磨崖北面は塔谷に来るとまず見える面なので、ここに表された九層木塔と七層木塔を見て、ここが塔谷と呼ばれていることを納得してしまうが、説明板は、南側に三重石塔があって「塔谷」と呼ばれているという。勘違いしやすい。 北面で不思議なのは大きな蓮華に坐す如来が、九層木塔と七層木塔の間に表されていることだ。橘夫人厨子では、橘夫人の念持仏が坐る蓮華、そして両脇侍が立つ蓮華それぞれが蓮池から茎が出ているが、北面の如来は大きな蓮華に坐して虚空に浮かんでいるようだ。天蓋が頭上にある。
表情は穏やかで、双領下垂式の服を着ているように見える。 九層木塔と七層木塔のそれぞれ下部には、獅子が浮彫されいるという。九層木塔の方(上側)は獅子に見えなくもない。しかし、七層木塔の方(下側)はとても獅子には見えない。 北面から西面に回ってみると、樹木と何かが浮彫されているような気がする。足か手のようなものが見える。南面には樹木表されているのは僧なので、ここにも僧が表されていたのかも。 樹木の右には大きく如来坐像が浮彫されている。表情はこちらも穏やかなのだろうが、頭光が宝珠形で、内側のくりくりした文様は火焔を表しているのか、迫力がある。
宝珠形頭光というのは珍しいのではないだろうか?根津美術館蔵の仏五尊像の中尊も宝珠形火焔頭光を付けているが、解説によると、8世紀半ば以降のものらしい。 如来の上部にも飛天がいるが、東面の飛天たちよりも柔らかい表現に思える。 西面とはいうものの、面積は非常に狭く、山の斜面にあるので、見にくく、他に浮彫があるかどうかさえわからない。