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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2017/04/25

マスジェデ・ジャーメ 北礼拝室のドーミカル・ヴォールト


北礼拝室は、マスジェデ・ジャーメの説明板によると、北イーワーン左右のセルジューク朝期(12-13世紀)に平天井からドーミカル・ヴォールトに改築された礼拝室と、更に北ドーム室との間にムザッファール朝期(14世紀後半)に新たに建造された北側礼拝室とを含んでいる。
しかし、深見奈緒子氏のイスファハーンのゴンバディ・ハーキにみられる装飾文様によると、イル・ハーン朝以来、大モスクの北部に取り込まれてしまったということで、14世紀前半には北礼拝室はできていたとも解釈される。
同氏のヴォールティングの諸形態では、イル・ハーン朝期とするドーミカル・ヴォールトがたくさんある。

平面図(『GANJNAMEH7』より、番号は『ペルシア建築』の1931年にEric Schroederが作成した平面図より)。

149が礼拝室への入口となっていて、古そうな深いのドーミカル・ヴォールト(165・173、共に八角形で輪積)が並んでいた。近づけなかったが、407のドーム室(サファヴィー朝期)の手前の明るいところは181矩形のドーミカル・ヴォールト(イル・ハーン朝、14世紀前半)で、うっすらとだが平の面が並んでいるのが確認できる。

入って2つめのヴォールトはユニークだった。

157 時代不明
焼成レンガだろうが、素焼きとは思えない、淡い色とりどりのレンガがタイルのように並んでいた。曲面に平たく、ある程度の面積のあるものを貼り付けていくので、できた隙間には細いレンガを嵌め込んだり、中心に向かうほどレンガを小さくしたりと工夫も見えて楽しい。
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態は、「平行積」は「斜行積」に比べて数が少ない。TYPE2は、157と451のわずか2例である。数層の平行積煉瓦の後に煉瓦の平を見せる特殊な積み方という。

北イーワーン東礼拝室は円柱が細いので列柱室が見渡せる。

165 セルジューク朝、12世紀 
扁平な三角形のペンデンティブと尖頭アーチ上の辺で八角形をつくり、その上に円を導いている。
頂部に明かり取りはなく、最後は五角形になっている。
166 セルジューク朝、12世紀 ペンデンティブ、輪積ドーム
ペンデンティブも輪積を尖頭アーチで切りとったような連続感がある。
小さな明かり取りを設ける。この明かり取りは、幾つ毎に一つというような規則性は感じられなかった。
174 イル・ハーン朝(14世紀前半)
ペンデンティブは、途中から稜が現れ、上端で浅い角度のある2辺となっているところと、ドーム部分の弧となっているものとがある。そこに、焼成レンガの短辺を斜めに並べて一巡させ、その上には反対方向に傾けて一段積みということを繰り返してドームにし、頂部には明かり取りがある。
それを見上げると服地の杉綾文(herringbone)のように見える。 
175 セルジューク朝、12世紀
ペンデンティブで八角形、円と移行させる。レンガの短辺が見える積み方で杉綾文となっている。
176 イル・ハーン朝-ムザッファル朝、14世紀
リブのある傘状八角形。レンガの並べ方で2種類の文様をつくる。一つは中央に点のある斜格子文、もう一つはレンガの長辺を水平に、短辺を斜めに積んで、逆V字形のようになっている。
177 イル・ハーン朝、14世紀前半 
4点星が大きく中央に表され、四隅には大きな2枚のムカルナスがあり、レンガの配列を交互にした杉綾文を横縞のように連続させている。
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態は、ムカルナス小曲面を用いているためにこの分類に含めたものの、層の積み重ねはなく、本来は単純なアーチの交差から、イスラーム建築特有の「交差スクインチ・アーチ・ヴォールト」及び「ムカルナス・ヴォールト」に至る過渡的な形状と解釈することも可能になる。四隅に稜線部が残り、「クロイスター・ヴォールト」の応用例として捉えることができるという。
183 イル・ハーン朝、14世紀前半 クロイスター・ヴォールト
各円柱から立ち上がった小壁はペンデンティブのような面をつくらず、そのまま対角線となって頂部で交差する。それに交差するレンガの長辺を3列に並べた直線は、リブのように盛り上がっていない。
時代不明の157の天井と同じく、レンガの平の面を多用し、味わいのある天井となっている。
184 イル・ハーン朝-ムザッファル朝、14世紀 クロイスター・ヴォールト
183と天井の架構は同じだが、レンガの長辺や短辺を水平に積んでいる。
185 サファヴィー朝期
ヴォールティングの諸形態は、「ムカルナス・ヴォールト」にいれた№185は四隅に稜線部が残り、「クロイスター・ヴォールト」の応用例として捉えることができるという。
最下段は176(14世紀)と同じ文様、8点星の8本の足?は短辺を交互に並べて積み、その中側の8点星は平の面を割った3片、更に内側の八角形も短辺を交互に並べる。リブで仕切っている。

北イーワーンと北ドームの間の礼拝室へ入ると角柱に変わった。角柱は視界を遮る。
マスジェデ・ジャーメの説明板によると、ここはムザッファール朝期(14世紀後半)に建て増しされたところだが、ヴォールティングの諸形態のGaldieriの「マスジェデ・ジャーミの概要図」によると、ブワイフ朝期には回廊のようなものもあったようだ。
412 イル・ハーン朝(14世紀前半)
ヴォールティングの諸形態は、ペンデンティブ・ヴォールト「斜行積」TYPE3はTYPE1の頂部を開口させたり、頂部だけ異なった積み方をするもので、複雑なものは410等であるという。
4つのペンデンティブが隣の文様のと接する上端でそれぞれに二重線が付けられて正方形ができる。そこから天井が十字に立ち上がり、中に三重の枠をつくる。
414 イル・ハーン朝(14世紀前半)
412に似た文様を、杉綾状の帯でつくる。ペンデンティブは三重のV字形を、レンガの並べ方ではなく、焼成レンガの色濃淡の配置で表す。
425 イル・ハーン朝(14世紀前半)
ラテルネンデッケの天井を意匠にし、かなり平面的な天井となっている。中心部分に十字の切れ込みが見える。
436?
正方形の輪郭に45°傾けた、4つの正方形からなる元と同じ大きさの正方形という組み合わせせ。

445から見上げると、447(イル・ハーン朝期、8稜)の六角形の明かり取りのおかげで明るい。
その手前は446。
左は438(イル・ハーン朝)
446 イル・ハーン朝(14世紀前半) 6稜
輪郭が六角形ながら、車輪のスポークのよう。
上439 イル・ハーン朝 6稜
右奥448 イル・ハーン朝 6稜
左奥440 イル・ハーン朝 同心矩形に見える。 

北ドーム室(ゴンバディ・ハーキ)から東側を眺める。

474 カジャール朝(1796-1925年) 異形ベイ 三角・三角・六角・六角・六角形の明かり取り
三角形から六角形に移行するラテルネンデッケのような小ドームで面白い。
475 セミ・ドーム ムザッファール朝、1366年
焼成レンガの平の面が並ぶ。

北ドーム室から北イーワーン方向
465 イル・ハーン朝 6稜
457 イル・ハーン朝 6稜
447 イル・ハーン朝 8稜 六角形の明かり取り
439 イル・ハーン朝 6稜
427 イル・ハーン朝 クロイスター・ヴォールト
417 イル・ハーン朝 X字

北ドーム室の南開口部から出て西側。
西突き当たりは厚い外壁の壁龕 サファヴィー朝 ストゥッコのセミ・ドーム(ヴォールティングの諸形態より)
469 イル・ハーン朝 八角・4段のラテルネンデッケ風、クロイスター・ヴォールトヴォールティングの諸形態より)
468 イル・ハーン朝 矩形でラテルネンデッケ状、3段目が明かり取り(ヴォールティングの諸形態より推察
467 イル・ハーン朝 斜行
斜め左奥 
459 イル・ハーン朝 矩形、クロイスター・ヴォールト
449 イル・ハーン朝 

スカーフといえば、5月のイランではすでに暑苦しいものだが、涼しい室内で、特に列柱室で見え隠れするアーチや柱の間にスカーフを着けた婦人が似合う。


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                →マスジェデ・ジャーメ ゴンバデ・ハーキ

関連項目
マスジェデ・ジャーメ3 北翼
マスジェデ・ジャーメ、南東礼拝室のドーミカル・ヴォールト
マスジェデ・ジャーメの変遷
  
参考サイト
金沢大学学術情報リポジトリより 
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態 1998年
深見奈緒子氏のイスファハーンのゴンバディ・ハーキにみられる装飾文様 1996年


※参考文献
SD選書169「ペルシア建築」 A.U.ポープ 石井昭訳 1981年 鹿島出版会
「GANJNAMEH7 CONREGATIONAL MOSQUES」 1999年