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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/12/08

オルジェィトゥ廟の漆喰装飾2 埋め木


スルタニーエのオルジェィトゥ廟では、二層目が墓室の大空間に向かって開かれた8つのイーワーンと、イーワーンを繋ぐ天井の低い通路、そして二段の大きなムカルナスドームの小さな部屋という組み合わせの連続だった。
イーワーンでは漆喰細工と彩色による装飾が見られ、二段のムカルナスや通路の壁面には、そのイーワーンドームの小部屋の2つと通路の壁面や天井、そして三層目の回廊の壁面や移行部に埋め木という装飾があった。

『ペルシアの伝統技術』は、セルジューク朝時代、10世紀から12世紀にかけて装飾的な要素の強い建築技法がイランで盛んに用いられるようになり、それ以後のイラン建築の特徴となった。この技法、つまりイランでハザールバーフ(hazārbāf、「千の交織の意)として知られる装飾的な煉瓦積みは、すでに8世紀にはイラクで出現していた。
漆喰の継ぎ材が用いられるようになったが、豊かな装飾が好まれたため、これらの漆喰の継ぎ材にも浮き彫りが施されるようになった。その後、煉瓦と煉瓦の間に浮き彫りを施した埋め木が嵌め込まれるようになった。最終的には豊かな浮き彫りが全面に施された漆喰の壁が用いられるようになった。この技法はソルターニエのウルジャーイトゥー廟のドームやヴォールトの建築においてその頂点に達したという。
これがそのドームの一つ(①と②のイーワーンの間)。
大きなムカルナスと三角状の曲面の大きな植物文様とで構成されている。
ムカルナスの曲面には、レンガの間に型押しした埋め木が嵌め込まれている。このムカルナスドームの埋め木は、総て同じ文様だった。
三角状の曲面には大きな植物文様を型押しした漆喰装飾。
それぞれの曲面の縁を巡る細い文様帯は不揃いに見えるが、漆喰に型押ししたものらしい。それぞれに彩色されている。

二つ目のムカルナスドーム(入口上の⑦のイーワーンと⑧の間にある)
このドームに使われている埋め木は、様々なパターンがある。最初に通ったムカルナスドームにはない、線でつながったような文様があちこちのムカルナスに施されている。
線がつながっているように見えたが、埋め木の文様の対角線がつながって、斜格子文のように見えているのだ。それにレンガ自体も十字形。それともこのムカルナス全体が漆喰?
そんな気がする。
左下のムカルナスは四弁花に浮彫された埋め木が、中央まで斜めに、そして左右交互に並ぶ。右のムカルナスも同じような配置だろう。
ムカルナスの曲がり角のレンガは曲面になっていて妙だ。やっぱりこのムカルナスのドーム自体が漆喰装飾でできている。
そうかと思えば、右のムカルナスは四弁花を浮彫した埋め木の斜めの線で遊んでいるようだ。
左のムカルナスでは菱形ができているが、埋め木の中の斜めの線を繋ぐということはしていない。
全体が漆喰でできているので、このムカルナスの面に、長方形のレンガでは作り得ない形の区画になっているのだ。

天井の低い通路の壁に埋め木を見かけた。
この画像には3種類の埋め木があるが、それぞれが少しずつ違っている。手彫りかな?
しかし、『ペルシアの伝統技術』は、漆喰製の埋め木は一つ一つ彫られたものではなく、明らかに数多くの異なる型による型作りであったという。 
手彫りっぽくても型作りらしい。

別の通路では、尖頭アーチ上のスパンドレルだけでなく、埋め木にも赤い彩色が残っている。
この部屋の壁面は、レンガの長手を細い文様帯が囲み、短手をその文様帯が交差して幅広になっている。
どう見ても文様が揃っていないので手彫りのようだが、同書に記されているように型作りなのだろう。
同じ部屋の別の壁面。下側には2種類の埋め木があり、左側の方は、左右のレンガが突き出ているために、X字形の空間に埋め木を嵌め込んでいる。
上の蔓草の文様帯も型作り?

三層目にはドーミカル・ヴォールトが3つ並ぶ回廊が8つあった。
『ペルシア建築』は、外側のギャラリーを形づくる24区画(各辺3区画)のヴォールトは、入り組んだ幾何学文様を表わす彩色パネルで装飾されている。その文様は非常に魅力的であり、色彩もまた素晴らしいという。その壁面やドーミカル・ヴォールトの移行部にも埋め木があった。

もっと広い壁面を写せばよかった。これでは埋め木の文様の配置に規則性があるかどうかわからない。

回廊⑥-1のドーミカル・ヴォールト
壁面は多いが、埋め木の文様としては、それほど種類は多くなさそう。
回廊⑤-1のドーミカル・ヴォールト移行部
それでも、その配置などに工夫を凝らしている。長手の漆喰面も利用して、菱形を作っているように見える。
上の右壁面。ここでは赤く着彩したレンガ状のものの配置で菱形を作っている。

こんな壁面もあった。埋め木が剥がされたのだろうか。それとも修復中?

埋め木という型作りの漆喰をレンガの壁面に嵌め込むという装飾。これは今まで見てきたものにもあったが、「埋め木」という表現を知らなかった。
もっとも、埋め木細工というのは、日本では古いお寺などの板や柱の補修でお馴染み。

唐招提寺金堂の板の穴を補修した埋め木
同じく円柱。下部が傷んで木を接いだが、その木材が傷んで補った埋め木

次回は今まで旅行してきたところで見た埋め木についてまとめます。

オルジェィトゥ廟の漆喰装飾1 浅浮彫とフレスコ画
                  →レンガの組み積み(ハザールバーフ)と埋め木

関連項目
スルタニーエのオルジェイトゥ廟(ゴンバデ・スルタニエ)
オルジェィトゥ廟のタイル装飾


※参考文献
「ペルシアの伝統技術 風土・歴史・職人」 ハンス・E.ヴルフ 大東文化大学現代アジア研究所 2001年 平凡社