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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/09/24

アテネ国立考古博物館 ミケーネ1 アガメムノンの黄金マスクとはいうものの



ミケーネの主な出土品に限らず、地方で昔発見されたものは、ほとんどが首都アテネの考古学博物館に収蔵されている。それはその当時、地方に博物館がなかったためだという。

ミケーネの出土品で最も有名なものは、「アガメムノンの黄金マスク」と呼ばれている、円形墓域Aから出土した埋葬者の顔に被せていた金製の面だろう。
円形墓域Aについてはこちら
その一番の目玉は、博物館の玄関を入ってまっすぐ進んだ第4室の入口前から、正面に展示されているのが見える。そのため、建物の外側の光がガラスケースに反射してしまい、写しにくかった。

円形墓域A、Ⅳ墓出土品のケース 前16世紀
『ギリシア美術紀行』は、4.5X6.4mという最大のⅣ墓-3人の男と2人の女、そして2人の子供の遺骸。収蔵登録項目はシュリーマン以後のものも含めて395。黄金面3,黄金冠2、黄金頭帯8、木製剣柄16、短剣5、短剣柄6、ナイフ16も、かみそり5、黄金杯5(「ネストールの杯」を含む)、象牙10(もしくは11)、青銅杯22、アラバスタ壺3、ファイアンス壺2、陶器8、黄金リュトン2(「獅子のリュトン」を含む)、駝鳥卵リュトン2、黄金指輪2、銀指輪3、黄金首飾1も黄金象牙櫛1、銀製8の字大楯1、5人の衣装より683個の黄金円盤と打ち出し黄金装飾板、その他細々したもの多数という。

『ギリシア美術紀行』は、黄金面はⅣ、Ⅴ墓合わせて5面出土しているが、「アガメムノンの黄金マスク」はⅤ墓の方から出土した。周知のごとく、ネストルもアガメムノンもトロイア戦争の主人公の名前であり、シュリーマンは驚喜してこれらホメロスの英雄たちの名前を使用しているが、この円形墓域Aは大体LHⅡの時代、前16世紀のものとされ、前13世紀中葉と推定されているトロイア戦争とははなはだしくかけ離れているという。

円形墓域A、Ⅴ墓出土品のケース 前16世紀

通称「アガメムノンの黄金マスク」。どうにか反射をさけて写したが、指が入ってしまった。
かなりの年配の人物だったようだ。
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、黄金のマスクで顔を覆ったのはエジプトの影響といわれる。遺体はそれぞれ黄金の胸板で飾られていた。「アガメムノンのマスク」と同じ遺体に置かれていたのは連続渦文で一面に飾られたものであった。このように他の黄金のマスクの持ち主に比べてとくに豪華に飾られていたことからも、「アガメムノンのマスク」の主が傑出した人物であったことが推測される。このマスク自体、他と比較して目立って優れた技巧をしめしており、細く長く通った鼻筋、薄い唇、引き締まった頑丈な顎、そして強く縁取られた眼は、威厳に満ちた王者の顔立ちを浮き上がらせているという。
その下の金製胸当て 前16世紀
一面に二重の渦巻文が打ち出されている。どちらかというと、私にはこちらの方が嬉しい作品だ。
金銅ではなく純金製のはずなのに、左側に緑青が出ているのは、剣などの青銅製品からのもらい錆だろう。
更に下の青銅製剣 金象嵌 前16世紀
離れて見ると金製の剣かと思うくらい、金の象嵌で埋め尽くされている。そして、その象嵌は複雑な渦巻文で満ちている。
左右の渦巻は4本の紐状のものを巻き込み、中央の渦巻は上下左右の渦巻から出た6本の紐状のものを巻き込んでいる。
渦巻の中心には6-8枚の花弁や、4-7個の点がある。
このケースにもう1品、連続渦文がある。それは胸当ての右下、六角形の小箱、のはずが、それが見えるようには展示されていなかった。
しかも、この渦巻繋文がよく写っている図版がなかなかないのだった。

六角形の木箱 金板張り 前1550年頃 高さ8.5㎝ 
どちらもが、このライオンが狩りをしている様を表した面がメインと考えているようだ。
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、英雄のみが相対せるようなライオンの獲物に対する圧倒的な力とスピードは、技巧的には拙い金製飾り板にかえって生々しく表現されているという。
しかし、ライオンよりも連続渦文に焦点を当てている人がいる。
立田洋司氏著『唐草文様』は、その昔、唐草文様の起源が知りたいと思っていた頃に出版された本である。ギリシア旅行から帰ったら、またこの本を開いてみようと思ってた。

同書は、6つの渦が一つの目に絡んだ文様の実例としては、紀元前第2千年紀(紀元前1000年代)にその名を馳せたミュケーナイが遺した金製の帯が挙げられ、また3-4つの渦が巻き込み合った例も同時代のティリュンスやミュケーナイなどのギリシア遺跡からの出土物にかなり見られるという。
このような渦を凝視していると、4つの渦から伸びた蔓が互いに集合して出来上がった渦は、卍繋文の原形ではないかとさえ思えてくる。
ライオンもすごいかも知れないが、今の私は、この渦巻繋文の方に興味がある。

ガイドの説明を聞きながら、勝手にあちこち写真を写していたので、どこをどう撮ったかわからなくなってしまったので、これらが円形墓域Aの出土物かどうかよくわかりませんが、アテネ国立考古博物館のミケーネ時代の展示室がどんなものか、写真を数枚付け足しておきます。


このコーナーは金の薄板に文様をたたき出したものが並んでいる。左側の同じ形のものが複数あるものは、衣装などに取り付けたもの。
部屋の中央には金製の坏が3段にわたって並んでいる。
ネストールの坏 Ⅳ墓出土 前16世紀
名称からもっと形の整っている金坏だろうと思っていたので、予想外だった。
把手に鳥が乗っている。

上の左辺を正面から見ると。
大壺 銀製 円形墓域A、Ⅴ墓出土 
その左側。肩に大きな渦巻文、その下にはアーチ状の装飾。
円形墓域A出土の黄金製品
黄金の酒杯が4点、どういう訳か、総てが犬の把手になっている。

青銅製の剣類

円形墓域Aの出土物。中央の耳飾りは面白い形なので写したが、とんでもないピンボケだった。
ディアデム Ⅲ墓出土 金製打ちだし 前16世紀後半
ここには渦巻がないなあ。

円形墓域A出土品
牡牛の頭部のリュトン 青銅・金・銀 前1550-1500年 Ⅳ墓出土
ライオン頭部のリュトン 金製 前16世紀中頃 Ⅳ墓出土
8の字楯 銀製
『ギリシア美術紀行』は、Ⅳ墓の出土品の中に、8の字大楯1としているが、これはそのミニチュアだろうか。
この形が楯とわかるのは、ライオンとの戦いで使っている図があったため。
それについては後日
宗教儀式用壺 Ⅳ墓出土 大理石 前16世紀
上から見るとおそらく四葉形で、その3つに大きな把手がついている。
牡鹿形容器 銀製
アナトリアとの関係を示すという。牛に鹿の角が生えているような・・・

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アテネ国立考古博物館 ミケーネ2 円形墓域A出土の墓標


関連項目

ミケーネ3 円形墓域A
アテネ国立考古博物館 ミケーネ7 円形墓域Bの出土物
アテネ国立考古博物館 ミケーネ6 ガラス
アテネ国立考古博物館 ミケーネ5 貴石の象嵌
アテネ国立考古博物館 ミケーネ4 象嵌という技術
アテネ国立考古博物館 ミケーネ3 瓢箪形の楯は8の字型楯

※参考文献
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 1987年 時事通信社
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館
「ビジュアル考古学3 エーゲ海文明 ギリシアのあけぼの」 編集主幹吉村作治 1998年 ニュートンプレス
「唐草文様」 立田洋司 1997年 講談社選書メチエ