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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/04/03

ムカルナスとは

イスラーム建築ではよくムカルナスというものが登場する。
『イスラーム建築の見かた』は、英語で鍾乳石を意味するスタラクタイト、あるいは蜂の巣天井をさすハニカム・ヴォールトとも呼ばれるものが、ムカルナスである。ムカルナスはイスラーム建築の中で生まれ、鍾乳石状、蜂の巣状に小さな曲面を集合させて、全体として凹曲面を創り出す建築的な装置である。ムカルナスを用いることによって、塔や壁面などの下方にある点や線が上方の前方へと持ち出されるのである。外部にあれば、バルコニーのように突き出した部分が造れるし、内部にあれば内側の壁面がさらに内側へと持ち送られて、ドームがかけやすくなる。
一つ一つの部品はある高さをもっており、2本のアーチ曲線とそれを繋ぐ凹曲面で構成されるという。
ムカルナスはこの3種類の曲面と水平面と垂直面を組み合わせることで構成される。高さの等しい部品を水平方向に連続させることによって、ある高さをもった一段の持ち送りが造られる。この一段の持ち送りの上にさらにまた同様な持ち送りを重ね、それを何段も積み重ねていくという。

ドーバヤズィット郊外のイサク・パシャ宮殿(18世紀後半)のムカルナスは、かなり時代がさがるため、部分の一つ一つが複雑な形をしているが、それでも幾つかの部品を水平方向に並べ、それを7段、少しずつ前方へ持ち送りながら積み重ねて、頂部で尖頭アーチのある面まで持って行っているのが見てとれる。
ドーム移行部も、ムカルナスの頻出する部位である。イランと中央アジアでは、スクインチ・アーチの内側の曲面にその発展を面白いようにたどることができる。
10世紀初頭のサーマーン廟、10世紀末のアラブ・アター廟、11世紀前半のダヴァズダー・イマーム、11世紀後半からゴンバディ・ハーキなど、12世紀前半のゴルペーガーンのジャーミとたどれば、ムカルナスが大ドームの移行部で細分化されていく様子を理解できようという。

914-43年 サーマーン朝 ウズベキスタン、ブハーラ、サーマーン廟のムカルナス
『イスラームのタイル』は、最も初歩的なムカルナスの基本ユニットがブハラにあるイスマイール廟のスクインチアーチ内の2凹面に現れるという。
サーマーン廟についてはこちら
スキンチアーチに隅から出たアーチが交わり、その間の2つの花弁状曲面がムカルナスだ。

977年 ウズベキスタン、ティム、アラブ・アター廟のムカルナス
隅に花弁状ムカルナス、その上に四角い枠があり、大きな花弁状ムカルナスが載っている。左右にも花弁状ムカルナス。ムカルナスは4つだが、スキンチアーチはない。

1088年、セルジューク朝 イスファハーン、金曜モスクの北側ドーム(ゴンバディ・ハーキと呼ばれる)
正方形の壁面から出たアーチの細部を見るとどれをムカルナスといい、どれはムカルナスではないのか、混乱しそうだ。
その上の16のアーチの上で円形となり、窓のある円筒部の上にドームが載っている。

幸い『イスラームのタイル』の「ムカルナスの進化」で、ムカルナスは上部だけであることがわかった。
同書は、続くセルジューク朝期にゴンバディハーキのような二層構成となったという。

1104-18年 セルジューク朝 イラン、ゴルペーガーンの金曜モスク
ムカルナスが出現してから2世紀で、すでに4段の複雑なムカルナスが造られている。
16のアーチの上は、ゴンバディ・ハーキと同じだ。
アニ遺跡のイスラーム建築もセルジューク朝期に建立されたもので、年代順ではイスファハーンのゴンバディ・ハーキよりも前になる。

1071-72年 セルジューク朝 大モスク天井各所
大モスクについてはこちら

2の部屋の天井は3段のムカルナスが2つの隅から出ている。
9の部屋も四隅に3段のムカルナスがある。
ミナレットにも、モスクの天井部とは全く異なる直線的なムカルナスが残っている。
1段目など、石材を削り出したような印象を受ける。
それは、今までミナレット頂部のムカルナスでは最古と思っていたイスファハーンのサレバン・ミナレットよりも以前に造られていた。

サレバン・ミナレット イラン、イスファハーン 1130年 
焼成レンガに空色タイルが嵌め込まれた初期の例でもある。
外に向かってピンピン尖って出ているムカルナスは、焼成レンガとタイルの小片の組み合わせのため、滑らかな曲面となっている。

ムカルナスが円形ドームではない箇所に使われているということ、その形の特異性、造られた時期の早さなど、アニ遺跡のムカルナスの歴史で、かなり重要な位置を占めるのではないだろうか。

                →ムカルナスの起源

関連項目
スキンチ部分のムカルナスの発展

※参考文献
「イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史」深見奈緒子 2003年 東京堂出版
「聖なる青 イスラームのタイル」1992年 INAX BOOKLET