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2019/05/14

明恵の夢と高山寺展 金泥による装飾の素晴らしさ


朝日新聞社の創設者村山龍平の美術品を所蔵する香雪美術館はかなり以前から神戸の御影にあり、乗り換えなどで時間が掛かるので同じ県に住んでいても行きやすい美術館ではなかった。そして2018年に大阪の中之島の朝日新聞社のビルに新たに中之島香雪美術館が開設されたが、今度は行く機会に恵まれず、一年が経過して、やっと訪問することができた。
その展覧会は「明恵の夢と高山寺展」というもので、目玉は朝日新聞社文化財団が修復した「鳥獣戯画」や「明恵上人樹上座禅像」だが、今回は仏画について。

「北野天満宮 信仰と名宝展」では北野天神縁起絵巻承久本第6巻第3段部分の稲妻に截金が使われ、しかも截金に肥瘦が見られることに注目したが、「明恵の夢と高山寺展」に出陳されていた仏画では金泥による彩画を確認していった。

仏眼仏母像 平安-鎌倉時代(12-13世紀) 縦197.0横127.9㎝ 絹本着色 京都、高山寺蔵
同展図録は、明恵の念持仏である大幅の仏眼仏母像。一切を見通す智の力を尊格化したのが仏眼仏母である。獅子冠を戴き、上印を結ぶ。全身を白色で表す清新な姿は『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』に、白蓮に坐し身体が白月のように睴くと説かれるのに基づく表現。明快に形を描く線描を主体とし、太細の線を使い分ける。
本作は、神護寺にて若き明恵を導いた文覚や上覚の周辺で、宅間勝賀・俊賀を中心とする工房によって制作された可能性が指摘されるという。
この作品は昔から見てきたが、関連の書物や図録が出る度に制作年代が違う。
面長で鼻梁線を明確に表した顔貌などには、いわゆる北宋画の造形的特色もみとめられる。
また、異様に大きな獅子冠は本作の特色の一つである。この獅子冠の造形から、他の仏眼仏母像とは異なり、本作は胎蔵界大日如来の形像を手本として、その宝冠を獅子冠に変えて成立したとの説が提示されている。
着衣線は銀泥、文様は金泥で描き、獅子冠には裏箔を施すなど、白の清らかな印象を妨げないよう、金銀が控えめに用いられているという。 
『日本の美術373截金と彩色』は、銀泥文様は白あるいは淡紫の下地に描かれるが、これは黄あるいは金泥の下地に截金を置くのと同じ効果を求めたものであろうという。
細かい線による装飾の極致のような作品で、仏画の中のお気に入りの一つ。
細部の文様はこちら

釈迦阿難像 鎌倉時代(13世紀) 縦124.8横64.3㎝ 絹本着色 京都 高山寺蔵
同展図録は、左手に鉢を載せ、右手で錫杖を執る釈迦は 、岩の上に赤い敷物を広げて坐す。両足は紅白の踏割り蓮華が支える。背後には洞のある大木の幹が描かれ、こうした背景や、錫杖と鉢という托鉢を思わせる持物からは、経行中の休息の様子を想像させる。釈迦の傍らには、合掌し右膝を地につけて跪坐する比丘像があり、顔をやや上方に向けている。
彩色文様を多用する点や阿難の面貌表現から13世紀の作と推測される。
明恵は釈迦を父として慕い、その故地を踏むことを願って天竺(インド)行の計画を企てた。また、著作『四座講式』には釈迦への激しい思慕がみとめられ、明恵を支配したのは釈迦の生きた時代・空間に自分が居合わせなかったという強い悲しみだった。明恵が時折みた釈迦と邂逅する夢は、こうした宿願を夢の中で叶えるものだったという。
もし明恵上人がこの作品を描かせたのだとしたら、像は阿難であっても、明恵自身に見立てていたのかも。
鉢と錫杖には裏箔が用いられ、着衣には彩色による文様が施されるという。
鉢は絹地が傷んだところが反って金色がはっきりしているので、きっと裏箔だろうと思って見ていた。
そして着衣、特に深緑色の生地に描かれた金色の線は肥瘦があり、その自由に描く線が渦巻いたり、植物文様が続いていく様子が伸びやかに描かれていて、截金とはまた違う金泥による装飾の特長を確認できた。

文殊菩薩像 鎌倉時代(14世紀)縦77.3横35.8㎝ 絹本着色 和歌山 施無畏寺蔵
同展図録は、頭上に五つの髻を結い、右手に宝剣、左手に経巻をもつ文殊菩薩像。頭光を負い、紅白の踏み割り蓮華に立つ。五髻文殊は鎌倉時代以降に盛んに信仰され、絵像・彫像ともに作例が豊富に残るが、本作のように立像で表す例は少ない。
明恵よりは幾分降る時代の制作と考えられるが、本作と像容の近い木彫の文殊像が春日信仰と関連するため、本作も明恵の春日信仰を背景に制作された可能性があるという。
文殊の口もとなどには、当初の繊細でのびやかな描線がみとめられ、着衣は肥瘦のあるやや太めの墨線で縁取り、金泥で文様が描かれるという。
頭光の截金が用いられることが多い輪郭線も金泥ということかな。瓔珞、碗釧、臂釧などは金泥と墨による隈取りで立体感が見られる。
樋の主な衣文線も金泥である。
柔らかな着衣を表すのは金泥が適しているのかも。紅蓮華の横には同じく金泥で何かの輪郭が描かれているのだが、これが何かがわからなかった。傍の岩?

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参考文献
「明恵の夢と高山寺展図録」 2019年 中之島香雪美術館
「日本の美術373 截金と彩色」 有賀祥高 1997年 至文堂