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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2020/06/04

サンタ・プラッセーデ聖堂に付属のサン・ゼノーネ礼拝室 Cappella de san Zenone


『ローマ古寺巡礼』は、この聖堂には他にも教皇パスカリスが母テオドラの墓所として捧げたサン・ゼノーネ礼拝堂が残る。その小さな方形空間はモザイクの宝石箱のようである。天蓋には4人の天使に捧げられたキリストの胸像が描かれ、他の部分には聖母と洗礼者ヨハネ、使徒と殉教聖女たち、さらにキリストの物語場面も配され、それ自体で一つの小宇宙を形成しているという。
サンタ・プラッセーデ聖堂平面図(『THE BASILICA OF SAINT PRAXEDES』より)

入口上に矩形のガラスモザイク。そして窓の鉄格子の前には骨壺のようなものが飾られている。壺は庇のような楣石にのり、それを一対の白いイオニア式柱頭と黒いモノリスの円柱が支えている。
『THE BASILICA OF SAINT PRAXEDES』は、扉口は楣石と、9世紀に再成形された一対の柱頭が、一方が本の蛇紋岩、片方が黒と白の花崗岩の円柱が、豊かな装飾のある8世紀の柱礎にのっている。そして、遺灰を入れる壺が、おそらく18世紀に入れ替えられたとはいえ、精巧につくられた水平材上に安置されたという。
キリストを中心に十二使徒の胸像が馬蹄形に並び、その内側の中央は聖母、聖人・聖女たちの胸像が表されている。
同書は、聖母子はおそらく聖ヴァレンタインと聖ゼノに挟まれ、ほかにも各4名の聖女たちが、その外側はキリストが十二使徒が描かれている。上隅には不確かながらモーゼとエリアが表されている。下の隅にはパスカル1世とその後継者ユジェーヌ(824-827)だが、18世紀に描かれたものだという。

中に入ると、アーチ形壁龕の中に聖母子と2人の女性像が安置されているのだが、ガラスに光が反射して見にくい。 
左より聖プラッセーデ、聖母子、聖プデンティアナ 
幼子キリスト

ドーム キリストの頭は窓側(東)。4人の天使たちに支えられた輪の中の全能のキリスト。
益田朋幸氏の『キリスト・パントクラトールのコンテクスト』(PDFで出てくるのでアドレス不明)は、簡便な図像学辞典であれば、パントクラトールを定義して以下のごとくに言うであろう。「黙示録に典拠をもつキリストの尊称で、ビザンティン聖堂ドームに描かれる長髪長髯のキリスト胸像。右手で祝福をし、左手には福音書を持つ。」
ドームのキリスト胸像に「パントクラトール」との銘が附される現存最古の作例は、アテネ、オモルフィ・エクリシア(13世紀最後の20年間に制作)に過ぎないという。
『世界美術大全集7』は、ヴォールトには、キリストの胸像メダイヨンが対角線に位置する4人の天使に支えられている。
天井の構成は、ラヴェンナの大司教館礼拝堂(6世紀)とよく似ている。抽象的な色彩である金地が、天井にも側壁にも積極的に導入され、濃紺を基調としたサンタ・プラッセーデ聖堂内陣とは異なっている。9世紀のモザイクをよく特徴づける粗放なテッセラが、金地に微妙なニュアンスを与えているという。
キリストの胸像で良いのだ。
イタリア語でclipeoと呼ばれる輪っかの中のキリストは、左手は見えないものの、両手で巻物を持っている。その輪っかは花冠のようにも見える。
これくらい大きく写すと、金箔テッセラが剥がれ落ちた箇所がはっきり見える。

東壁
『THE BASILICA OF SAINT PRAXEDES』は、聖母と洗礼者ヨハネが審判者キリストの下で人々の執り成しをしているという。
ドームのキリストは、最後の審判を行っているのだった。
『世界美術大全集7』は、窓から入った光は、天井のキリストのメダイヨンをまっすぐに照らす。聖母と洗礼者ヨハネに挟まれたこの窓は、光すなわちキリストの象徴で、東壁のリュネットは「デイシス(主へのとりなし)」を表現すると解釈されている。この礼拝堂内部には、胸像メダイヨン、「空の御座」、光そのものという3つの相で、キリストが表現されているといえるだろうという。
アーチ下には両端のアカンサスの葉っぽい植物から2本ずつ蔓草が伸び、葉と蔓でつくられた円の中にはハトや羊などの動物がいる。
リュネット
同書は、キリストの変容の場面が描かれている。キリストは預言者モーゼとエリアと共にマンドルラの中にいて、使徒のペテロ、ヤコブ、ヨハネもいるというが数が合わない。

南壁
『THE BASILICA OF SAINT PRAXEDES』は、福音書を持ったヨハネと偽窓で離れて描かれるアンデレとヤコブは巻物を持っているという。 
アーチ下はクジャクの羽のような文様
その下のリュネットでは、キリストがバルトロメオとゼノーネを祝福しているという。

西壁(礼拝室への出入口がある)
同書は、キリストの復活を待つ玉座の上の黄金の十字架。右側にペテロ、左側にパウロが崇拝しているという。
『世界美術大全集7』は、「空の御座(再臨の時のキリストが座る玉座)」を指差すペテロとパウロ、花は赤い罌粟という。
貴石を鏤められた玉座

窓付近のテッセラ

北壁
全身が描かれた、聖アグネス、聖プデンティアナ、偽窓の向こうに聖プラッセーデが離れているが、祭壇の方へ向かっているという。
聖女たちのいる金地の空間と、花が咲く緑の地上。
北の礼拝室への通路上部
アーチ下には、菱形繋ぎ文の中に十字架というよりも飛ぶ鳥

リュネットには上下2段に関連のない場面が表されている。
上段には、詩編42番を表している。山上の子羊と、4つの大河で喉の渇きをいやす鹿という。
下段は、聖母、聖プラッセーデ、プデンティアナとテオドラ(ローマ教皇パスカリス1世の母、生きていることを示す四角い頭光)という。
聖母の顔は少しだけ隈取りの痕跡が残っている。
そして、アーチの起拱点に描かれている図について『世界美術大全集7』は、キリスト以前の人類の象徴だったアダムとエヴァを逃がすために、マンドルラの中のキリストは天使を連れて地獄へ入り込んだ。
低い位置にあるモザイクは、後世に取り付けられた大理石のパネルによって、現在確認できない部分が少なくない。しかしこの作品が、9世紀ローマにおけるキリスト伝図像の発展を雄弁に呈示していることはいうまでもないであろうという、キリストの冥府下り(アナスタトス)と呼ばれている場面。
後4世紀の舗床モザイクでさえ、背景と人物の顔の描写にはテッセラの大きさを変えているのに、9世紀という時代では、ほとんど同じ大きさのテッセラで表されている。

サンタ・プラッセーデ教会 Santa Prassede all'Esquilino
←  →9世紀の教会のモザイク画 

関連項目
ローマで朝散歩2

参考サイト
「パントクラトールのコンテクスト」 益田朋幸