「善財さん、こうして私はこの離欲の究極を究めた菩薩行を体得できたのですが、しかし私は他の菩薩方の功徳については存じません。 ここより南に善度城という都城があり、そこに鞞瑟胝羅という居士が如来の塔廟を供養しておられます。その方にお尋ねになったらいかがでしょうか」
と、また南に向かうように勧められた。
27 鞞瑟胝羅居士(ヴェーシュティラ)
シュパ・パーラ(首婆波羅/善度/浄達彼岸)城の住いにおいて、「不涅槃の果て」という菩薩の解脱を得て、すべての如来を眼前にする(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
善度城、シュバパーランガマ都城に向かった。都城に着くと早速鞞瑟胝羅居士の住居を訪ねた。そこには立派な宝塔があって、居士はそのかたわらの床几に坐し、瞑想に耽っておられた。お歳は古稀のころであろうか。合掌して待つ善財童子に気づくと、やおら口を開いた。
「善財とやら、よくぞ参られた。儂は不涅槃の果てという菩薩の解脱を会得している。もし衆生のためでなければ、如来は過去においても、現在においても、未来においても、たとえどのように転生されようとも、涅槃なされることはないとの心中の声が儂のなかに湧き起こったのじゃ。 いやそれだけではない。儂は世尊の遺骨を祀る塔廟に仕えているが、あるときその扉を開けた途端、尽きることのない仏一族の系譜を悟ったのじゃ。それは一念の三昧といえる。儂は念々に三昧に入り、念々に一切の殊勝なる事象を知ることができたのじゃ」
海上に浮かぶ観自在菩薩が住む補陀落山へ行けという。
28 観自在菩薩(アヴァローキテーシュヴァラ)
ポータラカ(補陀落) 山において、「遅滞のない大悲の門」という菩薩行の門を知り、衆生たちをすべての恐怖から解放する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
善財童子は歩みを速め、険しい山並みの連なる補陀落山によじ登り、観自在菩薩を探しまわった。すると山頂近く、辺りが急に開けて美しい泉や渓流、青々とした樹々や草花があやなすところに出た。その中央の宝石の岩座に、観自在菩薩が結跏趺坐して坐っておられた。大勢の菩薩たちに取り巻かれながら。やっとお会いできた。善財童子は身体中から喜びが湧き上がってくるのを覚えた。自然と合掌する手に力がこもる。
善財くんはやっと観音菩薩に会うことができた。
「よく来られましたね。すべての世の衆生を救おうと誓願を立て、善業を志して飽くことなく、善知識たちの教えを実践しようと努める。それはすばらしいことです」
と声を掛けられた。そこで善財は観自在菩薩の足下に頂礼して教えを乞うた。すると菩薩は五色の雲を湧き上がらせて、無限の光網を放ち、喜びからかきらきら耀く右手を差しのべて善財童子の頭のうえに置いた。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 28 観自在菩薩 新・善財童子 求道の旅より |
「善財童子よ、私はこのように衆生を救って数限りないが、それでも菩薩のすべての功徳を知っているわけではない。一つの解脱、大悲の行門を会得しているだけなのだ」
観自在菩薩が善財童子にこう説き終わると、突如東方より正趣という名の菩薩が、天空を飛翔して娑婆世界の鉄囲山の山頂に降り立った。すべての仏国土に華香、瓔珞、華鬘、幢幡を雨降らしながら、補陀落山上の観自在菩薩の方に近づいて来る。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 28 観自在菩薩 新・善財童子 求道の旅より |
「善男子よ、正趣菩薩がこの説法会に来られたのを見ましたか」
「はい、観自在菩薩さま」
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 28 観自在菩薩 新・善財童子 求道の旅より |
「この正趣菩薩のもとに行って、菩薩はいかにして菩薩行を学べばよいか尋ねてごらんなさい」
補陀落山に来ている正趣菩薩のもとへ。
29 正趣菩薩(アナニヤガーミン)
東方から空を飛んで、サハー(娑婆) 世界の鉄囲山の山頂に降り立ち、「普門より速やかに赴く」という菩薩の解脱を得て、すべての仏の国土に入る(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
善財童子はまだ完全には観自在菩薩の智をしっかりと学び取ったとは思っていなかったが、それでも菩薩に頂礼し、勧められるまま正趣菩薩のところへ行って教えを乞うた。
「善財よ、余は普門より速やかに赴くという菩薩の解脱を心得ている。菩薩の不退転の行というのはなかなか理解しがたいものだが、よいかな。
すべての仏国土を通過するごとに、そこにおられる如来のもとを訪れ、如来を供養したのだ。その供養というのは、無上心の赴くところ、なんら業の痕跡を止めないという法の印するところであり、如来もお認めになり、菩薩も歓喜するものなのだ。
それらの世界の衆生を観察し、声を上げて教えを説き、様々な救いの手だてを指し示してきた。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 29 正趣菩薩 新・善財童子 求道の旅より |
すべての仏国土に華香、瓔珞、華鬘を降らせる正趣菩薩。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 29 正趣菩薩 新・善財童子 求道の旅より |
だが善財よ、余はこの普門より速やかに赴くという解脱を知るのみで他の功徳については語れぬ。この同じ南の地方にドゥヴァーラヴァティー、堕羅鉢底という都城があり、そこに大天神が住んでおられる。その方のところへ行ってみるがよかろう」
善財は瞑想の世界に足を踏み入れ、いよいよ神々の世界を逍遥する。
30 大天神(マハーデーヴァ)
ドヴァーラヴァティー(婆羅波提)城において、「雲の網」という菩薩の解脱を得て、善法の修行に向かう(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
大天神とはその都城の守護神なのだろうか。それにしても神様にお目に掛かれとは。そのようなことが出来るのであろうか。
「大天神さまなら都城の中央の神殿で、広大なお身体をして衆生たちに教えを説いておられます」と聞いた。そこで、すぐそのまま神殿に向かった。
近づくとまさに大天神が神殿から出て来られるではないか。その身体のなんと大きいこと、髪は逆立ち、腕が四本、両肩から伸びている。
驚くまもなく善財童子はぺたりと坐り、合掌して菩薩行について尋ねた。
すると大天神は四方に四本の手を伸ばして、四大海からあっという間に水を汲み、自分の顔を洗い、その手で善財童子の頭上に黄金の花びらを撒き掛けた。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 30 大天神 新・善財童子 求道の旅より |
「善財とやら、菩薩とはまことに会い難い人なるぞ。世の衆生の救済者、衆生に大いなる光明をもたらし、法の真理に入らしめる指導者、そのような方が出現されるのは稀なるぞ。
善財よ、儂は雲網という菩薩の解脱を会得しておるぞ」
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 30 大天神 新・善財童子 求道の旅より |
儂の雲網の解脱とはそのようなものだ。だが儂にはこれしか教えられぬ。行け。マガダ国の菩提道場に、スターヴァラー、すなわち安住という大地の女神、主地神が住んでおる。この女神に尋ねられよ」
そこで善財は大天神を何度も仰ぎ見て去った。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 30 大天神 新・善財童子 求道の旅より |
何と、インドの南の果てまで来たというのに、北方のマガダ国へ行けとは。
これについて彦坂周氏の印度學仏教學研究第41巻第2號「華厳経入法界品と南インドの地名について」は、第三十師が南方堕落鉢底城 Dvaravatin でそこが南端となっており、そこより南方は大海であるため、第三十一師以後は再び釈尊の教化された地である北インドの摩蜴提国に戻っている。
華厳経入法界品における善財童子の南行は南インドの新興商業都市に大乗仏教が広まっていった跡付けを象徴的に表わしているのではなかろうか。そしてこの大乗の教法を正統づけるためにインド最南端まで行った後、再び仏教の聖地北インドに戻っているのであるという。
31 安住主地神(大地の女神スターヴァラー)
マガダ(摩竭提)国の菩提道場において、「不屈の智の蔵」という菩薩の解脱を得て、菩薩の心の動きを知る(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
善財くんは幾歳月を費やしてインドの南端まで旅してきたのに、出身地より北にあるマガタ国までどのように辿り着いたのだろう。
マガタ国の菩提道場といえば、かつてシャカムニ世尊が悟りを開かれたところである。安住主地神はそのときもその場に居合わせたのであろうか。
一方マガダ国では、大勢の地神たちが善財童子の来訪を予知し、互いに語り合っていた。
「善財よ、よくぞ参られました。ここはかつてあなたが善根を植えられたところです。その成熟の結果を見たいと思いますか」
という安住主地神の声がする。善財童子は慌てて坐り、合掌して、「見たいと思います」
と答えた。
そこで主地神が足の裏で地面をなでると、不思議にも次から次へと、いくつもの宝蔵が現出した。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 31 安住主地神 新・善財童子 求道の旅より |
私はこの不屈の智慧蔵という解脱を、今を去るはるかかなたの昔、月幢という世界におられた妙眼如来のもとで会得しました。それ以来、数限りない仏国土の微塵に等しいほどの如来にまみえ、菩提道場における如来の神変、無上の悟りの成就を目の当たり見てまいりました。しかしこれ以上のことは語れません。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 31 安住主地神 新・善財童子 求道の旅より |
同じマガダ国にカピラヴァストゥという名の都城があります。カピラ城 のことです。そこに婆珊婆演底という夜の女神、主夜神が住んでおられます。尋ねてごらんなさい。菩薩行とは何かを」
32 婆珊婆演底主夜神(第一の夜の女神ヴァーサンティー 春和夜神)
マガダ国のカピラヴァストゥ(迦毘羅婆)城の上空の獅子座において、「一切衆生の痴闇を破る法の光明により世の衆生を教化する門」という菩薩の解脱を得、一切衆生の避難所となる(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
高山寺蔵春和夜神像、東大寺蔵華厳海会善知識曼荼羅(共に鎌倉時代)では31番目の善知識が春夜神像と少し違っている。
都城の中央の十字路に立ったときには、日はとっぷりと暮れ、あたりは闇に包まれてしまった。善財童子は地神から聞いた夜の女神にまみえたいと、全身全霊を傾けてその姿を思い描く。無念無想のなか、善知識たちから得た智眼が一切の法界に届こうとしたそのとき、かの夜の女神がカピラ城の上空、浮遊する獅子座に支えられた楼閣上に坐っておられるのが見えた。
善財童子はこれら様々な方便、法の真理の海を見聞きして喜びが胸に溢れ、夜の女神に身を投げた。それからやおら立ち上がって合掌した。
「女神よ、私は無上の悟りを求めて発心しております。どうか菩薩が十力の位に達するためにはどうすればよいか、その依るべき一切智への道を私にお示し下さい」
かの如来のもとへ行き、大いなる供養を行いました。そしてその如来の尊顔を拝した途端、世の衆生の教化と、み仏にまみえることの成就という三味、三世の地平を照らす智の光明の三味を獲得しました。
しかもそれによって、私には菩提心が現前し、衆生の癡闇を破る法光明という菩薩の解脱を会得したのです。それ以来というもの、私は十仏国土のあらゆる世界に遍満し、あらゆる世界の如来の足下に跪き、その世界の衆生たちの願いに応じて彼らを満足させることができるようになりました。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 32 婆珊婆演底主夜神 新・善財童子 求道の旅より |
善財よ、私が述べたのは、すべての衆生の癡闇を破る法光明により、 世の衆生を教化する法門という菩薩の解脱についてです。しかしながら、この解脱だけではこれ以上のことは語れません。この同じマガダ国にある菩提道場に、普徳浄光という名の夜の女神、主夜神が住んでおられます。私はその方のお蔭で発心し、いくたびも奮起させていただいたのですが、その方に伺ってごらんなさい」
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 32 婆珊婆演底主夜神 新・善財童子 求道の旅より |
マガダ国の菩提道場へ
33 普德浄光主夜神(第二の夜の女神サマンタ・ガンビーラ・シュリーヴィマラ・プラバー)
マガダ国の毘盧遮那仏の菩提道場において、「静寂な禅定の安楽を普く歩行する」という菩薩の解脱を得、あらゆる如来の本来の相に悟入する(梵文和訳 華厳経入法界品(下)より)
「菩薩行を成就するにはまず十種の法を具えねばなりませんでしょうね。十法を具足した菩薩が菩薩行を成就した菩薩となるのです。私は寂静なる禅定の安らぎを遊歩するという菩薩の解脱を得ております。そのことによって私にはいま述べた十法のことが実感されるのです。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 33 普德浄光主夜神 新・善財童子 求道の旅より |
そのように、あらゆる如来に悟入できると、如来の禅定の光明のお蔭でしょうか。私はこの寂静禅定遊歩の解脱をさらに拡大させ、それに悟入し、輝き、確信を得て具えます。それはあらゆる衆生を救済するためです。
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 33 普德浄光主夜神 新・善財童子 求道の旅より |
善財よ、そのように私はこの寂静禅定の遊歩という菩薩の解脱を知っております。がしかし、できることには限りがあります。この菩提道場の私のすぐ隣に、喜目観察衆生という夜の女神、主夜神が滞在しておられます。その女神のところへ行きなさい」
![]() |
| 華厳五十五所絵巻 33 普德浄光主夜神 新・善財童子 求道の旅より |
第二の夜の女神の勧めに従って、善財童子は喜目観察衆生という夜の女神に会うために、世尊の説法会の方へ向かった。
それは同じマガダ国の菩提道場のすぐ隣だという。
関連記事
参考文献
「新・善財童子 求道の旅-華厳経入法品・華厳五十五所絵巻より-」 森本公誠 2023年 朝日新聞社































