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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2006/10/20

五弦琵琶は敦煌莫高窟にもあった


昨夏キジル石窟を見学したが、この時もわがままな私は、旅行社に無理を言ってたくさんの窟を要望した。非公開ということで見られない窟もあったが、一般の旅行客が見ない窟まで見学できた。
第8窟は一般窟で、キジル石窟の入場料だけで見ることのできる窟だった。この時石窟の専門ガイドとしてまだ若い馬さんが案内してくれた。「正倉院にある五弦琵琶がここに描かれています」と第8窟の正壁の上部にわずかに残った壁画に描かれている五弦琵琶を弾く飛天を指した。 下図が正倉院蔵五弦琵琶で、表も裏も螺鈿の装飾が美しい。 何故か私は描かれている五弦琵琶もキジル石窟第8窟が唯一だと思いこんでいた。ところが、『日本の美術358号 唐草紋』で敦煌莫高窟にも五弦琵琶を弾く伎楽天が描かれていることがわかった。しかしそれが第何窟かは記されていなかった。
その白黒の図版からすると、半アカンサスの葉が描かれているようだったので、北周の第296窟か第299窟だろうと見当を付けたがはずれた。それで西魏窟を見ていくと、第285窟の正壁(西壁)の本尊のいる龕楣にあった。

これは少なからずショックなことだった。何故なら第285窟はかつて見学したことのある窟だったからだ。
この窟はかなり広く、壁画で満ちていた。しかも、伏斗式の窟頂と四壁の間にある斜めに台形になった4つの面に描かれた様々な動物に飛天、そしてそれらの空間に描かれた細い赤い線が大気の流れを表しているようで素晴らしかった。
莫高窟の専門ガイド丁淑軍さんの説明に酔いそうになりながら、上ばかり見上げていたので、四壁の仏像やその眷属あるいは寄進者などには目が行かなかったのだった。丁さんが五弦琵琶のことを説明してくれたかどうかを一緒に見た夫に聞いても、覚えていないと言う。
私が勝手に思っているように、「アカンサスは敦煌に北魏時代に伝播した」のであれば、龕楣に描かれている伎楽天の周りにあるものも半アカンサスの葉である。よく見ると伎楽天はそれぞれ蓮華化生となっていて、左側の伎楽天に至っては逆さを向いている。このような本尊に近いところのものまで奔放に描かれているのだから、その上部の動きのある描写がどのようなものか想像できると思う。

ところで、法隆寺金堂天蓋の上に取り付けられている伎楽天は蓮華化生ではないのだが、蓮台に正座して琵琶を弾いているものもいる。髪型が似ているようだ。
この楽人が弾いている琵琶は、装飾はともかく、下図のような四弦琵琶だったのだろう。

※参考文献
「新疆璧畫全集2 克孜爾」1995年 新疆美術攝影出版社
「正倉院とシルクロード」1981年 太陽正倉院シリーズⅠ
「法隆寺 日本仏教美術の黎明展
図録」2004年 奈良国立博物館
「第56回正倉院展図録」2004年 奈良国立博物館