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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2011/08/16

ペンデンティブの誕生はアギア・ソフィア大聖堂よりも前

コンスタンティノープル(現イスタンブール)にはアヤソフィアと呼ばれるアギア・ソフィア大聖堂の他に、もう一つアヤソフィアという名の建物がある。キュチュク・アヤソフィア・ジャーミイ KUCUK AYASOFYA CAMII と呼ばれている。

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平面が八角形で円ではない。しかし、ドームは壁体ではなく、8本の柱で支えられている。
『世界歴史の旅ビザンティン』は、マルマラ海に面して建つのがキュチュック・アヤソフィア(小アギア・ソフィア)とよばれるアギイ・セルギオス・ケ・バッコス聖堂である。ユスティニアヌス帝夫妻によってホルミスダス宮殿の中に建立された集中式の建築であるという。
アギア・ソフィアと同様ユスティニアヌス帝が建てた聖堂だった。彼らはバシリカ式聖堂をラヴェンナに建てているが、何故ドームのある集中式聖堂を宮殿内に建てたのだろう。宮殿内ということで、面積的な制限からだろうか。
『世界美術大全集6ビザンティン美術』は、宮殿礼拝堂であったという説と、修道院とする説とがある。建物は外部がおよそ正方形、内部が八角形で、二重構造になった内側をドームが覆っているという。
ローマのサンタコスタンツァ廟を円形から正方形にし、ドームを載せる柱を円形ではなく八角形に置いたような聖堂だ。
小さいとはいっても、ドームの内径は15mほどありそうだ。
『世界歴史の旅ビザンティン』は、内部は分厚く漆喰がぬられているが、大理石の柱頭や浮彫りの文様が美しいという。
美しいモザイクが漆喰の奥に眠っているかも。
柱の上にアーチが載る点や、アーチとアーチの間が三角形となっている点でペンデンティブに近いのでは。残念なことに、三角曲面ではなく、内側にくぼんでいるのだが。
この聖堂がアギア・ソフィアより前か後かわからないが(527年という説もある)、ひょっとして、このペンデンティブの前身とも思える形や、柱でドームを支えるという発想から、アギア・ソフィアの正方形の平面にドームを載せ、それを4本の大支柱(ピア)で支える、柱とドームの間はペンデンティブという形へと発展していったのではないだろうか。
ペンデンティブの起拱点となるピアのうち、南側の2本。北西のピア付近より
『トルコ・イスラム建築』は、アヤ・ソフィアは極めて複雑な構造をしている。後世のオスマン建築の4本柱集中プランモスクの構造にも関連する。
平面図で見ると中央に広大な身廊があり、その両側に側廊があって、3廊式になっている。3廊式のバシリカ式教会堂のプランを基としている、といえる。ナルテックスとアプシスの突出部を含めないと、身廊と両側の側廊の部分をあわせた室内の広さは、横幅約70mX奥行約75mで、かなり正方形にに近い長方形である。
建物の中心の身廊部の構造が前例のない独創である。まず4本の大支柱(巨大なピア)を立て、その上に直径31mの主ドームを「ペンデンティブ」を介して据えているという。
オスマン朝の大モスクのように4本柱集中式プランにした方が建物として安定が良いのではないかと思っていたが、バシリカ式を踏襲したために、主ドームの南北側を窓の多い平たい大タンパンにしたということか。
オスマン建築の4本柱集中式プランこちら
アギア・ソフィア大聖堂と同じ時にニカの反乱で焼失したアギア・イレーネ聖堂も、ユスティニアヌス帝が再建した。
こちらも正方形の平面にドームを載せていて、側廊側は半ドームを造らない。そして、アギア・ソフィアよりずっと長方形の平面となっている。
ここにも曲面となったペンデンティブがある。
アギア・イレーネ聖堂もユスティニアヌス帝によって再建されたのだが、アギア・ソフィアを大ドームの載った大聖堂に建設するために、試験的に造ったのがアギア・イレーネ聖堂ではないのだろうか。
ところが、コンスタンティノープルでペンデンティブが誕生したのではなかった。

『トルコ・イスラム建築』は、ペンデンティブは6世紀にアルメニアで発明されたという。このドーム架構技法を直ちに用い、ローマで実用化されていたコンクリート技法と融合させて、前例のない構造と規模のアヤ・ソフィアの主ドームが実現されたという。

追記:その後、アルメニア教会について調べたが、ペンデンティブの起源はアルメニアではないことが分かった。それについてはこちら

関連項目
11世紀に8つのペンデンティブにのるドーム

※参考文献
「世界美術大全集6 ビザンティン美術」 1997年 小学館
「世界歴史の旅 ビザンティン」 益田朋幸 2004年 山川出版社 
「イスタンブール歴史散歩」 澁澤幸子・池澤夏樹 1994年 新潮社
「トルコ・イスラム建築」 飯島英夫 2010年 株式会社冨山房インターナショナル