ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2014/02/25
古代マケドニア5 黄金製花冠とディアデム
古代マケドニアはアクシオス川で砂金がたくさん採れたために豊かな国だったという。ペラやテッサロニキの考古博物館では副葬された夥しい数の金製品でそれを実感できた。
中でも、驚いたのは冠が植物の葉や花を金の薄板で象り、それを立体的に配置した花冠だった。
オリーブの花冠
左:オリーブの葉と実 右:ナラの葉(留め金がヘラクレスの結び目)
オリーブの花冠 前4世紀後半-前2世紀 金 カッサンドレイアの墓出土
『GOLD OF MACEDON』(以下『GOLD』)は、ヘラクレスの結び目の中央に貴石が付けられているという。
気付かなかったが、貴石の下にはヘラクレスの結び目がある。オリーブの実は実物よりも小さめに表現されているが、当時の実は今ほど改良されていなかったので、小さかったのかも。
ナラの花冠
ナラの葉は押し出しで葉脈が表されている。ヘラクレスの結び目の両側には花もあった。
ナラの花冠 前4世紀後半 ヴェルギナ第2墳墓出土
『GUIDE TO THE MUSEUM OF THESSALONIKE』(以下『GUIDE』)は、ナラの葉とドングリのついた花冠は、ギリシアの古美術品の中で最も印象的なものである。313枚の葉と68個のドングリが付いていて、重量は714gである。失われた葉もあるので、当初はもっと重かっただろうという。
フィリポス2世が被っていたかも知れない花冠だった。
ドングリは中空。葉っぱも意外と薄いので、見た目よりも軽い。
ギンバイカ(銀梅花かな。梅の花に似ている)の花冠
ギンバイカ花冠 前4世紀後半 ヴェルギナ、第2墳墓前室出土
同書は、発掘時には床に落ちていたが、当初はどこか高い場所に掛けられていたという。
本作品は非常に精緻な仕事で、112の花が尖った葉の間に輝いている。この金職人はオシベさえも作っているという。
オシベは別の金の薄板を型押しで作っている。細い五弁の花も数個、ギンバイカの上にのっているが、何だろう?
ギンバイカ花冠 前4世紀後半 金製 デルヴェニA墓出土
『GOLD』は、同墓では最も豪華な出土物である。土葬されていた2人のうちのどちらかの持ち物だったという。
上から見ると葉っぱの盛り上がり感が少なくなる。
正面には大きなギンバイカの花、そしてそこからはアジサイのように小さな花がたくさん出ている。
ギンバイカ花冠 銅鍍金 前4世紀第3四半期 古代エリアの墓地出土
『GOLD』は、葉柄と実を取り付ける穴を穿った金銅の軸。葉は皮針型、実は土にメッキされているという。
それで緑色に見えたのか。これだけは革などに彩色して、実際の葉に似せた作り物と思っていた。
ヘラクレスの結び目
首飾り 前325-300年頃 金 長39.0㎝ セデスΓ墓出土 テッサロニキ考古博物館蔵
『アレクサンドロス大王と東西文明の交流展図録』は、編み目になった鎖の両端に獅子の頭部を象った金具が付き、一方の獅子の口に留め具の輪が、もう一方の獅子に「ヘラクレスの結び目」と呼ばれる結び目と留め具の鉤が繋がっている。
被葬者の女性はこの首飾りをつけた状態で発見された。都市テッサロニケが前316-15年にカッサンドロスによって建設されたことを考慮するならば、この墓の年代はそれ以降のことと思われるという。
同書は、結び目をつくっている2本の紐の4つの端には、さらに小さな獅子の頭部がそれぞれ取り付けられている。結び目の中央には6枚の花弁のロゼットという。
巻きひげ
モザイクにあったような巻きひげがぐりぐり並んでいるその正面に人の顔がある。
ディアデム 前3世紀初期 金製 古代レテの女性の墓出土
巻きひげ、ナラの葉、五弁花
『GOLD』は、中央に、ヘラクレスの結び目と呼ばれる女性の頭部は、アフロディテアンテイアだと思われるという。
館内ではよくわからなかったが、図版では巻きひげだけでなく、梅のようなギンバイカの花があったり、ヒイラギかナラの葉があったりする。
花はオシベもなく、ただ金の薄板を五弁花に切り抜いただけのよう。幅のある巻きひげは、モザイクにも表されている。五弁花は螺旋を巻いた金の針金の先についている。
これを見ていると、ペラ、ヘレネの略奪の館に残る舗床モザイクで、鹿狩り主題を取り巻くアカンサスから出た茎から出る巻きひげに、幅のあるものとないものがあったが、それは植物のこのような状態を描いていたのだ。
同モザイクはこちら
また、墓室壁画の唐草文も同じことがいえる。
同壁画はこちら
別のディアデムには太い茎から巻きひげ出ていた。その上正面には人物像も付いている。
金製ディアデム 前4世紀第4四半期 セデスΓ墓出土 長0.50m テッサロニキ考古博物館蔵
『GREEK CIVILIZATION MACEDONIA KINGDOM OF ALEXANDER THE GREAT』は、単純な組紐文は8つの竪琴の形をし、渦巻、パルメットそして極細の針金から出たアカンサスの葉で豊かに飾られている。中央のものは「ヘラクレスの結び目」で、その中央に翼を広げ、鳥、おそらくハトを掴んだ天使の像がある。端は口に輪っかをくわえたライオンの頭があるという。
ここでも幅のある巻きひげと、先に葉をつける螺旋状の茎は、細く幅のない針金という、全く別のものを表現していたのだ。
金の装身具に唐草文の巻きひげの謎を解くカギがあったとは!
古代マケドニア4 墓室の壁画にも蔓草文← →古代マケドニア6 粒金細工・金線細工
関連項目
ペラ考古博物館3 ガラス
古代マケドニアの唐草文2 ペラ
古代マケドニア3 ベッドにガラス装飾
古代マケドニア2 ペラの唐草文
古代マケドニア1 ヴェルギナの唐草文
※参考文献
「THE GOLD OF MACEDON」 EVANGELIA IGNATIADOU 2010年 AECHAEOLOGICAL MUSEUM OG THESSALONIKE
「GUIDE TO THE MUSEUM OF THESSALONIKE」 JULIA VOKOTOPOULOU 1996年 KAPON EDITIONS
「GREEK CIVILIZATION MACEDONIA KINGDOM OF ALEXANDER THE GREAT」 Julia Vokotopoulou 1993年 Kapon Editions
「アレクサンドロス大王と東西文明の交流展図録」 2003年 NHK