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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/11/17

マンナイ人の彩釉レンガ


ゼンダーネ・スレイマンの火口下部に切石積みの遺構があった。それはマンナイ人のものであるという。
マンナイ人というのは、十数年前に彩釉レンガなどに興味を持った頃に聞いた名前で、僅かに伝わるマンナイ人がつくった彩釉レンガは記憶に残っていた。しかしマンナイ人がどこに住んでいたのかは覚えておらず、北メソポタミア辺りだと思い込んでいた。
それがいきなりこの火口付近の遺構がマンナイ人の住居跡とだと知らされ、彩釉レンガを思い浮かべながら登っていった。
Google Earthで見ると、同じような区画で数個ずつ4段にわたって住居が密集している。

登っていくとその石積みの基礎が並んでいるところに到達する(強烈なパノラマ合成)。
このような1区画に家族で住んでいたのかな。
壁の厚み。
頂上の岩を砕いて住居に利用したのだろうか、同じ色だ。
基礎は岩を積み、その上は日干レンガ?それとも木造?
 石壁の中の土は飛ばされずによく残っているので、段々畑のよう。

ただし、彩釉レンガの出土地は90㎞ほど西にあるブーカーンで、このゼンダーネ・スレイマンではない。
Google Earthより

では、マンナイ人の彩釉レンガはどんなだったかというと、

人面鳥身の守護獣 イラン、ブーカーン出土 前8世紀 34.5X34.5㎝ 松戸市立博物館蔵
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、ブーカーンはイランの北西部、西アーザルバーイジャーン州に位置する遺跡で、山岳地帯に侵入してきたイラン人の一部族であるマンナイ人が建てたマンナイ王国の都と推定されており、発掘調査によって神殿址の存在が知られるようになった。黒色の線で縁取りした後、青や黄色、白の釉薬で埋めて文様を描き出している。図柄そのもの及び筋肉表現などにアッシリア美術の影響が強く認められる。
施釉煉瓦の胎土は、後にスーサで製作された施釉煉瓦の石英質の胎土とは異なり、ごく普通の煉瓦の胎土が選ばれている。そのため釉薬が胎土とあまりなじまず、釉薬のほとんどが剥落してしまっているという。
オオツノヒツジのような瘤のある大きな角へと続く頭部の人物は髭はラマッス(有翼人面牡牛像)に似ている。耳は草食獣のものだが、首と肢は猛禽類。
この作品で面白いのは、下絵の黒い線がはっきりと見えることで、それを修正して、黄色く施釉せずに、白の釉薬の地となっているところまでがわかってしまう。模索期の作品だろう。

人面鳥身の守護獣 前8世紀 34.5X34.9X3.6㎝ ブーカーン出土 シルクロード研究所蔵
松戸市立博物館のものよりも色彩が豊富になった。
人間の腕と脚、角は髭も髪もある人頭に付くようになった。
右手で手付きの容器を持ち、左手は何も握ってはいないが、新アッシリア時代(アッシュール期、前875-860年頃)の浮彫に見られる鳥頭の守護聖霊が聖樹に授粉する場面に似た仕草をしている。腕輪といい、アッシリアの影響が濃いが、聖樹(ナツメヤシ)の育たない地域では、その意味がわからなかったのだろう。

人面獣身の守護獣 前8世紀 34.0X33.6X8.8㎝ ブーカーン出土 シルクロード研究所蔵
ラマッス(人頭有翼牡牛像)に近付いて、角が後頭部から前頭部に向かって付いている。 
4本の肢は牛のもので、尾は巻くようにして垂れている。

人面獣身の守護獣 前8世紀 32.5X33.5X約7.0㎝ ブーカーン出土 シルクロード研究所蔵
髪と髭のある人面に輪っかのような角が巡る。翼というよりは、3本の布が斜め上に上がっているよう。
肢も尾も草食獣ではなくライオンのような肉食獣に近い。ラマッスではなく獅子グリフィンだ。獅子グリフィンは頭部が角のあるライオンだが、マンナイ人のものは人面。

似たような彩釉レンガが、アッシリアでも出土している。

人面獣身の守護獣 前8-7世紀 33.2X32.7X8.0㎝ アッシリア出土 世界のタイル博物館蔵
かなり細かい輪郭線まで丁寧に描かれている。こちらも人面の獅子グリフィン。マンナイ人はこれを真似ているようだ。
レンガに黒い線で輪郭を描き、剥落した部分もあるが、白・黒・緑・黄の色釉がほぼ滲まずに焼けているようだ。背景の緑色にまだらに白い釉薬が掛かっているようにも見える。

鹿 前8世紀 34.2X34.0X8.9㎝ ブーカーン出土 舞鶴市赤れんが博物館蔵
最初に挙げた人面鳥身の守護獣と同じ胎土で、釉薬も黄色と白だけ。最初期の彩釉レンガだろう。

雄牛 前8世紀 33.6X33.6X8.0㎝ シルクロード研究所蔵
人面ではなく、動物としての牡牛も描かれていた。

山羊 前8世紀 33.4X33.8X7.6㎝ シルクロード研究所蔵
この山羊を見ると、最初に挙げた人面鳥身の守護獣の頭部の表現が理解できる。

四葉文 前8世紀 34.2X34.3X9.4㎝ シルクロード研究所蔵
新アッシリアのジガティと呼ばれる釘状突起付タイル(アッシュール・ナツィルパル期、前875-865年頃)を平面に描き、その組紐状の装飾を簡略化して四葉文に描いたもののようにも思える。

施釉レンガ イラン、ジウィエ出土 前8-7世紀 164X340X93 世界のタイル博物館蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、クルディスタン地方サッケズの東南に位置するジヴィエ遺跡は初期鉄器時代3期(前8-7世紀)の城塞と墓地からなる遺跡である。
この遺跡をアッシリアのサルゴン2世(在位721-705)の遠征記録に出てくるマンナイ人の城塞ズィヴィアに関連づけるフランスの考古学者A.ゴダール博士の説がもっとも妥当と考えられている。「列柱の間」と呼ばれる建物は礎石の上に木柱が並び、壁はアッシリア的な釉薬タイルで装飾されていたという。
アッシリアに倣ったものかも知れないが、そこにもマンナイ人にしかない特徴はあった。

関連項目
ゼンダーネ・スレイマン

※参考文献
「世界のタイル日本のタイル」 世界のタイル博物館編 2000年 INAX出版
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市オリエント美術館
「世界美術大全集東洋編 16西アジア」 2000年 小学館