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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2019/05/31

明恵の夢と高山寺展 善財童子は善知識を訪れる


明恵の夢と高山寺展では、これまで見たことがないか、見ても気に留めなかった仏画を興味深かく鑑賞した。

春和夜神像 鎌倉時代(13世紀) 縦61.0横28.0㎝ 絹本着色 京都高山寺蔵
同展図録は、『華厳経』入法界品で、善財童子が訪問する53人の善知識(ぜんちしき、よき友)のうち、31番目に会うのが春和夜神である。夜の闇を司る女神であり、夜中の盗賊や悪鬼を撃退する力を持つと説かれるほか、一切衆生の種々の諸難を救済するという。平安時代には航海の神としても信仰されていた。
本作の右下には、合掌して上方を見やる善財童子がいる。目前には長い階(きざはし)のかかった台(うてな)があり、その上には春和夜神がくつろいだ姿で坐り、五筋の光明を放つ。高台の下方は、緑や青、ピンク等でいろどられた霞が漂い、その遙かな高さを想像させるという。
善知識は「ぜんちしき」だけではなく、「よき友」とも読むらしい。良い言葉である。
美しい春の夜を想起させる心地よい作品である。本作の右上方は傷みのため確認しづらいが、円形の月が描かれていたとみられる。
建保元年(1213)6月16日の夢には、「バサダヤ天」と思しき貴女を夢にみるなど(陽明文庫所蔵の夢記)、明恵は善知識のなかでも春和夜神に格別の信仰を向けていたようであるという。

華厳海会善知識曼荼羅 鎌倉時代(13世紀) 縦182.4横116.1㎝ 絹本着色 奈良東大寺蔵
同展図録は、『華厳経』の最終章である入法界品は、善財童子が文殊菩薩の教えを受けた後、53人の善知識(よき友)のもとを訪れ、教えを請う物語である。この主題を描いたのが本作。
最上部に「華厳海会善知識」と大書し、その下の中央の区画に『華厳経』の教主である毘盧遮那如来を描く。全身は白色で、白蓮に坐している。着衣の雷文や麻葉繋ぎ文、蓮弁の葉脈は、銀泥で描かれる。両肘を屈し手首を外側に折り曲げて印を結ぶ特徴的な姿であり、<夢記 第10篇>や<五智曼荼羅>の中尊と同じ像様である。
毘盧遮那の特徴的な姿勢と印は、中国では宋時代以降に散見される像様である。また善知識の図像は、北宋末期成立の版本『仏国禅師文殊指南図讃』と共通天がみとめられるため、本作が大陸から舶来した新しい図様をもとに構成されたことがわかるという。
高山寺蔵仏眼仏母像と同じく全身を白色で表され、白蓮に坐している。銀泥で文様を描くのも共通している。
毘盧遮那の周囲は、碁盤の目状に54区に区切り、各区画に善財童子が善知識のもとを訪れる場面を描く。
善財の旅は、向かって左上の文殊菩薩による導きに始まり、右下の普賢菩薩のもとで完結する。文殊の右が最初に訪れた善知識・徳雲比丘、そこから右方へと進行し、その下の段は逆に左方へと進行し、画面上を蛇行しながら下方へと物語は展開する。善財は善知識のもとで教えを受け、修行を段階的に進めていき、最後に普賢菩薩と対面して修行を完成させる。明恵は、修行の階梯をのぼっていく善財と善知識のあり方を、自らの修行の手本とみており、善知識曼荼羅を制作し流布させた。こうした明恵の思想には、唐の居士・李通玄による『華厳経』関連の著作の影響があるという。
お経のように、あるいは当時の日本語や中国語のように右上から下へ、次の左行の上から下へと見ていったら、31番目の区画は別の善知識だった。 
左上、一番目の文殊菩薩は、樹間で四脚座に結跏趺坐している。本来は文殊を乗せている獅子は、その四脚座の中に蹲る。
文殊は口を開き、善財童子に何かを告げている。
上から6段目右から5番目に、31番目の春和夜神がゆったりと何かの上に坐る。高山寺蔵春和夜神像は夜だったが、この図では日中のように描かれる。善財童子は立って春和夜神に教えを請うている。その間に何かがあるのだが・・・宝珠かな?
右下53番目が普賢菩薩。五色の台座に蹲った象に乗る普賢は、右足を象に置き、左手で善財童子の頭を撫でている。尾は認められないが、来迎雲に乗って、善財童子をどこかに連れて行っているようにも見える。

善財童子について『日本国宝展図録』は、豊かな家に生まれ、心の清らかな善財童子は菩薩行を学び修するため、文殊菩薩の教えに従い、多くの善知識(正しい仏道に導いてくれる存在)を求めて南へと旅に出る。老若男女、聖俗さまざまな善知識から教えを受け、ついには普賢菩薩と同等の智恵を得るに至ったというものという。
仏教美術は好きだが、仏教そのものを学んだことがないので、善財童子は安倍文殊院の渡海文殊のように、獅子に乗る文殊菩薩の侍者の一人だと思っていた。

明恵の夢と高山寺展 金泥による装飾の素晴らしさ←    →文殊菩薩と善財童子

参考文献
「明恵の夢と高山寺展図録」 2019年 中之島香雪美術館
「日本国宝展図録」東京国立博物館 2014年 読売新聞社・NHK