ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2016/02/05
重量軽減のための二重殻ドーム
ウズベキスタンではたくさんのドームを見てきたが、ドームを際立たせるために、外観のドームと、内部天井のドームという二重殻ドームになっていた。
それについて詳しくはこちら
サマルカンド、グル・エミール廟(1404-05年)の断面図でその架構の様子をうかがい知ることができる。
トルクメニスタン、クニャ・ウルゲンチのトゥラベク・ハニム廟(1370年)も二重殻ドームだった。
『イスラーム建築の世界史』は、内側ドームと外側ドームの極端な乖離は、14世紀半ばのイスファハーンのスルタン・バフト・アガー廟、コニヤ・ウルゲンチのトゥラベク・ハーヌム廟が現存最古という。
外側の青いタイル貼りだったドームが一部だけ残り、内側のドームが見えている。
どんな形のドームだったのだろう。先にすぼまっていくような気配がある。円錐ドーム?
その二重殻ドームの起源を辿ってみると、
オルジェイトゥ廟 イル・ハーン朝、1307-13年 イラン、スルターニーヤ
『イスラーム建築の世界史』は、オルジェイトゥ(1304-16年在位)が建設したスルターニーヤだけは現存し、内径25mを有するドームはモンゴル族の巨大指向を表す。この巨大ドームは、サンジャル廟と同様、分厚い煉瓦ドームの重量を軽減するために、ドームに中空部を設け二重殻ドームとしたという。
八角形に付属のある外壁で、内部は円形平面となっている。
現在見えているドームが内側のものなのか、外側のものなのかもわからないが、二重殻ドームは本来は重量軽減のための工夫だったのだ。
同書は、ドームを構造的に強化し、かつ重量の軽減と外観の強調のために、内部ドームの上に中空空間を設けて外部ドームを架ける二重殻ドームの技法も試された。円錐や多角錐の屋根を戴く墓塔でも、内部にドームを架けるため、屋根が二重構造となるという。
八角形の平面からドームが導かれている。
スルタン・テケシュ廟 SOLTAN TEKESH MAUSOLEUM ホラズム・シャー朝第4代、在位1172-1200年 トルクメニスタン、クニャ・ウルゲンチ
剥落もあるが、空色タイルに覆われた円錐形のドームが載っている。
修復中で内部には入ることができなかったが、側面からは足場の隙間から長い円筒があるらしいことが窺える。
円筒と円錐ドームだけを見ていると、東トルコの墓廟キュンベットのよう。
それについてはこちら
イル・アルスラン廟 IL ARSLAN (FAHR-AD-DI RAZI) MAUSOLEUM 在位1156-72年 トルクメニスタン、クニャ・ウルゲンチ
八角錐のドームが載る。ドームは焼成レンガに空色タイルが菱形繋文のように並んでいる。
内部のドームを見上げると、正方形から八角形、十六角形、円形と移行し、半球に見えるドームがある。
ということは、八角錐のドームも二重殻ドーム。
スルタン・サンジャル廟 MAUSOLEUM OF SULTAN SANJAR セルジューク朝 (1086-1157年) トルクメニスタン、メルヴ
ドームの下端に窓が並び、廟の壁体とドームの間にはやはり開口部が並んでいる。
1890年当時の廟は外側のドームがない。ということは二重殻ドームの内ドームが露出した状態。
トルコが修復を行っていて、現在では外観は立派になった。内部ドームもアーチ・ネットのような線が交差している。
ダヴァズダー・イマーム廟ドーム 1037年 イラン、ヤズド
『イスラーム建築の世界史』は、壁上に八角ドラム。
イランから中央アジア一帯のペルシアでは、10世紀からイーワーンやドームなどのペルシア的要素が復活の兆しを見せていたが、イスラーム教が民衆の間に深く根付いていくにつれ、モスクや墓建築において、これらのペルシア的要素が進化し、洗練される。
11世紀になると、キャノピー墓のドームが大きく高くなる。サーマーン廟を端緒としたドーム技法はモスク建築にも適用されるようになるとともに、四角形の部屋から円形のドームに至る移行部の技法が飛躍的な進化を遂げる。四角形から八角形を導き十六角形を介して円形へと達する移行部が、建築の見せ場の一つとなる。また、外部には筒状の部分(ドラム)が設けられ、ドームが一層高くなるという。
ドームを高く見せるために、円筒部を長く造っていくなかで、外ドームだけでなく、内側にもドームかあるのは何のためだろう。内側のドームがなければ外側のドームが架けられなかったのかな。
見上げた時、あまりにも高い天井よりも、ほどほどの方が安心感があるのだろうか。
関連項目
ドームを際立たせるための二重殻ドーム
※参考文献
「東京美術選書32 シルクロード建築考」 岡野忠幸 1983年 東京美術
「中央アジアの傑作 サマルカンド」 アラポフ A.V. 2008年 SMI・アジア出版社
「地球の歩き方D15 中央アジア サマルカンドとシルクロードの国々」 2015-16年版 ダイヤモンド・ビッグ社
「旅行人ノート⑥ シルクロード 中央アジアの国々」 1999年 旅行人
「イスラーム建築の見かた」 深見奈緒子 2003年 東京堂出版
「イスラーム建築の世界史 岩波セミナーブックスS11」 深見奈緒子 2013年 岩波書店