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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/02/02

シャディ・ムルク・アガ廟に染付タイル


サマルカンド、アフラシアブの丘の麓にあるシャーヒ・ズィンダ廟群の中にシャディ・ムルク・アガ廟がある。

シャディ・ムルク・アガ廟 SHODI MULK OKO MAUSOEUM 1372年
ファサード、付け柱、イーワーンのムカルナスなど、随所に浮彫タイルが使われている。
それらに関心を奪われ、太陽の光を反射して見難いイーワーン上部の壁面は、はっきりと見えなかった。

その大きな図版を『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』で見つけた。中国の花のモティーフに部分的に影響を受けたという。それがどういうことなのかの説明がない。

右側下部
両側の下部から伸びる蔓草には、ずっと後の時代、ヒヴァの宮殿や墓廟などを飾った絵付けタイルと同じように、コバルトブルーと白だけの染付ではなく、トルコブルーがさしてある。
部分的に中国の影響というのは、花びらや葉に描かれた文様のことだろうか。
このような大きな図版を見た後に自分の撮った写真を見直すと、なるほどそのような文様だった。

もう少し図版を拡大してみると、唐草文とも思えないような線が、葉と言わず花弁と言わず細い線で描かれている。

左側下部

中国的と言われても・・・
ここまで大きな図版だと、嵌入まで見える。

中国の染付について『図説中国文明8』は、青花はコバルトを含む鉱物顔料で生地に絵付けし、それから釉薬をかけて焼き上げます。すでに唐代の職人は、コバルトブルーを絵付けの原料に用いることを知っていました。イスラム国家でも、すでに9世紀頃には青花磁器をつくることができましたが、技術は高くありませんでした。西アジアの青花の技術と原料が中国に伝わったのち、元朝が唐代の基礎にもとづいて製作した青花磁器は、精巧でかがやくように美しく、遠く海外へ輸出されました。
元代の青花に使われたコバルトには、国産品と輸入品があり、国産コバルトはマンガンの含有量が高くて鉄の含有量が低いため発色が悪く、輸入コバルトは鉄の含有量が高いため、濃く鮮やかな色になりました。
西アジアでは青花の発色剤コバルトが盛んに生産されたが、元代の青花に用いられたコバルトは、その西アジアから輸入されたものだった。元朝は青花磁器の製造技術を習得したのち、イスラム教を信仰する民族がこのむ青花磁器を、大量に生産して輸出したという。
中国では国産コバルトを土青、イスラム圏から輸入されたコバルトを回青と呼んでいたと、以前に聞いたことがある。
コバルトは中央アジアではなく西アジアのものが中国にもたらされたようだが、きっとティムール朝でも青花磁器は好まれて請来されただろう。
オスマントルコでも、後の都イスタンブールのトプカプ宮殿には、大きな文様が濃く発色している元代の青花の大皿などがずらりと並んでいた。
そのようにして身近にあった青花磁器の文様がティムール朝の廟などの装飾に用いられるということはあっただろう。

青花八稜瓘 元(1271-1368年) 高さ39.3口径15.3㎝ 遼寧省博物館蔵
同書は、形が端正で重々しく、飾りの文様には藍色と白色が交互に使われ、簡潔優雅でつややかな元代青花の珍品という。
八面それぞれ異なる模様が描かれた窓のような枠でさえ、それがシャーヒ・ズィンダ廟群に見られたものに似ている気がしてきた。
先ほどの蔓草の中に描かれていたものは、枠の周囲に描かれているような唐草文様を真似たものかも。

確かにこの壁面は、渦巻かない蔓草文の絵付けタイルだった。
しかもタイルの形は不定形で、他の廟でも見られる丸い形の部分は、別の文様の絵付けタイルのようだ。

ひょっとすると、左腰壁に嵌め込まれたこの大判の中央の円内に似たタイルだったかも。これはアラビア文字と植物文が融合したものではないかな。
以前は、白色の部分がコバルトブルーの地よりも浮き出ているので、青花(染付)と同じものだとは思わなかった。
白色の部分は、重なる箇所では越えたりくぐったりしているのが見られるので、浮彫だと思ったのだった。しかし、その凹凸のある表面を気にしなければ、これは染付以外の何物でもない。

『イスラーム建築の世界史』は、浮彫タイル、異形タイル、大型パネルなどはシャーヒ・ズィンダーにありながら次世代へと継承されなかった。これらはチャガタイ・ハーン国の中で熟成された技法でありながら、大建築の大量生産を範としたティームール朝では忘れ去られてしまったのであろうという。
この染付タイルの技法も受け継がれることはなかったが、何故かヒヴァ・ハン国で19世紀初頭に、突然完成した形で現れる。


関連項目
シャーヒ・ズィンダ廟群5 シャディ・ムルク・アガ廟
ウズベキスタンのイーワーンの変遷
クニャ・アルクのタイル1 謁見の間
クニャ・アルクのタイル2 モスクタシュ・ハウリ宮殿のタイル1 幾何学文と植物文
タシュ・ハウリ宮殿のタイル2 幾何学文だけ
タシュ・ハウリ宮殿のタイル3 植物文だけ
パフラヴァン・マフムド廟のタイル1 中庭

参考文献
「COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE」 1996年 Thames and Hudson Ltd.London
「図説中国文明8 草原の文明 遼西夏金元」 稲畑耕一郎監修 劉煒編 2006年 創元社
「イスラーム建築の世界史 岩波セミナーブックスS11」 深見奈緒子 2013年 岩波書店