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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/03/06

ラスター・ステイン装飾ガラス1


ラスター彩の起源はガラスだった。
『世界史リブレット76イスラームの美術工芸』は、後期ローマ・ガラスとサーサーン・ガラスの伝統を引き継いだイスラーム・ガラスであるが、8世紀後半ころから新しい発展が始まった。その最初を飾るのが、ラスター・ステイン装飾ガラスである。イスラーム・ガラスのなかでも一際目を引くラスター装飾は、陶器に先駆けてガラスにほどこされた。ラスター彩とは、金属化合物の顔料で彩画した装飾のことであるが、ガラスでは、陶器と異なり、顔料がガラスのなかに染み込んだステインと呼ばれる状態になるので、ラスター彩ではなく、ラスター・ステインと呼ぶ。
ラスター・ステイン装飾ガラスのもっとも古い例の一つは、カイロのイスラーム芸術博物館にある碗で、アラビア文字で「ミスルのフィヤラ工房で163年製作」と書かれている。エジプトでミスルとはフスタートのことを指し、コプト数字で記された(ヒジュラ暦)163年は、西暦になおすと779年であり、これは、製造地と製造年を示す貴重な史料であるという。

ラスター・ステイン装飾ガラス碗 アッバース朝、8世紀 高13.5径9.5㎝ 制作地エジプト カイロ、イスラーム美術館蔵
『世界美術大全集東洋編17イスラーム』は、このガラス碗の主要文様は、胴部のパルメット文であるが、小葉が深くくびれているなどイスラーム以前の古典的なパルメット文の形態を強くとどめている。銘文の下の帯文にも、古典的な蔓草文が見られる。見込みの部分の花文は、金属器の凹凸のある花形見込みを写したものと考えられるという。
一色に濃淡があり、深みのある文様となっている。
ラスター・ステイン装飾ガラスはこれ一点しか知らなかったが、先日掘り出した『カリフの宝物展図録』に3点載っていた。

ラスター・ステイン装飾ガラス碗 8-9世紀 ニューヨーク、コーニングガラス博物館蔵
『イスラームの美術工芸』は、このあと、ラスター・ステインの技法は、9世紀にイラクに伝わり、多彩ラスターを生み、さらに、陶器にも応用され、イスラーム陶器でもっとも華やかなラスター彩陶器を登場させたという。

ラスター彩陶器出現直前のラスター・ステイン装飾ガラスかも。
ナツメヤシの葉を表したような横線の多い縦線がジグザグに配し、その間の三角の空間には葡萄の房と思われる文様が描かれる。
線は濃い色で、葡萄の粒は薄い色で表され、2色の顔料が使われている。

ラスター・ステイン装飾ガラスリュトン 9-10世紀 ニューヨークコーニングガラス博物館蔵
すでにラスター彩陶器が作られるようになっても、ガラス器も作られていたようだ。
口縁部と把手は薄い黄色のガラスが使われ、白の器体にラスター・ステインで植物文様らしきものが描かれている。ぼんやりした文様に見えるが、細い線はしっかりと描かれている。
テヘランのガラス陶器博物館に展示されていたゴルガーン出土のラスター彩容器(10-13世紀)の文様に似ている。

ラスター・ステイン装飾ガラス碗 11世紀 ベルリン美術館内イスラーム美術館蔵
形もゆがみ、文様も粗雑になってしまった。ラスター彩陶器の方が高級感があるので、ガラスの方には力が注がれなくなっていったことを示すような作品だ。ラスター・ステインが使われた最後期のガラス器かも。


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関連項目
イランガラス陶器博物館でラスター彩の制作年代を遡ると

参考文献
「Schätze der Kalifen Islamische Kunst zur Fatimidenzeit(カリフの宝物 ファーティマ朝のイスラーム芸術)展図録」 1999年 ウイーン美術史美術館
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館
「世界史リブレット76  イスラームの美術工芸」 真道洋子 2000年 山川出版