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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/07/29

イシク・クル湖北岸の岩絵2 サカ・烏孫期のオオツノヒツジは新石器時代のものが手本?


チョルポン・アタの岩絵に登場する動物で最も多いのはオオツノヒツジ(アイベックス、現地の説明板より)である。

チョルポン・アタの岩絵で見学したのはサカあるいは烏孫が描いたものとされ、前8-後5世紀と、岩絵にしては時代の下がるものだった。
イシク・クル湖に流れ込む川の下流平地に新石器時代からの岩絵が残っていて、弓のようにカーブしたオオツノヒツジだけでなく、角が渦巻くように表された草食獣も描かれていて、その名称はアルガリ・野ヤギ・アンテロープなど様々。
『Masterpieces of PRIMEVAL ART』でイシク・クル湖の青銅器時代について、
初期青銅器時代は前3500年-2000年、中期青銅器時代は前2000-1600年、後期青銅器時代は前1600-1200年、初期鉄器時代は前1200-450年としている。

アルガリ(偶蹄目ウシ科ヒツジ属) 動物は新石器時代、車輪は青銅器時代 カラ・オイ
『Masterpieces of PRIMEVAL ART』は、アルガリ、あるいはオオツノヒツジはヤギも同じく、昔の芸術家の好んだ題材である。螺旋状に渦巻く角は、しばしば標章の役目を果たし、宗教的な儀式に結びつけられたという。
角に力を感じ取ったのか、渦巻いて表されている。肢は4本、角は中央の何重にも巻いたもの以外は2本描かれている。
車輪については次回。馬に乗る人物はいつの時代のものだろう?

野ヤギ(ウシ科ヤギ属) 新石器時代 チェト・コイ・スー
同書は、広大な生息地を持つ野ヤギは、昔の猟師の主な獲物であった。そのような訳で岩絵の大部分はヤギの絵でしめられている。 幾つかの動物の像は象徴的な意味を持っているという。
野ヤギの方がサカや烏孫のオオツノヒツジの角に似ている。先が2本に分かれたものもある。

太陽の標章、車輪 青銅器時代 チェト・コイ・スー
上に両肢が車輪に描かれたオオツノヒツジ、下に二輪を綱で繋がれて牽くオオツノヒツジが描かれている。
角は1本で表されるものと、2本描かれるものとがある。
車輪については次回

太陽の標章と様々な草食獣 青銅器時代、チェト・コイ・スー
『Masterpieces of PRIMEVAL ART』の表紙には、太陽の標章の周囲に様々な草食獣が描かれている。その中で2本の角が頭部の前方に突き出ているものは雄牛。それ以外の動物は角は1本。

アルガリ 後期青銅器時代 チェト・コイ・スー
2本の角が渦巻いて表される。

オオツノヒツジ 初期鉄器時代 
人に飼い慣らされたユキヒョウがオオツノヒツジを狙う場面。
オオツノヒツジの角は、サカ・烏孫期(全8-後5世紀)のように2本には描かれていない。

アルガリ 初期鉄器時代 チェト・コイ・スー
鉄器時代になっても、角は渦巻いて表される。しかし、上の大きなアルガリは1本の角が渦巻き、下の2頭は2本の角が渦巻いている。

このように見てくると、サカ・烏孫期のアイベックスは、新石器時代のものを手本にし、さらにデザイン化したのではないかと思うほど似ている。

   イシク・クル湖北岸の岩絵1 シカの角が樹木冠に?
                       →イシク・クル湖北岸の岩絵3 車輪と騎馬

関連項目
騎馬が先か戦車が先か
イシク・クル湖北岸の岩絵4 ラクダは初期鉄器時代にやってきた

※参考文献
「図説中国文明史4 秦漢 雄偉なる文明」 稲畑耕一郎監修 2005年 創元社
「Masterpieces of PRIMEVAL ART」 Victor Kadyrov 2014年 Rarity