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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/05/02

アカンサス唐草の最古はエレクテイオン?



アテネ、アクロポリスの丘にあるエレクテイオンは、前421-406年に創建されたが焼失、現在の建物は前395年に完成した(『世界美術大全集4ギリシア・クラシックとヘレニズム』より、以下『世界美術大全集4』)ということで、後期クラシック期の最初期の建造物になる。
南壁はコーニスに浮彫が残っていて、カリアティドが支える南柱廊のコーニスよりも装飾的なものだ。
卵鏃文が2段、互い違いに並び、その下にはアンテミオンが並んでいる。
ロータス文の下部から左右に伸びた蔓は、隣のパルメット文の下部で渦巻く。あるいは、S字形の短い蔓が、パルメット文とロータス文の下部で渦巻いて、左右対称に連続していく。しかし、どちらの蔓も枝分かれせず、蔓草文とはなっていない。
ところが、『イラスト資料世界の建築』には、S字形の蔓に、僅かながら、蔓から枝分かれした葉のようなものが見られるのだった。
拡大してみると、確かにギザギザの葉が出ていて、ロータス文の一番下はアカンサスの葉になっている。
ひょっとすると、これはアカンサス唐草の最古のものではないだろうか。

北柱廊
イオニア式円柱頂部にもアンテミオンが巡っている。

ややピンボケだが、S字形の蔓は、パルメットの下部で枝分かれしてそこから渦巻いた蔓が分かれながら、頂部に丸い蕾のようなものがついていた。

一方、北柱廊の戸口とその上部にもアンテミオンのような文様帯がある。
『イラスト資料世界の建築』りの図を見ると、玄関戸口の上部及び脇にS字形の蔓から枝分かれしたものが見られる。
特に脇の渦形持送りの側面には、葉や渦巻いた蔓などが伸びている。これは現地では気づく人は稀ではないかと思うような位置にある。
このような渦巻とそこから出た植物といえば、イオニア式柱頭が思い浮かぶ。

イオニア式柱頭 前560年頃 エフェソス、アルテミス神殿出土 大英博物館蔵
この柱頭は渦巻というよりはロゼット文になっているが、巻き初めから植物が出ているという意匠が、やがて蔓草文になっていったのかも。

そして、戸口の上のアンテミオン。実際に見た時は、薄暗いのではっきりとは見えなかったが、妙なものがあるなあという程度で、それが蔓草文だとは思わなかった。パルメット文とロータス文の間には、蜂が飛んでいるように見えた。

ここに表されていたのがアカンサス唐草だとわかったのは、やはり『イラスト資料世界の建築』の図のおかげである。
柱廊のイオニア式円柱の頂部に浮彫されたアカンサス唐草の蕾が、ここではパルメットのような花を咲かせている。そしてロータス文の付け根にははっきりとアカンサスの葉がある。
写真をじっくり見ると、確かにハチと勘違いしたものは、下から伸びる茎から咲いた花だった。

その上の文様帯のアンテミオンも蔓草がある。
これはアカンサスの葉らしい特徴はないものの、渦巻く蔓が分かれて伸び、先端には五弁花のような花が咲いている。

エレクテイオンは前395年頃の再建ということで、後期クラシック期初期の建物に、これだけの蔓草文、しかもアカンサス唐草と思われるものが確認できた。
それ以前にも見られたものかどうか、今後調べていきたい。

     アカンサス唐草文の最初は?
          →パルテノン神殿のアクロテリアがアカンサス唐草の最初

関連項目
アテネ、アクロポリス3 エレクテイオン神殿
ギリシア建築8 イオニア式柱頭
エピダウロスのトロス2 天井のアカンサス唐草
ギリシア神殿5 軒飾りと唐草文

※参考文献
「世界美術大全集4 ギリシア・クラシックとヘレニズム」 1995年 小学館
「イラスト資料 世界の建築」 古宇田實・斎藤茂三郎 1996年 マール社