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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2021/04/02

麦積山石窟133窟 敦煌莫高窟249窟に繋がる壁画


麦積山石窟133窟は北魏後期に開鑿され、後の時代の重修を受けている石窟である。その前室東側窟頂に北魏後期の壁画が残っていた。

『中国石窟芸術』は、前室東側窟頂に約20㎡余りの壁画が残っている。山水樹木、騎虎仙人、騎犬仙人、大魚などの内容で、犬や虎は勢いよく走り、自由な筆致で描かれているという。
全てが左に向かって勢いよく走っている。
このような空中を駆ける壁画は、敦煌莫高窟の285窟や249窟のような西魏時代になって初めて描かれるようになったとばかり思っていたが、麦積山石窟ではすでに北魏時代に描かれいていたことに驚いた。
麦積山石窟133窟窟頂壁画 北魏 『中国石窟芸術 麦積山』より

騎虎仙人
『中国石窟芸術』は、虎に乗った仙人の出行図がある。仙人は襟が襟を合わせ、一重の長い上着と帯で虎の背に乗っている。上着と帯は風になびくが、顔は前方を向いている。仙人と虎の回りには花弁が漂い、爽快で雅な雰囲気であるという。
虎とはいっても、四神図に描かれているような、龍に近い虎なので、架空の動物と言っても良いだろう。
虚空に浮かぶ黒いものは花弁だった。
着衣の紺色はラピスラズリ、土紅色の顔料は下描きであるという。
壁画は完成しなかった。それは、北魏末期の混乱のうちに、窟を奉納した人物、あるいは一族が放置してしまったからではないだろうか。
麦積山石窟133窟窟頂壁画 北魏 『中国石窟芸術 麦積山』より

下図左端には、両肩から青い炎を出しているような角のある怪物が走っている。その上にも同じような生き物が走っている。この生き物あるいは架空の動物については記述がない。
その背後には、人を乗せた四神図の青龍図に似た細身の龍がそれに続き、その後ろには別の動物が人を乗せて続いている。
麦積山石窟133窟窟頂壁画 北魏 『中国石窟芸術 麦積山』より

この架空の動物によく似たものが敦煌莫高窟の249・285窟にも描かれていて、烏荻という名称だった。

249窟窟頂
伏斗式天井藻井部にはラテルネンデッケが表されている。そこから東西南北の傾斜する壁(披)が四壁に繋がっていて、烏荻が複数描かれている。
下の天井が平たく見える場合はこちら
敦煌莫高窟249窟西伏斗式天井 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

残っている壁画からしか分からないが、北魏後期の133窟では、架空の動物としては、四神の白虎や青龍、そして烏荻くらいしか登場していないようである。

その点、敦煌莫高窟の西魏窟(249・285)の窟頂では、中国の伝統的な架空の動物が数多く、種類も多く描かれていた。

249窟窟頂

西壁 西魏(535-556)
第249窟は小さな窟で、西魏時代に新たに出現した正方形平面に伏斗式の天井をもつ窟。正壁の本尊の光背の上に阿修羅が立ち、その両側に風神雷神が向かい合っている。
風神は風袋か天衣が翻っているような描き方で、空を駆けるように表現されている。顔は動物のものである。
風神雷神の姿によく似ているが、風帯も太鼓も持っていないのが、その下に小さめに描かれた烏荻である。風神の下の烏荻はラッパのようなものを吹き、雷神の下の烏荻は太鼓を叩いている。
敦煌莫高窟249窟西壁風神雷神図 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

窟頂北壁 幅5.95m
馬上の人物がパルティアンショットで狙っているのが虎のよう。その上には草食動物が3頭弓を構える騎馬人物に追われ、更に上には細い龍のようなものが1頭、でもこれは白虎とされている。
敦煌莫高窟249窟窟頂西面壁画 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

『敦煌莫高窟1』は、東王父と西王母を相対して描かれている。これは中原地方の漢族の伝統的な神話の題材である。中国の伝統様式で仏教故事の帝釈天と帝釈天妃のように描かれている。
東王父は残念ながら剥離して、その下に4頭立ての車の下部が残る。車の前後に烏荻、羽人、飛廉、開明など。車の下側には狩猟の場面があり、林野を懸ける動物が描かれるという。
烏荻は敦煌莫高窟285窟にも複数が描かれている。など。
敦煌莫高窟249窟窟頂北面壁画 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

拡大すると、
敦煌莫高窟249窟窟頂壁画の烏荻 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

南壁 幅5.38m
『敦煌莫高窟1』は、中央に雲車に乗る西王母(あるいは帝釈天妃)が描かれ、前後に飛天及び鷲に乗った方士がいる。車の下側には白虎が走り、その前を烏荻と巨人が、後方には開明が追いかける。その下には野牛、黄羊などが山林で生活しているという。
右下に描かれた烏荻は、走っているが、後方を気にしている。
敦煌莫高窟249窟窟頂南面壁画 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

拡大すると、
敦煌莫高窟249窟窟頂壁画の烏荻 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

東壁 幅4.63m
『敦煌莫高窟1』は、上部中央に2力士が摩尼宝珠を担いでいる。飛天も左右から持ち、朱雀と孔雀が相対して飛翔する。力士の下で、高鼻大目の胡人は倒立し、人の体鳥の爪の烏荻は西域から将来された。胡人の北側には、中国で古来より北方を守る四神の一つ玄武、烏荻の南側には中国の天獣九首の開明がいるという。
倒立した胡人と開明の間に、そして玄武の外側にも烏荻がいる(→印)。
敦煌莫高窟249窟窟頂東面壁画 西魏 『中国石窟 敦煌莫高窟1』より

麦積山石窟133窟の烏荻と思われる図(→印)
青い炎のようなものを両肩から出している烏荻は前の迦陵頻伽?のようなものを捕らえようとしているのだろうか。それなら、上の烏荻は僧侶を捕まえるつもり?
麦積山石窟133窟窟頂壁画 北魏後期 『中国石窟 天水麦積山』より

麦積山で巨大な113窟を開鑿した人物あるいは一族は、北魏時代末期の混乱のなか、窟の完成をあきらめて、ずっと西方にある敦煌莫高窟で小さな249窟を開き、壁画を完成させたのかも知れない。

風神雷神に似てはいるが、烏荻という名称があるが今のところ、どんな神獣なのかがわからない。
ちなみに敦煌莫高窟285窟窟頂の壁画にも、多彩な架空の動物たちが描かれていて、その中に烏荻も登場します。以前の記事はこちら


関連項目

参考文献
「中国石窟芸術 麦積山」 花平宁・魏文斌主編 2013年 江□鳳凰美術出版社
「中国石窟 敦煌莫高窟1」 敦煌文物研究所 1982年 文物出版社