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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/01/26

タイルの花瓶や釣鐘のようなものは生命の樹


ヒヴァで宮殿や墓廟、メドレセそしてモスクの絵付けタイルを見て歩いた。最後にイスラム・ホジャのメドレセのファサードで、イーワーンの半ドームのタイルを見ていて、花瓶かと思っていた形が、生命の樹に思えてきた。

イスラム・ホジャのメドレセ ファサード 1908-10年創建
取り敢えず、花瓶型と呼ぶことにする。

ヒヴァのメドレセでは、このようなイーワーンがよく見られた。

モハメド・ラヒム・ハンのメドレセ ファサード 1871年創建
生命の樹というよりは、どちらかというと、瓢箪のよう。

モハメド・アミン・ハンのメドレセ ファサード 1845-55年創建
『旅行人ノート⑥』は、1851-55年にかけてムハンマド・アミン・ハーンの命により建設された。当時は町でも最大のマドラサという。
同じく瓢箪型。

アラクリ・ハンのメドレセ ファサード 1834-35年創建
『旅行人ノート⑥』は、ヒヴァでは第2の規模を持つ。これといった特徴はなく、オーソドックスな造りという。
こちらは花瓶型樹に近い。

タシュ・ハウリ宮殿の妃の間4 天井に近い文様帯 1825-42年
柱礎のような形なのに、アイワンの3壁上部にこの形が並んでいて不思議な気がした。柱礎ではなかったのだった。しかし、こういう形について、どの本にも名称がないので、仮に釣鐘型とする。
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クニャ・アルクのモスク "腰壁 1825-42年
釣鐘型に括れがある。

クニャ・アルク、モスクのタイル2 腰壁
下すぼまりで蓮弁にも見える。

パフラヴァン・マフムド廟ハナカ ドーム 1810年建立
先が尖っているが花瓶型としよう。
非常に細かく左右対称に渦巻く蔓草文が描かれている。

クニャ・アルク謁見の間 腰壁 1804年再建
渦巻が大きく、それが犬の顔を表しているように見えてしかたがない。
下1/3は古く、それに修復タイルの絵を合わせている。括れのある釣鐘型かな。

このような形は他の街のモスクや墓廟の装飾に使われていた。

シルドル・メドレセ ファサードイーワーン頂部 サマルカンド 1636年
幅広のもの、細いもの、括れのあるものなどに左右対称の植物文が入る。
ヒヴァのものほど細かくはない、というよりも単純に、モザイク・タイルで蔓草を表している。

コク・グンバズ・モスク シャフリサブス 1434-1435年
括れのある釣鐘型。
ミフラーブの両側に描かれたフレスコ画。シルドル・メドレセのものよりも文様は細かい。

アミール・ザーデ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1386年
括れのある釣鐘型。
ハフト・ランギーとも思えない。

トマン・アガ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1405-06年
これは何型?
下部に壺が置かれ、そこから左右対称に生命力を感じる植物が表される。蔓草と言えるのかどうか。渦は巻いていない。様々な種類の花が描かれている。壺や水盤から植物が伸びる様子を描いたものは、テッサロニキのアヒロピイトス聖堂でも見られた。

シリング・ベク・アガ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1385-86年
括れのある釣鐘型。
小さな鉢から左右対称に蔓草が伸びているが、渦は巻かない。

シャディ・ムルク・アガ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1372年
括れのある釣鐘型。
断面で表された水盤から、左右対称に植物文が表される。その隙間は小さな葉が埋めている。
 
クトゥルグ・アガ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1360-61年
括れのある釣鐘型。
壺や水盤は見られず、コバルトブルーの蔓が左右対称に伸びる。上方には渦巻も見られる。

ウスト・アリ・ネセフィ廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 1360-70年
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、何といっても注目せねばならないのは、ハフト・ランギー技法の出現で、先のサファヴィー朝技法の先駆けとなった。その初例は管見の限りシャーヒ・ズィンダーに見受けられるという。
『世界のタイル・日本のタイル』は、鮮やかな色彩を用いた明快な文様が特徴のクエルダ・セカは、油性の顔料で輪郭を描いたのち、各面を色釉で塗りつぶして焼成したものである。顔料は燃えてしまうため、輪郭線が色釉の部分よりも凹んだ状態で残るという。
ハフト・ランギー(クエルダ・セカ)の初例で、括れのある釣鐘型。
色とりどりの、複数の花が、左右対称に表される。壺や水盤はない。

ホジャ・アフマド廟ファサード サマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群 14世紀半ば
括れのある釣鐘型。
左右対称に伸びる空色の蔓草は、上方で一度渦を巻く。壺も水盤もない。

ヒヴァの花瓶型や釣鐘型のものは、輪郭が重要なのではなく、その中に生命力あふれる植物を表したものだった。これは生命の樹といって良いのでは。



関連項目
ハフト・ランギー(クエルダ・セカ)の初例はウスト・アリ・ネセフィ廟
ハフト・ランギーの起源は浮彫タイル
テッサロニキ7 パナギア・アヒロピイトス聖堂2 モザイク1

※参考文献
「ウズベキスタンの歴史的な建造物」 A.V.アラポフ 2006年 SANAT
「UZBEKISTAN The Great Silk Road TOURIST MAP」 Cartographia 2009年
「旅行人ノート⑥ シルクロード 中央アジアの国々」 1999年 旅行人
「砂漠にもえたつ色彩展図録」 2003年 岡山市立オリエント美術館
「世界のタイル・日本のタイル」 世界のタイル博物館編 2000年 INAX出版