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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/07/05

黄金のアフガニスタン展2 ティリヤ・テペ6号墓出土の金冠


「黄金のアフガニスタン展」で、以前に記事にしたことのあるティリヤ・テペ6号墓出土の金冠の実物を間近で見た。

冠 1世紀第2四半期 金
同展図録は、冠は頭部に巻く帯と、樹形をなす5つの立ち飾りからなる。帯は金板を切り出したもので、20点の六つ葉のロゼットにより飾られ、そこから小円板がさげられている。それぞれのロゼットには、粒状の金で縁取られた円形のくぼみがあり、トルコ石がはめられるという。
少ないながら粒金が使われている。
小円板は紐状の金線で取り付けられており、被って動くと揺れる、歩揺冠である。
金冠を広げると5つの立ち飾りが現れる。
同展図録は、帯の後ろ側には金板を丸めてつくられた5本の垂直の管があり、5つの立ち飾りにつく同様の管によって固定し、さらに立ち飾り同士も結合する仕組みとなっている。これにより、この見事な遊牧民の冠は分解して持ち運ぶことができるのであるという。
同展図録は、立ち飾りの内、4つは同じ形状で、幹の左右に対称に枝を伸ばし、2つの相対するハート形文様とそれぞれに挟まれた三日月文様に切り抜かれたモチーフで飾られている。枝の上部には2羽の鳥がおり、羽根を広げ、頭を上に伸ばし、くちばしを樹の頂部近くに付ける。それぞれの樹は六つ葉のロゼット6点で飾られており、丸い飾りをさげているという。
同展図録は、中央の立ち飾りには鳥は表現されずロゼットと丸いさげ飾りで飾られる。中央下部に丸い空間をつくり、プロペラのような文様を配置するという。
プロペラのような文様というのはよくわからない。

同展図録は、この型式の冠は遊牧民の間で類例があるが、ギリシアやパルティア、クシャーンの美術には見出せない。紀元前4世紀の終わりの早い段階に位置付けられるカザフスタンのイシク・クルガン(墳丘墓)から出土した鳥が飾られた冠は、生命樹を表したものに違いない。生命樹と鳥の組み合わせは、リボチェルカスク近くのサルマチアン遊牧民の墓の遺跡でも発見されており、ドン川の河口近くのやや西、コジュホヴォの王妃の王冠にもみられるという。

イシク・クルガン出土の冠飾りはこのようなもの。左右対称に出た枝の先が輪になっているのは、葉のようなものを取り付けていたのだろうか。そうでなければ樹木のようには見えない。
あるいは、葉の代替として小円板が取り付けられて、歩揺冠となっていたのかも。

同展図録は、この様式の王冠は東アジアにも広く伝播し、5-6世紀の韓国・新村里王墓、さらには日本の奈良県藤ノ木古墳でもみられるという。

金銅冠 三国時代百済(5-6世紀) 韓国、羅州新村里9号墳出土 ソウル、国立中央博物館蔵
同展図録は、この古墳は百済と伽耶の境界に位置しており、百済の古墳でよく出土する冠帽が伴っている。
この冠では鳥形がどこに取り付けられているのかよくわからないのだが、小円板の歩揺はあちこちに見られる。

金銅冠 古墳時代、6世紀後半 奈良、藤ノ木古墳出土 文化庁保管
同展図録は、藤ノ木古墳出土冠は古墳時代の伝統的な冠とは型式が異なり、特殊な存在である。古代オリエントの生命樹をモチーフとした樹木冠は、ティリヤ・テペを経由して中国にもたらされ、6世紀になって中国の南朝と交流のあった百済を介して日本の倭王権中枢へと到達したのではなかろうか。ただし、この想定を裏付ける詳細な伝播ルートの解明のためにはさらなる類例の増加を待つ必要があるという。
鳥形は多数みられるし、小円板もあちこちに取り付けられている。
『黄金の国・新羅展図録』は、金冠は華麗な外形とは裏腹に薄い金板で製作されており、また過多ともいえるほどに装飾が多いため、実際に使用したというよりは、墳墓の副葬品または葬送儀礼用具として製作されたと考えられるという。
ティリヤ・テペ6号墓の金冠は実際に被った状態で出土しているが、藤ノ木古墳では飾履と共に足元から出土している。

中国では歩揺の付いた小さな冠がは出土しているが、樹木冠もあったかな。
中国の歩揺冠についてはこちら


                    →黄金のアフガニスタン展3 最古の仏陀の姿は紀元前?

関連項目
歩揺冠は騎馬遊牧民の好み?
金冠の立飾りに樹木形系と出字形系?
黄金のアフガニスタン展4 ヘラクレスは執金剛神に
黄金のアフガニスタン展3 最古の仏陀の姿は紀元前?
黄金のアフガニスタン展1 粒金のような、粒金状は粒金ではない

※参考文献
「黄金のアフガニスタン 守りぬかれたシルクロードの秘宝展図録」 九州国立博物館・東京国立博物館・産経新聞社 2016年 産経新聞社
「南ロシア 騎馬民族の遺宝展図録」(1991年 古代オリエント博物館)
「世界美術大全集東洋編15中央アジア」 1999年 小学館
「黄金の国・新羅-王陵の至宝-展図録」 2004年 韓国国立慶州博物館・奈良国立博物館