お知らせ

忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/08/21

トークンとクレイペック

 
印影のある粘土球の中にはトークンが入っている。

トークンの入った球形封泥(ブッラ) 軽く焼いた粘土 ウルク後期初期(前3300年頃) 直径6.5㎝ スーサ出土 ルーヴル美術館蔵
『メソポタミア文明展図録』は、無傷で見つかったこのブッラは、粘土製の7個のトークンを封入する容器として使われた。この種の記録物はウルク後期以来契約者の取引を記憶する手段として用いられた。トークンのサイズと形は数を表し、また取引の帳簿に載せる物産をも意味した。疑わしい場合、運ばれた品物と契約した品目が一致するのを確かめるには、ブッラを割ってその中身を目録に記すだけでよかった。いったんブッラが密封されると、まだ柔らかい粘土表面に所有者と役所の円筒印章を転がした。印影は完全ではないが、翼を広げた3羽の猛禽を表しているという。
形や大きさによって、品物の種類や数を表した小さな粘土をトークン(token)と呼ぶらしい。しかし私は長い間、トークンは下写真のようなものだと思いこんでいた。

クレイペック 前2141-2122年頃 径60㎜長113㎜ テルロ出土 ルーヴル美術館蔵
『オリエントのやきもの』は、メソポタミアの王は、その在位中に建設した公共建築物に自分の名を残すのがしきたりになっていた。また、シュメール時代や古代バビロニア時代では、土釘などに短い碑文を刻むのが普通だった。このタイプの土釘は、建物のれんがの間に所有の印として差し込まれたもので、家を新しく入手する時に釘を槌で叩き込むというしきたりの延長として使用されたという。
トークンは文字の出現以前のもので、楔形文字で名前や碑文を刻んだものはクレイペック(クレイペグ clay peg、粘土釘)というようだ。 円錐形モザイク各種 ウルク(前3200年頃) 左端の3点は石製ほかは粘土製 右端の1点:岡山市オリエント美術館蔵 ほか11点:古代オリエント博物館蔵
『タイルの源流』は、クレイペック(粘土釘)、ストーンペック(石釘)はチグリス川、ユーフラテス川の両川の氾濫がひとつの契機になって生まれたものなのです。すなわち建造物を洪水から守り、崩れないようにするために考え出されたものがクレイペック、ストーンペックという工法じゃないかと私は考えています。つまり、洪水の被害から守るためには、建造物の壁面に立方体の粘土釘や石釘を叩き込めば補強できることを度重なる洪水の経験から発見し、それがクレイペック、ストーンペックという工法に発展したのではないかと思われるのです。これがそうした補強材からしだいに装飾的側面を強め、モザイクのような紋様へとさらに発展するという。
文字がなくても粘土釘はクレイペックだった。

『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、神殿を中心に都市的集落が発達し、歴史時代へ入る直前の段階のウルク期(前4千年紀)では、南メソポタミアのウルクやウル、北メソポタミアのテル・ブラクなどで、壁画や円柱が円錐形のモザイクを挿し込んで装飾された。代表的な例は、ウルクの神域、エアンナの主要部、建築様式としても特異な、通称「円柱広間」にある。直径が2.62mもある独立した4本の柱と、隣接して半円柱が立ち並ぶ壁面のすべての面が何万という陶製の円錐鋲で埋めつくされた。円錐鋲の長さはだいたい10㎝、頭部の直径は2㎝足らず。鋲頭は黒と赤と淡黄に色分けされ、分厚い泥の上塗りに、一定の図案にしたがって差しこまれた。鋲は色石も利用された。ジグザグ形と菱形が図柄の基本だったという。
バクダッド美術館にはそれが移設展示されているのだろうか、そう見える図版があった。

クレイペックによるモザイク 前3700-2850年頃 バグダッド美術館蔵(撮影山本正之氏)
その復元図と思われるものは、

エアンナ地区への入口にあった粘土製コーンを使ったモザイクで装飾された列柱の復元図 前4千年紀末
『メソポタミア文明展図録』は、石膏の層で覆い、そこに色石の釘や粘土の釘を並べて埋めた。これらの釘は色のついた平らな頭だけを出して、幾何学的なモチーフ、すなわちジグザグ、三角形、菱形、斜めの帯など、筵の織物にも似た模様を形成したという。
ムシロや籠を幅の広い植物の皮で編んで、このような文様を作っている光景が目に浮かぶ。土器の文様にでもありそうな文様だ。 INAXの「世界のタイル博物館」では、常設展の「装飾する魂」で約5万本のクレイペグを手作りし、壁空間が再現されているらしい。是非見てみたいが、遠いなあ。

※ 古い文献や美術館の展示での説明ではクレイペックでしたが、最近ではクレイペグとなっているようです。

※参考サイト
世界のタイル博物館(INAX TILE MUSEUM)常設展「装飾する魂」

※参考文献
「ヴィジュアル版 世界古代文明誌」(ジョン・ヘイウッド 1998年 原書房)
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン」(2001年 岡山市オリエント美術館)
「世界四大文明 メソポタミア文明展図録」(2000年 NHK)
「タイルの源流を探って オリエントのやきもの」(山本正之監修 1991年 INNAX BOOKLET Vol.10 NO.4)