『世界美術大全集東洋編15』は、前8世紀ごろから前4世紀にかけて、ユーラシア大陸西部には独特な金属工芸美術をもつ文化が各地に生まれた。まず、中央ヨーロッパを中心とする後期ハルシュタット文化、これはケルト人の残した文化と考えられている。つぎに、イタリア半島中北部のエトルリア文化、これを残したエトルスク人は民族も言語も系統不明の謎の民族である。さらに、バルカン半島には華麗な金製品や銀製品で知られるトラキア文化が栄えた。そして、そこから黒海を渡った南ロシアと北カフカス地方にはスキタイ文化が花開いていたという。

トラキア人は言語的特徴から印欧語族に属す民族とされているが、その民族性形成の要因や過程についてはわからないという。
とりあえず、トラキア人は騎馬遊牧民であることはわかった。

14弁のロゼッタが細粒細工でふちどられている。非常に繊細で、裏には金の環が付いており、馬面飾りの装飾であったと考えられるという。
私には細線に刻みをいれたように見えるが、各ロゼッタの先端部に1つずつ、中央には大きな金の粒3つの上に先端部と同じ大きさの金の粒を1つのせている。

カザンラク県シプカ近郊でトラキアの都市スヴェストポリスとその周辺に広がる古墳が発見された。方形プランの石室で、石棺が使われている。
止め具と金線を繊細に編んだチェーン、そして二つのペンダントが組み合わせてある。つなぎの部分には女性の顔の装飾が多用され、ペンダントにはさまざまな植物文の装飾があるという。
2つのペンダントには大小の金の粒を鑞付けして文様が構成されている。
また図版が小さくてわからないが、人の顔がこのような装飾に使われるのはケルト的やなあ。

8枚の花弁のロゼッタ文で装飾された17個の円形ペンダント付きビーズと、ソロバン玉形の19個のビーズからなっている。ソロバン玉形のビーズはトラキアに古くから伝わる意匠だが、金の細粒を散らす装飾は、紀元前6世紀末頃にはじまったものであるという。
円形ペンダント付きビーズもソロバン玉形のビーズも、中が空洞で型で打ち出したものだ。「金の細粒を散らす」ということだが、円形ペンダントには6つの金の粒で作った三角形もあるし、1つだけの金の粒も規則正しく鑞付けされている。

※参考文献
「世界美術大全集東洋編15 中央アジア」(1999年 小学館)
「トラキア黄金展図録」(1994年 旭通信社)