ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2017/04/07
サファヴィー朝のムカルナスは超絶技巧
ムカルナスをモザイクタイルで装飾した早い例は、サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群のなかのシリング・ベク・アガ廟(1385-86年)があるが、平面的なものを組み合わせた程度だった。
時代を経て、サファヴィー朝期のイスファハーンでは、イマーム広場に現在も残るモスクや宮殿が建立された。
マスジェデ・イマーム表門イーワーン 1612-38年
下から見上げると、イーワーンに奥行があり、ムカルナスの一つ一つが刳りが深く、曲面に構成されている。
その中でも、奥行のあるのある曲面では、半ドームのように膨らみのあるものや、ほぼドーム状だが、前と後ろが切りとられたようなものもあった。
ムカルナスがこれほど曲面として整った、完成度の高いものに仕上げられているとは。しかも14世紀末のシリング・ベク・アガ廟とは比較にならないほど細かな文様がモザイクタイルでつくられているのだ。
次に訪れたマスジェデ・シェイフ・ロトフォッラー(1601-28年)の門のイーワーンでも、同時代に造られたため、同じようなムカルナスだった。
ここでは8面のドーム型の一つを閉じないで、上のムカルナスへと繋がっている。
アリー・カプー宮殿(1606年完成)の最上階の天井もムカルナスだった。
長々と階段を上り詰め、やっと着いて見上げると、空に浮かぶようにあったのがこのムカルナス天井。ドームというほどの立体感はないが、中央に向かって高くはなっていた。
材質は、おそらく漆喰で造られているのだろう。
しかも、頂点は8つの部品が円形に配置されている。
モスクのドーム全体が装飾的なムカルナスで覆われることは、もっと以前からあったことだが、マスジェデ・シェイフ・ロトフォッラーの鋭くえぐられたような曲面のムカルナスに圧倒された直後にこのように頂点をムカルナスで円形にして、その上に小さなドームが架けられているとも言える。おそらく構造的ではなく、装飾的なものだろうが、アーチ・ネットのリブが、そのドームの輪郭になっていて、花柄の傘を開いたよう。
細かく見ると、8点星、5点星そして4点星などから、細い角のような三角形が生じて、それが2つあれば、間に花弁形の凹曲面がつくられるということが繰り返されている。
四壁はチャハール・イーワーン(4イーワーン)形式となっていて、ここでもムカルナスで曲面を編み上げている。
東イーワーンにはこんなドーム型ムカルナスや半ドーム型も。
これが漆喰とは。
別のイーワーン、そして開口部からのぞく別室の壁面にも同じ細工が。
各曲面には陶磁器の形に切れ込みがある。これは、部屋の壁龕に置かれた陶磁器を装飾モティーフとしたのだろう。
これなどは、まさに棚に置かれた陶磁器である。
またアリー・カプー宮殿の西方にあるチェヘル・ソトゥーン宮殿のイーワーンのムカルナスもすごかった。
ここにも8点星や細長い三角形などがあるが、モスクやアリー・カプー宮殿のムカルナスほど複雑な組み合わせではない。
形に切った鏡の1片1片を蔓や直線の枠が押さえているのだと思っていたが、その線の失われたところを見ても、鏡は切れていない。1枚の曲面に文様をつくっているだけだ。
それにしても、この枠や、鏡を複雑に分割する蔓、そして幾何学文を織りなすもっと細い直線は何?金属、それとも漆喰・・・
日本でいえば江戸時代初期。世界の半分と形容されたサファヴィー朝の都イスファハーンでは、超絶技巧のムカルナスが花開いていた。
マスジェデ・シェイフ・ロトフォッラーのタイル←
関連項目
スキンチ部分のムカルナスの発展
装飾的なムカルナス
シャーヒ・ズィンダ廟群6 シリング・ベク・アガ廟
アリー・カプー宮殿(Ali Qapu)
イスファハーン、マスジェデ・イマームのタイル
※参考文献
「神秘の形象 イスファハン~砂漠の青い静寂~」 並河萬里 1998年 並河萬里・NHKアート
SD選書169「ペルシア建築」 A.U.ポープ 石井昭訳 1981年 鹿島出版会