お知らせ

忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/07/27

トゥールーズ、サンセルナン聖堂 ミエジュヴィル門の浮彫装飾



サンセルナン聖堂の南壁途中にミエジュヴィル門(porte Miègeville)という扉口がある。
『visiter Saint-Sernin』は、ミエジュヴィルという名称は、門が面した道が町の真ん中を貫く(mièlajila)ところからきている。その道はローマ時代のカルド・マクシムスのほぼ跡を辿っている。(1110-1115年頃の)ロマネスク時代の扉口は、側壁から突き出ていて、非常に美しいモディヨンで装飾された軒があるという。
 『図説ロマネスクの教会堂』は、モニュメンタルな彫刻で扉口を飾った早い例の一つにラングドック地方の大都市トゥールーズのサン・セルナン教会堂がある。その南外壁に位置する「ミエジュヴィル扉口」のテュンパヌムとリンテルに堂々たる「キリストの昇天」が彫刻されている。
ここでの条件はテュンパヌムという枠組とそれを構成する5つの石の形、横長部材のリンテル、そして上昇運動を示す図像である。彫刻師は、まず、テュンパヌムとリンテルそれぞれの形状の特性と上下の位置関係をシンボリックにとらえ、そこに図像上の位階を重ねていった。
すなわち、天穹を連想させる半円形のテュンパヌムは天、水平に広がるリンテルは地である。つぎにテュンパヌムの中で最も高さのあるキリストを配し、両脇の天使がキリストを天に押し上げる。昇天を助ける天使は中央の石材にぴったり収まるように姿態をねじ曲げ窮屈そうだ。その左右で十字架をもつ二天使はゆったり翼を広げる。テュンパヌム両端の天使は三角形の形に合わせて苦しいポーズをとっている。
こうしてキリストと左右対称に並ぶ天使の頭部は枠組にそって半円を描くと同時に個々の天使は各々の石板を充塡する。テュンパヌムとリンテルを分つ葡萄唐草水平帯はそのまま天と地の境をなし、リンテルに地上の証人である十二使徒が両端の天使とともに昇天の様を見上げている。高さのない横長部材に立つ使徒は、おのずと短軀像となったという。
半円形の壁面を英語ではテュンパヌム、フランス語ではタンパン。その下の水平部材を英語でリンテル、フランス語でラントー、日本では楣石と呼んでいる。
仏教寺院内もギリシア神殿も、キリスト教会も、当初は彩色されていたというが、このタンパンはどうだったのだろう。
足はこぶこぶの山のような地面を裸足で踏んでいるかのようで、とても天に昇るようには見えない

高浮彫の装飾帯の葡萄唐草の下に続く十二使徒は、中央部分だけを拡大して写していた。
左から2番目の鍵を持っているのがペテロであるのはわるのだが・・・

上部の軒とモディヨン。
左端から、ライオンの頭部のようなものを押さえ込む人物または悪魔?、たわわに実を付けた植物、
頭部を肢の間に入れて縮まる草食獣(足は肉食獣のよう)、続いて顔と前肢だけの草食獣、
軒下には、Ωの両端が内側を向いた形の中に、縦の筋で3つに分かれる葉文様。蔓草にはなっていない。
同書は、続く男性と女性の胸像について、例外的によく残った、サンセルナンの彫刻の最も素晴らしいものの一つで、名人技であるという。
その次は顎髭がふさふさした山羊だろうか、そして右端は、先ほどもあった、体をできるだけ小さく折り曲げた草食獣のようだが、草食獣でこんな足先のものがいただろうか。
軒に突き出た渦巻があるのだが、ツタにとりついたカタツムリかな。

柱頭と円柱
もうちょっと拡大
楣石の下側は2つの見事な渦形持送りがある。
左はダビデ王、救済者の王家の血筋を示す竪琴を弾くという。
右はライオンに乗る謎めいた2人の人物という。
右側の柱頭
手前は蔓草にとらわれた2頭のライオンというが、柱頭頂部角の渦巻の下にもライオンの頭部が。
このような蔓草の中に閉じ込められたライオンや鳥そして怪物の柱頭は、サンセルナン聖堂の回廊にもあったことを、オーギュスタン美術館のロマネスク美術展示室で知った。
それについてはこちら
原罪に関するテーマの柱頭
左側面は楽園から追放されるアダムとエヴァ。各人物の間には、生命の樹のような植物が、三段に実を付けている。

左の2つの柱頭
左側面はヘロデの幼児殺し、角に幼子を抱く聖母、右側面にも同じく聖母子ともう一人の人物が登場するのは、エジプト逃避だろうか、馬には乗っていないが。
奥の柱頭は、受胎告知とマリアのエリザベート訪問という。

スパンドレルの大理石の二人の大きな人物は扉口を護っているようだという。
左側の彫刻
上部には、軒下のフリーズの浮彫と同じ葉文様が蔓草となって2人の人物に絡みついているしかも、それがほぼ左右対称に表される。
その下が十二使徒の一人大ヤコブ。サンセルナンが、アルルから、サンジルデュガール、サンギレームデゼールを通って、サンティアゴデコンポステラへ向かう「ヴィア・トロサーナ(トゥールーズの道)」の重要な地の一つであることを示しているという。
ヤコブの両側にあるのは杖頭がライオンの巡礼杖?
ガリシア地方のカテドラル(司教座付き聖堂)との美術的なつながりを示しているという。
ヤコブは二羽の猛禽類を踏みしめている。
その下には、ライオンにまたがる2人の女性の間にいる男性像という。
着衣の衣端が整然と並んでいる。

スパンドレル右側
上部の二人の天使は聖体のパンを掲げ、ペテロに戴冠しているが、これは高位聖職者の聖体の盛大な祝福を暗示しているのだろうという。
聖ペテロは右手で祝福し天国の鍵を腰帯につけているという。
ペテロは二人の悪魔に支えられた魔術師シモンが空中に浮揚するのを失敗させたという。
これらを眺めながら聖堂内部へ

                 →サンセルナン聖堂 周歩廊の浮彫

関連項目
オーギュスタン美術館 サンセルナン聖堂の柱頭
サンセルナン聖堂 外観

参考文献
「中世美の様式下 ロマネスク・ゴシック美術編」 オフィス・ドリーブル編 大高保三郎・岡崎文夫・安發和彰訳 1991年 連合出版
「visiter Saint-Sernin」 Quitterie et Daniel Cazes ÉDITION SUDOUEST
「図説ロマネスクの教会堂」 辻本敬子・ダーリング益代 2003年 河出書房新社
「フランス ロマネスクを巡る旅」 中村好文・木俣元一 2004年 新潮社