ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2009/10/27
列点文で文様を囲む
一見粒金細工のように見えても、オルモ・ベッロの墓地第2墓出土頸飾りの円盤(前750-725年)のように、じっくり見ると打出しによるものがある。『エトルリア文明展図録』は、特にエトルリアで広く普及した幾何学文の打出しという。外縁部には二重に細かな列点で円文を作り、中心に1つの点とそれを取り囲む列点による円文という1つの文様が、その間を巡っている。
打出しによる列点円文が中央の文様を囲むという構成は硬貨の文様と共通する。それは擬似粒金細工としてかなり古い時代から行われていたのだろうと思っていたが、意外にもエトルリアの前8世紀の作品が最も古かった。
ボタン アルトゥンテペ出土 前8世紀末-7世紀初 金 0.5㎝ アナトリア文明博物館蔵
アルトゥンテペは現トルコ東部のエルズンジャン付近にある、ウラルトゥ王国の遺跡である。エトルリアと変わらないくらいの時代のものだ。中央の六弁花も列点文らしい。 これらはアラジャホユックの出土の金製品に見られたような鑿による打出しではなく、型押しによる成形だろうか。
装飾板 バクトリア出土 前5-2世紀 金 4.5㎝ MIHO MUSEUM蔵
『偉大なるシルクロードの遺産展図録』は、金箔を12弁のロゼット文に切り、内側のメダリオンにはアキレス・ヒールのような意匠を押出しで形成している。アキレス・ヒールをつけた楯がオクサス神殿から発掘されている他、よく似た意匠がタキシラ出土の硬貨のパンチマークに見られるという。
同図録はこの作品を「アレクサンドロスの遺産」で紹介しているので、前4世紀後半以降のものだろう。この作品も型押しのようだ。
装飾板 バクトリア出土 前5-2世紀 金 高2.0㎝ MIHO MUSEUM蔵
円形の金板に正面向きのライオンの顔面とその周りにライオングリフィンの横顔を囲む区画を6つ打出し、裏面に小環をつけている という。
こちらは型押しではなく打出しによって製作された装飾板という。中央のライオンの顔面を囲む円と周囲の6つの区画に区切る線には打出し円文ではなく、丸鏨で刻んだような小円が並んでいる。 バクトリア出土品には型押しによる列点文の他、丸鏨による列点文も見られるが、粒金細工もたくさん出土している。バクトリア出土の粒金細工はこちら
その中には粒金細工による三角形の連続文様(鋸歯文)もあれば、円板の内部に金板を折って小さな三角形の帯文様にしたものもある。バクトリアでも粒金細工による文様を真似て、様々な工夫を凝らして金製品が作られたのだろう。
※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」(2000年 小学館)
「アナトリア文明博物館図録」
「偉大なるシルクロードの遺産展図録」(2005年 (株)キュレイターズ)
「エトルリア文明展図録」(青柳正規監修 1990年 朝日新聞社)