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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2019/02/19

コンク、サントフォワ修道院聖堂の柱頭を時代順に


サントフォワ修道院聖堂の柱頭について『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、ジャンクロード・フォー(Jean-Claude Fau)は、大きく4つの時代に分けているというので、今回はそれに従って並べてみた。

平面図○数字は西北側からの柱間を示す


Ⅰ期 1041-65年 最初期の柱頭群 オドリック修道院長期
同書は、聖遺物が安置された小礼拝室からなる放射状祭室の砂岩の柱頭は、サントフォワ修道院聖堂の中で最も古い部類に属している。プロスペル・メリメ(Prosper Mérimée)の主張によって建物が壊される以前に、経年劣化がひどく、主題が読み取れなくなったものもあるという。

周歩廊外側の柱頭
二人のケンタウロスに伴われた二股のセイレン 11世紀半ば
同書は、ギリシア人やローマ人が海の守り神としたカルディア起源のモティーフの最も古いものとされているという。
主面は左右対称で、二房の髪を掴むセイレンとケンタウロスの間にも葉文様が入り込み、隙間がないくらいだ。
不明の文様
周歩廊は通ったが、
撮影した柱頭はこれだけだった。
右の市松文様の頂板に、シカが頭部を突き合わせている場面とアカンサスの葉文様という二段構成の柱頭。
左はもっと分かりにくいが、柱頭は下半分が斜格子で、その上縁に動物か人の頭部が3つ、その奥側にアカンサスの葉か鳥の尾のようなもの。上半分は柱で補強された開放空間で、大きなものが突き出ている。

また、十字交差部から内陣を見ると、内陣を囲む歴史地の奥に、周歩廊の低い円柱に乗った柱頭が2つだけ見えている。何を表現しているのかわからないが、古拙な味わいがありそう。


Ⅱ期 1065-87年 エティエンヌ2世(ブロワ伯、第1回十字軍に参加)期
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、後陣の修道院に作られた。コンブレ(Combret)産の赤い砂岩が好みで、主に交差部の小礼拝室付近に配されたという。
それは『CONQUES STEP BY STEP...THROUGH THE FOREST OF CAPITALS』の平面図に記されているⅠ・Ⅱの小礼拝室のD・E・F・Gの人物の登場する最初期の柱頭と思われる。

 アブラハムの供義(イサクの犠牲)
『Conques』は、アブラハムは柱頭の左角にいる。息子のイサクに右手の剣を振りかざそうとしている。右角には天使がいて、父アブラハムと同じくイサクの腕を持っている。アブラハムの顔の高さに、アルファからオメガまでの文字で囲まれた手が雲から出現して祝福する神の右手が現れ、息子を生け贄にするのを止めた。
コルベイユにはラテン語で「アブラハムは神への生け贄に息子を捧げた」と記されている。アブラハムの背後には、息子を生け贄にする代わりに、茂みの中に牡羊がいるのがわかる。
天使は異例の場所にいる。一般的には父と子の間に立ち入るのだが、ここではアブラハムとバランスして、角の二人の人物の一人になっているという。
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、このテーマはキリストの磔刑を意味する。天使は「ペテロの解放」と同じ位置で、オーヴェルニュ地方の彫刻師の手によるものという。
アーモンド形(仏教美術では杏仁形)の目に小さな丸い穴の瞳
着衣の衣褶は密に彫り込んだ線で表される。

聖ペテロの柱頭群
 ペテロの逮捕
『Conques』は、十字の頭光を付けたキリストは天使に伴われている。天使の翼は極端に大きい。メシアは聖ペテロの方を向き、ただの後光をつけたペテロが胸に持った書物が象徴する使徒の教えを祝福する。左角の王冠を被ったヘロデはペテロを逮捕しようとしている。左手で囚人たちを入れた檻の扉を閉めようとしているという。
目はアーモンド形で瞳の丸い穴はなく、輪郭だけのものと、目全体を彫り込んだものがふる。
着衣は密に衣褶線が彫られているが、その衣端はジグザグに表され、様式化が伺える。


 聖ペテロの解放
この場面は監獄の前で展開する。翼を折った天使が使徒の手を引いているという。

 南翼廊の小礼拝室
 ペテロの磔刑
『Conques』は、聖ペテロはローマで福音を説いて、新たに逮捕された。ネロは聖人の磔刑を命じた。キリストと同じやり方で刑に処されるに値しないと判断して、ペテロは頭を下にして十字架に架けられるように頼んだ。十字架は柱頭の主面に現在でも見ることができるが、他の人物はよくわからない。
教会で最も古い部類とされてきたこの4つの人物の登場する柱頭は、四肢の細長い弱々しい姿や密な衣文線、平たい鼻などがはっきりと読み取れるという。

これはどうかな?
 内陣の聖職者席の最初の複合柱
アレクサンドロスの昇天
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、腰巻きをつけ、角ばった顔立ちで、2羽の鷲の首に掴まっている。他の図ではグリフィンが好まれた。10世紀末に、ナポリのレオン(Léon de Naples)という主席司祭によって書き写された翻訳は「アレクサンドロス物語」という主題を蘇らせた。
これはイカロスの望みを思わせる。しかし主人公は二頭のグリフィンのおかげで無事着陸できた。このテーマは兵士達に、将来また見ることができるという希望をもたせたという。
モワサックのサンピエール修道院西回廊(1100-1110年頃)にも同じテーマの柱頭があった。

植物のモティーフ
『Conques』は、絡み文様は11世紀第3四半期に赤い砂岩で制作された。特にマッシフ・サントラル(中央山塊)部で1060-70年に発展したが、ゴシック期には消滅したという。

③左 肉厚の葉叢
アカンサスの刻みがある葉が並び、その表面を先端に芽をつけた茎が網状に絡み合う。
⑨左 葉脈が密に通ったアカンサスは中央で分かれ、ところどころリボンで束ねられている。一段のアカンサスから二段への移行期のよう
⑲右 捻れ文様
捻れ文様とアカンサスの葉の柱頭の角には人物が入り込んでいる
㉗左 捻れ文様にアカンサスの葉
頂板にはロゼッタ文、角に天使の胸像、主面にライオン
㉔・㉕の間の横断アーチ柱頭
アカンサスの小さな葉と絡み文様も翼廊の付け柱
 北翼廊の聖秘蹟礼拝室(chapelle du Saint Sacrement)の右側にある柱頭
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、絡み文様のモティーフがみられるという。
左側

Ⅲ 1097-1107年 ベゴン3世(BégonⅢ)の工房
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、第2次建設期にトリビューンと回廊の柱頭を完成したという。
『Conques』は、ベゴンの工房は、人物の登場する物語よりも動物界と植物界の表現に秀でた彫刻であった。この工房の特色は、大まかな描写である。人物たちはか細く、手足や頭部だけが突出している。目はドリルで穴をあけ、深いまなざしである。頬骨は高く、ひしゃがった鼻、尖った口、高いところにある耳。容貌は型にはまっている。細い縞で表す、2つに分けた髪。
着衣の襞は生硬な削りで、折り目は潰れたり、平らになっている。柱頭の構成とコルベイユの空間は軸対称である。枠は不自然で、しばしば物語に害を及ぼしている。コルベイユは中央に空きのあることが特徴である。
植物のモティーフは物語に使われないものに施される。頂板は十分に活用され、葉飾り、時に人物や動物が入り込み、繁茂するという。

まずは人物の登場する柱頭

回廊の柱頭 ベゴン3世の墓に転用されていた(現在は南壁)
四隅に天使が配されるが、面の中央には主題がなく、軸線の上部に軒下飾り状のものがある。
西回廊の柱頭
兵士
四隅に一人ずつ楯と槍を持って立つ兵士がいるが、面の中央には削り残しのような軒下飾りがあるだけ。
日陰で見ると、中央に突き出したように軸線が残る。
市壁から敵の来襲を眺める人びと
角笛でそれを知らせる者がいたりして、面の中央にも人物の頭部が大きく表され、隙間はないが、ベゴンの工房作とされている。

聖堂内
④右 角笛を吹く人たち
『Conques』は、左右対称の構成で、軸線はパルメット形の葉文様で隠されているという。
角笛を吹く人たちの間には、アカンサスから花穂が伸びる。その上にはやはり軒下飾りを彫るつもりで間に合わなかったような石材が残る。それは角の人物の頭上にもみられる。これらを無文の軒下飾りとする。
⑤中央
『Conques』は、4天使というタイトルで、タンパンのキリストのように下ろした手は地獄を、上げた手は天国を指しているという。
中央に坐す人物は両手を挙げている。頂板を支えているのか、手を挙げて祈っているのか。
頂板 中央に口からアカンサスの葉を出す動物。左右には十字架を持つ牛が、通常は羊なのだが。

㉕左 アカンサスから顔を出す人
特異にデザイン化された二段のアカンサス、中央には軒下飾りが人頭となる。
戦いの場面
コルベイユは曲面に成形されているが、中央に軸線が残る。
㉕中央 受胎告知 
通路側は右がマリアで左が翼を折りたたんだ大天使ガブリエル。二人の間には柱状の軸線と無文の軒下飾り、長面にはアカンサスの葉が上まで伸びて2つに分かれて渦巻く渦巻の間に無文の軒下飾り。
頂板はパルメット唐草が巡る。
左 騎士たちの戦い
頂板の石畳文(市松文様)は割合多い文様だが、決して正方形に彫っているのではないのだった。

ベゴンの工房は人物表現よりも植物文様に長けていたという。植物のモティーフのうち、軸線に軒下飾りのような突起があるものはⅢ期だろう。

④左 二段のアカンサス
四隅には鳥の頭部を思わせる渦巻が大胆に彫られている。
そういえば内陣を囲む列柱の柱頭群も、二段のアカンサスの上に巻きひげが伸び、中央に軒下飾り状の突起がある。無文のものもあれば人頭のような、花のような浮彫のあるものも。おそらくベゴンの工房がつくったものだったのだろう。
それだけではない、十字交差部の彩色の残る二段のアカンサスの柱頭にも突起があるので、これもベゴンの工房作。
交差部付近の複合柱の付け柱には、明らかに突起に人頭が彫られているものも。
こちらは古風な柱頭で、二段のアカンサスだが主面は一段で頭が巻きひげの上に人頭が彫られている。風化が進んでいるだけなのか、Ⅱ期のものなのかは不明。

南翼廊㉒・㉓の間の付け柱
二段のアカンサスと、その上に若葉、そして左右に変形パルメットが伸びてその先には開こうとするパルメット文が表される

㉑左 二段のアカンサス
渦巻は蔓から出ていてアカンサスからは独立している。
軒下飾りは小さな両手を葉にのせる人物の帽子のようになっている。
㉒左 一段のアカンサス 
アカンサスの葉は装飾的で、蔓から渦巻が出る。
軒下飾りはアカンサスから伸びた蔓と蕾かな。
㉖中央 一段のアカンサス
四隅はアカンサスの葉文様、軒下飾りは人頭だけに。
⑫左 二段のアカンサス
それぞれ葉の先に松笠の垂飾がつく。しかも葉が丁寧に彫られている。渦巻の茎?でさえ蔓草のような文様が刻まれている。
無文の軒下飾りがあるのでベゴンの工房作とした
ではこういうものもⅢ期かな

複合柱の中には一段のアカンサスの葉叢の中央が分かれ、その間から真っ直ぐ伸びた茎には図式的すぎるような蕾がついているものも(『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』より)

そして動物のモティーフ

㉖・㉗の横断アーチ柱頭
何度写してもピントが合わなかった。側面に体部、正面に前肢と頭部を見せるライオンが、双方から3本の若葉を挟んでいる。左のライオンは舌を出して、しかもその舌がやや中央からそれていたりして愉快。

Ⅳ期 1107-25年 ボニファス期
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、コンクのタンパンの工房とともに完成させたという。

A サントフォワの刑の宣告の場面
『Conques』は、制作者はタンパンの親方。6人が登場する。頭部と肩の背後に絡み文様を彫っている。物語は右から左へと展開し、主要人物は角に配置される。サントフォワは右に、ローマ総督ダシアンは左にという。
タンパンの親方が制作したのなら、第4期(1107-25)のもの。
Ⅲ期のベゴンの工房の柱頭と比べると、主要人物が角に配されても、面の中央部にも人物が表される点、背景にも隙間なく文様が彫られる点、軸線や軒下飾り状の突起がない点が異なる。
この複合柱の反対側に
 キリストと二つの聖杯
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、彫刻師は木曜の最後の晩餐を表している。13名を登場させる必要はない、コルベイユの3つの面に一人ずつで十分表現できる。折りたたみ椅子に坐ったキリストは2つの聖杯を両側の使徒たちに渡している。これはキリストの磔刑と死に繋がる物語で、サントフォワの物語へと進んで行くという。
コルベイユは角があり、背景には何も彫られていないが、人物が面の中央に表されることからⅣ期にする。

左 天使たち
両角と長面中央に有翼の天使、その間に2人の人物が表されるが、どのような物語かは不明。おそらく天使の間の人物は殉教者だろう。
実はこんな風な古拙な味わい深いものが古いのかと思っていた。
⑨右 吝嗇
『Conques』は、タンパンの彫刻工房がつくったもの。角には2人の悪魔が登場し、その頭部は頂板を支えている。短面では武器をもって吝嗇の者を脅迫している。主面中央の人物は吝嗇の者或いは高利貸しが跪いており、遠くを見つめているという。
㉗・㉘の間の横断アーチ柱頭
両角に胴部が省略され、折り曲げた脚にしがみついてバランスをとる人物、そして正面中央上には小さな子供が塀から両手と顔を出しているような。


植物のモティーフは精緻な文様で軒下飾りのないものとした。

②左 アカンサスの葉文様の腰?の辺りにメアンダー文のような帯
これはベゴンの工房の特徴は見られない
⑤右 植物文様
『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、純粋さの象徴アイリスの花の装飾、様式化されて王家のユリの花となるという。
㉒中央 装飾的なパルメット文様
頂板はモワサックの回廊でも見かけた五弁花の環つなぎ唐草

動物のモティーフも軸線に軒下飾りのないもの

④中央 主面の頂板 そっぽを向く鳥グリフィン、身廊側の角に人頭
柱頭 『LES CHAPITEAUX DE CONQUES』は、誠実さの象徴2羽のカラスが、巨大な葉文様の中に表されているという。
通路側からは、向かい合った鳥が聖杯から水を飲んでいるように見える。
㉕右 
角に大きな鳥が正面をむき、その間にはアカンサスの若葉?。頂板にはカラスのような鳥が羽根をすぼめる
㉖左鳥グリフィンは主面ではそっぽを向き、側面では葉叢を啄んでいる
頂板は、花、角には有翼の天使、主面中央にはライオン
㉘・㉙の間の横断アーチ柱頭
肢の長い動物なので草食獣かと思ったが、左の方はたてがみがあるのでライオンのつもりかな。
このように身廊の西ファサードに近いものはⅣ期のものが多いのは、教会堂はミサを執り行う内陣側から建造が始まるので、西ファサードのタンパンも含め、西側ほど遅れて造られるものということになる。
㉗・㉘の間の横断アーチ柱頭

見逃した柱頭も多いので、サントフォワ修道院聖堂はまた訪れたい。そしてコンクの村でもゆっくりと過ごしたいものだ。

サントフォワ修道院聖堂 身廊と内陣の柱頭

関連項目
サントフォワ修道院聖堂 トリビューンの柱頭
サントフォワ修道院聖堂 中庭に残る彫刻

参考文献
「中世美の様式下 ロマネスク・ゴシック美術編」 オフィス・ド・リーブル編 1991年 連合出版
「LES CHAPITEAUX DE CONQUES」 Frère Jean-Régis Harmel et Julien Philippoteau 2012年 JF Impression

「Conques」 Emmanuelle Jeannin・Henri Gaud 2004年 Edition Gaud
「CONQUES STEP BY STEP...THROUGH THE FOREST OF CAPITALS」 アヴェイロン県コンク観光協会発行のリーフレット