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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2023/12/19

クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂 内部の柱頭彫刻


内部の柱頭彫刻について

平面図 柱頭に記号を振り分けたが、写していないものもある。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂平面図 『世界史の旅 フランス・ロマネスク』より

身廊の柱頭彫刻

c・d
『The Sculptures of Notre-Dame du Port』(以下『Notre-Dame du Port』)は閉じた本としている。
同書は、西の扉から入ると、かなり暗い拝廊がある。ここには2つの「閉じられた本」の柱頭 (ドアの右側の柱と左側の身廊の最初の柱) がある。単に閉じた大きな本の積み重ねのようなもの。
求道者たちは、今日の巡礼者と同じように、私たちが内陣で見ることになる、大きくて開かれた命の書に移るにつれて、徐々に神の言葉を発見するだろうという。
サンネクテール聖堂にも西ファサードから入ってすぐのところにも積み重ねられた書物という柱頭彫刻があった。


i:伝道者天使
二人の間に何かがある。

しかし、『Notre-Dame du Port』にはこの柱頭彫刻についても、「伝道者天使」についても説明がない。
しかし、二人の間にあるものが、鈴か、木の実かと思っていたが、どうやら芽吹いたばかりのアカンサスの葉を表しているらしいことがわかった。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


i:善と悪の闘い
Notre-Dame du Portは、ここには左右に二人の武装した天使がいる。右側の天使は星が描かれた盾を持ち、槍で足元の翼のあるドラゴンを押しつぶしている。二股に分かれた爪を持つ「足」が盾を引き裂いている。
もう一人の天使も悪魔の口に武器を差し込んでいる。そうすることで彼らを黙らせ、戦闘を一時的に終わらせた。
これはミカエルとその天使たちがドラゴンと戦う黙示録の一場面だろうか? 
最初から、私たちが入るとすぐに、人生は戦いであるという警告が表示される。精神的な世界ですらこの二重性の影響を受けるという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


l:キリストの誘惑
Notre-Dame du Portは、またまた戦いが始まる。頭光で見分けられるキリストは、人差し指を立てて手を差し出し、非常に奇妙な人物を指差している。彼には翼はあるが後光はなく、肋骨が突き出ている痩せた体の一部をふんどしで覆っている。意地悪な顔をしているのは、悪魔、ルシファー、堕天使を描く当時の慣習だった。彼は足元に三つの丸い石を示している。しばしば描かれるこの場面は、砂漠におけるキリストの誘惑を石に刻み込む。福音書によれば、40日間飢え続けた後、サタンはこう言っている『もしあなたが神の子なら、パンになるよう命じなさい』
キリストはこう答えた「人はパンで生きるのではない。それは神の口から出るすべての言葉だけではなく、神の口から出るすべての言葉による」という。
この辺り、苦行の釈迦に似ているところがあるけれど、お釈迦さんの場合は、スジャータという娘から乳粥をもらって体力を回復した。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


k:繋がれた猿
Notre-Dame du Portは、身廊の反対側では、あたかもキリストの誘惑を反映しているかのように、オーヴェルニュ地域で見られる彫刻の多くに非常に共通する光景に遭遇する。よく「繋がれた猿」と呼ばれている。
右隅では、男性が両手でロープをつかみ、別の人または動物の首に巻き付けている。実際、動物であるサルに近づいてみると、裸で、足がしっかりと地に付いている。
この二つの柱頭彫刻では、キリストと人間が身廊側に位置し、猿がサタンと同様に側通路に面している。彫刻家は自分の芸術を使ってメッセージを伝えている。キリストが言うように、神の言葉に基づいて生きるとは、善を成長させることを意味するという。
おもしろいと思うのは、人間も猿も、アカンサスの低い株の上に坐っていることで、その低い株と同じ高さで、両者の間のアカンサスが二段目の茎と葉を出しいる。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


十字交差部の柱頭彫刻

y:顔を背ける鳥は別の面の鳥と植物となった尾を交差させる

同書にはこの図版はあっても説明がない。尾の先に果実が実る、飢えることのない天上の楽園を表しているのだろうか。
珍しく、エキノスに組紐状や蔓草が透彫状に彫り込まれている。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より

z:ケンタウルス

別の面では、アカンサスが中央に茎を伸ばして、葡萄の房のようなぶら下がった実を、顔を背けながら両側のケンタウルスが掴んでいる。
これもまた、行いを正して生きると天上の楽園が待っているよ、と信者たちに語りかけているのだろうか。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


南翼廊の柱頭彫刻

β:高利貸し

コンクのサントフォワ修道院聖堂の吝嗇(あるいは高利貸し)の戒めを説く柱頭彫刻には、三人の悪魔が登場しているので、この柱頭彫刻で天使の羽根を持つ者たちも、きっと悪魔だろう。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


内陣の柱頭彫刻

r-1:戦い
Notre-Dame du Port』は、二つのキャラクターが盾を突き合わせて向かい合っている。二人の戦士は全く異なった要望で表現されている。
右側の人は野蛮人のように見え、ふんどしを締め、ひげを生やし、頭の髪が2本の角のように見える。彼は左腕に蛇を巻き付け、足元にも蛇を巻いているという。

二人の名前がそれぞれの盾に刻まれている。AVARICIA et CARITAS 貪欲と慈善。彫刻家はこの二つの言葉の鏡像を作った。
これは、自分自身が敵である一人の男の戦いについての物語で、ここでの戦いは心の葛藤に関するものだ。善と悪の間で揺れ動き引き裂かれ、人は選択を迫られる。
左側の背景では、ヘルメットをかぶった頭が開いた本で隠れているように見える。この翼のある悪魔は、美徳の兜の下に自分自身をカモフラージュしようとしているという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


r-2:怒りは自らを滅ぼす
Notre-Dame du Portは、こちら側の中心人物は、やつれた顔、裸足、ふんどし一枚という、悪徳を象徴するあらゆる特徴を示している。剣を振り回し、喉に突き刺そうとしている。柱頭彫刻の頂上にある碑文は、この場面が何を表しているのかを明らかにしている。
怒りは口から出る言葉を止めて自らを殺そうとしているが、怒りが生き続け、自分自身を表現し続けることができるように、怒りの周りにいる二人の悪魔がその支配を打ち破ろうとしているという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


r-3:勝利
Notre-Dame du Portは、闘争は続く…中心人物は、武装した兵士たちである。美徳が力を合わせて戦いに勝利する。彼らは両方とも足元にいる2体の生き物の肩に槍を深く突き刺しているが、顔だけが見える。それらは悪徳を表している。
彼らの盾には、この二人の戦士が誰であるかが明確に刻まれていて、左がLARGI-TAS 右がCARI-TAS 寛大さと慈善。
ここでは神学的徳目である「慈善」は、私たちに行動を起こさせる道徳的な徳目としても機能する「寛大さ」を持って与えるというという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


r-4:寄贈者
Notre-Dame du Port』は、右側では、ステファヌスが右手に花で飾られた柱頭彫刻を持ち、天使がそれを受け入れている。
ステファヌスは柱頭彫刻の「寛大さ」に背を向けており、彼の足元には貪欲の体がある。私たちは闘いの終わりにいるという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


t-1:受胎告知

Notre-Dame du Port』は、天使ガブリエルは、神によってガリラヤの町に、ヨセフという男性との結婚を約束した若い女性に遣わされた。 この少女の名前はマリア。 天使は彼女のところに行って「マリア、恐れることはありません。あなたは神の恵みを見つけたからです。そして今、あなたは妊娠し、息子を産みます。その息子をイエスと呼ぶでしょう」と言ったという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


t-2:ザカリア

Notre-Dame du Port』は、「受胎告知」の反対側には、天使と人間がいる。 祭壇のある寺院で男が焚き火をしている。 天使は主の神殿で奉仕する祭司ザカリアを指さし、彼の妻エリザベートが男の子を産むことを告げている。これもまた出産報告だが、ザカリアはこの発表に「困惑している」と福音書は述べているという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


t-3:マリアのエリザベート訪問
Notre-Dame du Port』は、頭光のあるマリアは、いとこのエリザベートを訪ねた。天使ガブリエルはエリザベートに、彼女にも赤ちゃんが生まれると告げた。ザカリアとその妻エリザベートの顔の間には、息子の名前が刻まれた石板がある。その名はヨハネであるという。
これが洗礼者ヨハネだった。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


t-4:ヨゼフ
Notre-Dame du Port』は、天使は彼の右側で髭(おそらく彼が失っていない名誉の象徴)を掴み、マリアの方へ導いたという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


u-1:アダムとエヴァ
Notre-Dame du Port』は、神はアダムとイブが「善悪の知識の木」の実に触れることを禁じているが、蛇はイブに罠を仕掛けた。
蛇は口を大きく開けて果物を差し出し、豊満な体型の女性が蛇の口から果物を取り出し、左手でその果物を男性に差し出しているという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


u-2:神からの距離
編んだ籠のように蔓の絡みを表現している。

ここにもアダムとエヴァが登場する。


Notre-Dame du Port』は、創世記の物語は柱頭彫刻の反対側で続く。中央では、片方の翼を広げ、もう片方の翼を折り畳んだ天使がアダムのひげを掴み、同情の目で彼を見つめている。アダムは手でイブの髪を掴み、足で彼女の太ももを踏んだという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


u-3:救世主
Notre-Dame du Port』は、中央に襞の多い長衣を着て、十字形の頭光がついたキリストが登場する。キリストは片手に本を持ち、もう一方の手をアダムの肩に置いているという。
左端もアダムで、エヴァから果実を差し出されている。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


u-4:人類は立ち上がるよう求められている
同書は、背中に2枚の短い翼のうる奇妙な人物が、両手で枝の葉をしっかりと掴んでいて、その葉は足の間を通ってY字を描いているという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


v-1:天使の楽士
同書は、天使が象牙の角笛を吹きながら、手に旗を持っている。 香炉を持った天使がの後を追う。
ここで表現されているのは、黙示録の中に見られるもので、…第七の天使がラッパを吹き、こう言う大きな声が天に聞こえた。「神の国は今、私たちの主とそのキリストのものである」 という。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


v-2:門
同書は、行列の先頭にいる天使は、柱頭彫刻の角にある二人の天使によって門が開かれている街に向かって進んでいる。城壁の下には大きな後陣があり、祭壇、ランプ、契約の箱が置かれている。翼のある二つの小さな頭が天使たちの肩越しに見ている。彼らは聖都、新しいエルサレム、神の王国の門を開いたのだという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より

v-3:生命の書物
同書は、ほとんど典礼的な姿勢で、天使は美しく書かれた大きな本を両手に持ってる。次のように読み取ることができる。これは命の書である。マリアは私たちを助けに来た。
受胎告知の柱頭彫刻はすでに、マリアが「はい」という言葉で救い主、「世の光」であるイエスを産んだことを指摘している。
日の出に向かって最東端に位置するこ柱頭彫刻は、拝廊の閉ざされた本の響きを響かせる。西から東へ、閉じた本から開いた本へ、私たちは陰から抜け出して光の中へ入ったという。
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より


v-4:聖母の被昇天
同書は、中央で、キリストは大きな手でマリアの体を抱きしめ、包帯がまだ解けていない聖骸布に包まれた生まれたばかりの赤ん坊のように抱きしめている。彼女の目は大きく見開かれている。その下には空の石棺があるす。キリストはマリアではなく、遠くを見つめている。右と左の二人の天使はそれぞれ石板を持っている。ここは安全な港、キリストの腕という。


周歩廊柱頭彫刻

α:二面性
クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂内部柱頭彫刻 The Sculptures of Notre-Dame du Port より



場所不明:アカンサスの葉がめぐった籠から蔓が出て絡み合い、花が咲いている


場所不明:二段のアカンサスの葉と花


場所不明:アカンサスの葉に乗る鷲


l:人の顔

他の聖堂もそうだったが、内部の柱頭彫刻はピンボケのことが多かった。


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クレルモンフェラン ノートルダムデュポール聖堂
参考文献
「世界歴史の旅 フランス・ロマネスク」 饗庭孝男 1999年 山川出版社
「図説ロマネスクの教会堂」 辻本敬子・ダーリング益代 2003年 河出書房新社
「The Sculptures of Notre-Dame du Port」 Édition du Signe 2012年