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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/05/01

アニ、セルジューク朝の石タイル3 8点星

1031年建造のキャラバンサライは、天井には、前回見たように、4・5・6点星と亀甲繋ぎ文の装飾があった。
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天井ではなく横断アーチの一部に卍文のような文様もあるが、平天井にあるそれ以外の文様といえば、8点星だ。
正方形の区画の中に、くの字形の黒い線で大きな八角形があり、その中心には小さな8点星がある。
もう一つの小区画にも8点星がある。中央に2つの正方形を45度回転させて重ねたような赤の8点星、その外側の2辺に黒の変則的な四角形を付けて8点星になっている。
1071-72年建造の大モスクでは、10の部屋の一番小さな平天井の天井には黒石タイルの8点星と、赤石の十字タイルを組み合わせて作られている。
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8点星の文様はイスラームの成立以前から見られる。

皇女アニキア・ユリアナの肖像 ディオスコリデス著『薬物について』挿絵 512年頃 37X30㎝ ウィーン、国立図書館蔵
『世界美術大全集6ビザンティン美術』は、512年頃皇女アニキア・ユリアナに献呈されたディオスコリデス原著『薬物について』の一点の写本。紀元後1世紀のカリアの人ディオスコリデスの編んだこの古代の薬学書は、古代末期のヘレニズム絵画伝統の粋というべきみごとな挿絵の数々に飾られている。
制作地はコンスタンティノポリスであろうという。
縄で正方形を2つつくり、それぞれの角を外周の円に引っかけた文様は8点星といってもいいだろう。
その献呈ページ中で、自らを「知恵」の姿に擬したユリアナは「寛大」と「洞察」を表す二人の擬人像に後ろを護られ、あたかも聖母マリアに紛う堂々たる姿で玉座に座しているという。
それぞれの三角形に1文字ずつ入れてユリアナにするために、この8点星というモティーフを用いたのではないだろうか。
537年、コンスタンティノープルにユスティニアヌス帝が献堂したアギア・ソフィア聖堂の内ナルテクス天井の金地モザイクにも8点星はあった。
アギア・ソフィアのナルテクスについてはこちら
人物や動物の表現が禁じられたイスラーム世界では、植物文や幾何学文が発達する。8点星も以前からあった文様をイスラームが取り込んだものの一つだろう。
8点星と十字形の組み合わせはイスラーム世界で生まれたようだ。

異形煉瓦 アイシャ・ビビ廟 カザフスタン、タラス 12世紀
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、この時代のペルシアの被覆材としての煉瓦は、多種多様な形状をもつようになる。形も多角形や星形など多岐にわたり、表面にも浮彫が彫り込まれ、一度焼成した煉瓦を切り刻んでからならべることも行われた。
単色の煉瓦では文様は必ず凹凸を用いて表現するしかないという限界があったという。
浮彫焼成レンガの8点星と十字形を組み合わせた壁面がある。
ここでは、ブハラのサーマーン廟(913-43年)のように、焼成レンガはコンクリートを流し込む型枠として使ったのか、現在のタイルの使い方と同じ、被覆材として使われていたのか。
煉瓦の剝がれ落ちた跡や、煉瓦と煉瓦の隙間の広さから、被覆材として使ったのだろう。
タイル セルジュク 13世紀前半 8点星:縦19㎝横23㎝厚2.4㎝ 十字形:縦23㎝横21.2㎝厚2㎝ ベイシェヒール湖近くのクバダバド宮殿跡出土 イスタンブール考古学博物館蔵
『トルコの陶芸チニリキョスク』は、8点星は、クリーム色の地に茶と青で絵を付け透明釉をかけた八角形タイル十字形は、トルコブルーの化粧地に黒で文様を描き、透明釉をかけて焼いた十字型のタイルという。
この8点星と十字形のタイルの組み合わせはイスラーム世界で長く好まれることになる。

※参考文献
「世界美術大全集6 ビザンティン美術」1997年 小学館
「砂漠にもえたつ色彩展図録」2001年 岡山市立オリエント美術館
「トルコの陶芸 チニリキョスクより」1991年 イスタンブル考古学博物館