ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2016/07/15
黄金のアフガニスタン展4 ヘラクレスは執金剛神に
ティリヤ・テペ4号墓は男性の墓で、黄金のメダイヨンは胸の上に置かれていたという(『黄金のアフガニスタン展図録』より)。
インド・メダイヨン 前1世紀第2四半期 金 1.6㎝
その裏面に登場する人物について同展図録は、ライオンの皮をまとったとみられるヘラクレスのような男性が、8本のスポークがある車輪を前方に両手で押して歩く姿を描き、その右方に古代インド文字で「法輪を転じる者」または「(彼は)法輪を転じる」と解される。
裏面の人物は仏陀の姿を表した最古の例とする説が示された。しかしこれには異論もあり、人物は単に法輪を転じる動作を象徴するのみで仏陀ではないとする説もあるという。
私もこれは仏陀を表したものではないと思う。それについてはこちら
しかし、ライオンの皮を纏って表されるのは、ギリシアの神ヘラクレスであることに疑いはない。
ヘラクレスは、古代ギリシア時代以来、棍棒を持って表されてきたが、このメダイヨンではそれが見当たらない。
それについてはこちら
棍棒を持つヘラクレスは東方にも伝わって、王の銀貨の裏に表されていることがある。
銀貨 グレコ・バクトリア朝エウティデーモス1世(前230-190年頃) 4ドラクマ 16.40g 平山郁夫コレクション
『平山郁夫コレクションガンダーラとシルクロード展図録』は、岩に腰かけ、右手で棍棒を持ち膝の上にのせる。左向きのヘラクレス神像という。
こぶこぶの棍棒は右手で握り、何かの上に突き立てている。
小さいのでわかりにくいが、ライオンの皮はまとっておらず、頭部は癖毛か、ライオンの頭部を被っているようだ。
銀貨 インド・グリーク朝エウティデーモス2世(前190-171年頃) 4ドラクマ 16.6g 平山郁夫コレクション
同書は、蔦の冠をかぶり、左手に棍棒と獅子の毛皮、右手に環を持ち、正面を向くヘラクレス神立像という。
その後、棍棒を持ったヘラクレスは仏教美術に採り入れられ、執金剛神となった。
出家踰城図 仏伝図浮彫 1-2世紀 パキスタン、ローリヤーン・タンガイ出土 片岩 高48㎝ コルカタ・インド博物館蔵
『世界美術大全集東洋編15中央アジア』は、まさに城門から出ていく太子を描写している。画面中央には、ローマ皇帝の凱旋、入城、行進のように右手をあげて進む太子と馬が側面観で描写されている。馬の足は、ヤクシャが蹄の音を消すために支えている。馬の後ろには馬丁のチャンダカが傘蓋を捧げ持っている。その背後には城門があり、その上に金剛杵を持つ執金剛神がいる。左端で円形頭光で荘厳された梵天が合掌しているという。
ヘラクレスの持物である長い棍棒は、短い金剛杵となり、ライオンの皮も被っていない。
執金剛神について『仏教美術用語集』は、金剛杵を持って仏法を守護する天部。一般に仁王と呼ばれ、上半身裸形の姿で守門神となる場合が多いという。
金剛杵は中央が凹んだ短い棒で、クシャーン朝の武器。その武器を持っているという言葉そのままが執金剛だった。
執金剛 涅槃図断片 2-3世紀 ガンダーラ、スワート出土 緑色片岩 高さ58.5幅24.5㎝
『平山郁夫コレクションガンダーラとシルクロード展図録』は、女は髪型と腰の垂飾からクシャン女性、ギリシア風着衣の男はヴァジラを持っており、執金剛である。手を頭に当てる仕草は悲しみの表現で、二人の間には沙羅らしき樹木も描かれており、涅槃図の断片であろうという。
初転法輪の準備 2-3世紀 ガンダーラ出土 灰色片岩 高さ65幅75㎝
同展図録は、初転法に訪れた仏陀と彼を迎えるかつての苦行仲間。彼らはのちに仏弟子となるが、すでに剃髪で表される。三宝(仏・法・僧)を表す三つの車輪を戴く柱頭は、鹿野苑にあったアショカ王柱のものを写している。有翼のエロスはローマ美術の影響であろうという。
この執金剛神は金剛杵を持ち、外側を威嚇的に睨んでいる。
黄金のアフガニスタン展3 最古の仏陀の姿は紀元前?←
→黄金のアフガニスタン展5 金箔とガラス容器
関連項目
ヘラクレスの棍棒が涙の柱に
※参考文献
「黄金のアフガニスタン 守りぬかれたシルクロードの秘宝展図録」 九州国立博物館・東京国立博物館・産経新聞社 2016年 産経新聞社
「ブッダ展-大いなる旅路 図録」 1998年 NHK
「図説ブッダ」 安田治樹・大村次郷 1996年 河出書房新社
「平山郁夫コレクション ガンダーラとシルクロードの美術展図録」田辺勝美ほか 2002年 朝日新聞社
「世界美術大全集東洋編15 中央アジア」 1999年 小学館
「仏教美術用語集」 中野玄三編著 1983年 淡交社