ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2017/12/29
アゼルバイジャン博物館 ラスター彩
ラスター彩のケース
説明文は、イスラーム陶器製作の時代は12世紀、セルジューク朝の最盛期とホラズム・シャー朝という微妙な時代。広口の水差し、瓶などが作られ、型作り、象嵌、浮彫などの装飾が施された。陶工は金属職人と競った。ラスター彩陶器、ミナイ手(ハフト・ランギ)、化粧掛け陶器などが、ジョルジャン、カーシャーン、ラアイなどで作られたという。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、ラスター彩陶器は、白色不透明釉の上に酸化銀または酸化銅を含む絵具で着彩したもので、上絵付のための2度目の焼成には酸素を著しく減少させた特別な環境を作り出す窯が用いられ、酸化金属を還元させることによって焼き上がった図柄が金属的な輝きを示す陶器である。「ラスター」とはこの金属的な「輝き」を指す英語で、現代の美術用語であり、当時は「2度焼きされるエナメル」と呼ばれていた。イランでは12世紀後半から生産され、14世紀半ばまで続けられた。ラスター彩の技法は特定の陶工集団が独占していたようで、広く普及することはなく、陶工集団が移住した地で一定の期間だけ隆盛を誇るという傾向にあった。この時代のイラン・ラスター彩陶器では多くの場合、白釉に中絵付が施されており、ラスター彩の色彩だけでなく、ターコイズ色や藍色のハイライトを帯びているという。
ラスター彩鉢 12世紀
全体に薄い発色、器体も薄手。
馬に乗って駆ける人物が見込みに描かれ、口縁部にはカリグラフィーが巡っているが同じ文字が並んでいて、インスクリプションにはなっていない。その間の文様も同じものが6回繰り返されているが、何を表しているかは不明
ラスター彩鉢 12世紀
上の作品よりは幾分厚みがありそう。
こちらも騎馬像が見込みに描かれている。丸顔の女性と思って見ていたが、この時代、こんなに自由に女性が遠出できたのだろうか。そう考えると騎士かも。
ラスター彩鉢 11世紀 厚手
見込みには八弁の花文、その外側にも8弁の花か萼が描かれ、その先から外側へ鎖状の線が伸びる。その間に8名の人物立像が右向きで表される。それぞれが文様の違う服装で、女性のよう。
このような丸顔の女性がラスター彩に描かれているのは、これまでも見てきたし、セルジューク朝やイルハーン朝は日本人と似た平らな顔族であることは知っていた。だが、深目高鼻のガイドのレザーさんが「丸くて平たい顔」と言うと、ものすごく実感できた。
ラスター彩鉢 薄手
全面に植物文様が描かれいてるが、口縁部はペルシア文字風。
ラスター彩深鉢 12世紀
狭い見込みには左右対称に鳥が描かれる。ペルシア文字が巡る口縁部との間には段3段の文様が21列並ぶ。
鉢の外側にも文様は描かれている。
水差し 12世紀
頸部にはヒョウのような動物が描かれる。
ラスター彩鉢 12世紀
見込みが広く、そこに一人の人物が描かれているが、やはり馬に乗っているみたい。
別のケース上段もラスター彩
ラスター彩鉢 13世紀
空色の透明釉が部分的に入る。
見込み中央に四弁花、その周囲にヒョウのような動物が4頭、その間の文様は不明。12の円には胡坐する人物像が右手をあげて描かれる。髪の様子から女性ではないだろうか。
口縁部にはペルシア文字が描かれる。
ラスター彩壺 13世紀
胴部には蔓草の間に人物が描かれる。
十字形ラスター彩タイル 13世紀 ゴルガーン出土
ピントはタイルの下の台に合っていた。
ラスター彩に紺色や空色の釉が入る。植物文様だけなので、聖なる建物内部、おそらくミフラーブを、8点星のタイルと組み合せで荘厳していたのだろう。その場合、8点星のタイルは空色か紺色の単色だったのではないかな。空色の十字形タイルとラスター彩の8点星タイルという組み合わせの逆で。
十字形と8点星を組み合わせたタイル装飾(カーシャーン出土、イルハーン朝、13世紀)はこちら
ラスター彩皿2点 13世紀
『砂漠にもえたつ色彩展図録』が ラスター彩の色彩だけでなく、ターコイズ色や藍色のハイライトを帯びているというような作品は他にもあったが、こちらの2点はそれが際だっている。
壁にかかったパネルにミフラーブの写真
ミフラーブ ラスター彩と空色タイル サラブのマスジェデ・ジャーメ
空色の蔓草文様を浮彫したタイルと、ラスター彩のインスクリプション帯でミフラーブを構成している。
インスクリプションは紺色。地のラスター彩による蔓草文様も丁寧に描かれていて、マッカ(メッカ)の方向を示す大切なミフラーブを荘厳するのに相応しい技術だ。
その続きの部分を方向を変えて。
この写真パネルのミフラーブが、サラブのマスジェデ・ジャーメ(金曜モスク)のものであることが分かったのは、別の写真パネルのおかげ。しかしペルシア語しかないので、書いてあることは理解できない。
→アゼルバイジャン博物館 面白い動物が描かれた陶器
関連項目
ラスター彩の起源はガラス
タブリーズ アゼルバイジャン博物館
参考文献
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市立オリエント美術館