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忘れへんうちに 旅編では、中央アジア各地、イランの旅に続いて、フランス南西部のオクシタニー地方の旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/01/09

アゼルバイジャン博物館 面白い動物が描かれた陶器


戌年最初の記事ですが、犬の絵はありません。

白地多彩釉鳥文鉢 10世紀
おおざっぱに口縁を黒い弧が巡る。中央に大きく横向きの鳥、とさからしきものが赤く描かれているので鶏だろうが、足は人間のものだ。赤い花も描かれ、それに繋がった控えめな黒い蔓草が、蔓を各方向に伸びている。鶏の下には朱色で太いカリグラフィーが描かれている。
イランの彩画陶器には、このような、というよりももっと不可解な動物が描かれていて、見ていて楽しめるタイプがある。それは総て岡山市立オリエント美術館で見たものだが、このタイプの陶器にイランで出会えて懐かしい思いをした。

『イランの彩画陶器展図録』にもとさかの描かれた鳥の絵が幾つかあり、サリー陶器と呼ばれているので、アゼルバイジャン博物館蔵品もおそらくサリー(Sari)陶器だろう。
同展図録は、11世紀頃からは、カスピ海南岸のマーザンダラーン地方やガルス地方の出土と伝えられる陶器が知られるようになる。これらも化粧土と鉛釉による彩画陶器の一種であるが、図柄や装飾技法などにおいて、イラン東部やトランスオクシアナの陶器とはやや異なった特徴が認められる。
これに属するのがサリー陶器とアグカンド陶器、およびアモール陶器とガブリ陶器で、それぞれひとめでわかるような特色をもっている。
学術的な発掘調査で生産地が確かめられたものは少なく、出土地の記述はしばしば伝聞に頼ってなされている。
サリー陶器と白地多彩釉陶器の違いとして、前者のほうが全般的に色彩が鮮やかで、赤や緑が鮮烈であること、黒でひかれた輪郭線に、しばしば連続する細かい点が打たれていること、下地の白の化粧がけにやや黄色い味がかっていることなどが指摘されている。
サリー陶器は、カスピ海南岸のサリーの町の出土とされるものが多いためにその名称がつけられたのであるが、実際には明確な出土地が特定されたものは少なく、おそらくはカスピ海南岸の広い範囲にわたって作られていたもので、東イランやトランスオクシアナとも関連をもった陶器であるという。

白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径18.3高6.7㎝ イラン北中部 ブリヂストン美術館蔵
同展図録は、サリー陶器は、鳥や動物を画面の中に大きく表した図柄が特徴的で、抽象化した植物文やクーフィー体の銘文がこれを取り巻くことがある。しかしよくみると、付随的に描き込まれた花とその茎のモティーフは、白地多彩陶器の41でみたものとそっくりで、トランスオクシアナや東イランの彩画陶器と密接な関係をもったものであることがわかるという。
同展図録91番の作品。
確かにアゼルバイジャン博物館品と同様に、花とその茎のモティーフがある。

白地多彩花・葉文鉢 10-11世紀 径27.2㎝ トランスオクシアナ 中近東文化センター蔵
同展図録は、茎のあるパルメットの葉を四方にのばし、間隙に花文を散らしたデザイン。白地と黒、およびトマト色の赤との対比が鮮やかであるという。
これが同展図録の41番の作品。
花の蕊や花弁を小さな円で表しているが、サリー陶器はそれが抽象化されている。
黄白地多彩花文鉢 9-10世紀 高7.7㎝ イラン 中近東文化センター蔵
同展図録は、それはたとえば、90を両者の間に挿入してみるとよくわかるであうろう。これは41のパルメットを取り除いたデザインであるが、楕円形の大きな花のモティーフはサリー陶器に登場するものと同一で、中央に一羽の鳥を大きく描けばサリー陶器の図柄となるという。
これが同展図録90番の作品で、製作作順に見ていくと、この最も古い鉢の文様が、花か円形の飾りかわからないが、91ではそれに加えて、小さな円を集合させた花文が出現し、41では小さな円の集まりのタイプだけが残り、茎も消滅して、パルメットのような横向きの花文に合わせるかのように、整然と並ぶようになったとも思える。
 
白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径18.3高6.4㎝ イラン北中部 大原美術館蔵
同展図録は、画面の下方にクーフィー体の銘文がある。鳥のとさかも、そのようなクーフィー体の銘文の形に影響されているという。
アゼルバイジャン博物館本のとさかもクーフィー体に由来するものだったのだ。
花とその茎のモティーフも描かれている。
白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径21.1高7.2㎝ イラン北中部 岡山市立オリエント美術館蔵
同展図録は、鉢の底の部分を鳥の胴の丸みにしてあるなどして、器形の特徴を意識したデザインが工夫されているという。
この鶏は胴部が小さくも尾が長いなと思っていたが、どうやら見込みの狭い鉢に描かれているらしい。
花とその茎のモティーフにクーフィー体の黒い文字、とさかと揃っている。
白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径18.5X高7.8㎝ イラン北中部 大原美術館蔵
同じように羽毛に斑点があるが、とさかがない。鶏ではない鳥も描かれている。
花とその茎のモティーフは器面を一周するが、クーフィー体の文字はない。
白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径24.7高9.3㎝ イラン北中部 富山美術館蔵
くちばしが大きく足が長いので、鴫のような水鳥かも。花とその茎のモティーフもかなり変わっている。
そして上の作品との違いは、輪郭線から色釉がはみ出していることだ。
白地多彩鳥文鉢 10-11世紀 径18.5高7.3㎝ イラン北中部 岡山市立オリエント美術館蔵
輪郭線のない赤い線状のものはとさかのつもり?鶏には見えない鳥が花弁を啄んでいる。
赤い線は胴部にも見られ、黒いものは文字のよう。
花のモティーフはあるが、茎はなくなってしまった。

白地多彩鳥文鉢 11世紀 径26.2高9.0㎝ イラン北中部 岡山市立オリエント美術館蔵
口縁部に黒い三角形を連ね、その内側を2本の細い線が描き込まれた文様帯があるだけで、花とその茎のモティーフもクーフィー体の文字もないすっきりとした背景いっぱいに、クジャクのような冠羽のある大きな鳥が飛んでいる。
同展図録は、アモール出土と伝えられるが、正確な出土地は不明である。翼を広げて飛ぶ鳥のデザインには82の構図が応用されているという。
白地多彩文字文皿 9-10世紀 径27.5㎝ 東イラン 中近東文化センター蔵
82番の作品。
同展図録は、葉文を組み合わせたもののようにみえるが、それぞれの要素には草書体の銘文が隠されている。円と葉を四方に配する構成という。
それよりも、下の鳥を思いっきり図案化したように見えるのだが。

白地黒彩鳥文鉢 10世紀頃 径23㎝ 東イラン、ジェイ・グラックコレクション
同展図録は、胴部に唐草のある1羽の鳥を大きく描いている。鳥もアラビア文字の変形である。羽根の描写も抽象的。地には、円や渦巻と短線を組み合わせた文様という。
草食獣も描かれている。

白地多彩動物文鉢 10-11世紀 径24.0㎝ 東イラン 西田美術館蔵
同展図録は、縁の3箇所には外側には三角形の連なり、内側はジグザグ文と点文。中央には鹿かガゼルに似た四足獣が表されているという。 
肉食獣から逃げながらも、後方を伺っているように見える。
見込みの底では、輪郭線も斑点の文様も滲んでいる。

白地多彩動物文鉢 9世紀 径16.5㎝ 東イラン ジェイ・グラックコレクション
同展図録は、花文が周囲に点ぜられ、緑と黄色の斑が付されており、華やかな画面になっているという。
体の斑点と長い尾は強調されているが、肢はとても俊足のチータとは思えない。目みたい。
白地多彩動物文鉢 9-10世紀 径21.6㎝ 東イラン 中近東文化センター蔵
同展図録は、黄色味がかった地に、すっきりとした黒彩でチータを描いている。これは猟犬とならぶ狩猟用の動物であった(首に鎖がある)という。
上の作品もそうだが、頭部の斜め上に向かうものが鎖だとは思わなかった。その上太い首輪と顔の間に何を描いているのか・・・前肢だ。この図では、斑点のある丸いものは肢を表しているのだった。
そして、奇妙な描き方ではあるが、一番完成度の高い動物文は、同展図録の表紙になっているこの皿。しかし、この作品については全く説明文がないのだった。

白地多彩動物文皿 時代不明 出土地不明 所蔵不明

この特別展でたくさんの作品を出品されたジェイ・グラックコレクションについて検索してみると、神戸の異人館街にあったペルシャ館でグラック夫妻のコレクションが展示されていたが、1995年の阪神大震災で倒壊し、長い間放置されていたという記事がたくさんあった。しかし、そのコレクションがその後どうなったかについては不明。どこかで修復、保存されていることを願うばかりである。

蛇足ですが、かなり以前に知り合いの爺さんにこの図録を見せたところ、とても興味を持ち、陶芸が趣味だったので、自分もまねて作り、私にくれました。
大鉢 径29高9.6㎝
大皿 径37高5.5㎝
こうして比べてみると、やはり素人なので、釉に滲みや流れが見られ、絵も小さくまとまってしまっています。
あまりにも重いので実用に向かず飾っているだけ。毎年大掃除になると、その大きさと重さを実感する。
鳥の絵の方は径22㎝の皿も作ってくれ、菓子器に使っていたら縁が欠けてしまいました。

   アゼルバイジャン博物館 ラスター彩← →ペルシアの彩画陶器は人物文も面白い

関連項目
タブリーズ アゼルバイジャン博物館

※参考文献
「イランの彩画陶器」 1994年 岡山市立オリエント美術館