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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2023/07/04

サンマルタンデネ教会 L'Église romane Saint-Martin d'Ainay 2 内部のロマネスク美術


サンマルタンデネ教会の中には3つある扉口の南の方から。
平面図(『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』 以下『AINAY』より)
サンマルタンデネ教会平面図 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

4柱間ある④身廊から⑥十字交差部、その奥が⑦内陣と⑧後陣
身廊の両側にはずんぐりしたモノリス(一本柱)の円柱が並んでいるが、中には継いであるものも。柱頭はロマネスク様式の葉文様でも、ローマ時代の神殿のものではないのかな。
AINAY』は、植物や擬人化された装飾(鳥の頭や怪物に苦しめられる人間など)のある身廊の柱頭彫刻は、強い浮き彫りとかなり丸みを帯びたスタイルで表されているという。

内陣に近い柱頭


柱頭は元はロマネスク様式の時代に作られたが、中には壊された時に新しく補填されたものもあるらしく、AINAY』は、ガダーニュ博物館 Musé Gadagne が所蔵している12世紀の柱頭もあるという。
3段のアカンサスの葉の浮彫は、風化あるいは劣化が進んでいる。
ガダーニュ博物館蔵サンマルタンデネ修道院の柱頭 12世紀 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より 


⑧後陣の舗床モザイク

⑬聖女ブランディーヌ礼拝堂の西壁にはいつ頃のものか分からない、おそらく舗床モザイクと思われるパネルがいくつか掛けてあった。これはサンマルタンデネ教会の⑧後陣を飾っていたものらしい。

リボンを交差させたような、他では見ない文様。

直線と円文の組み合わせ


これは聖女ブランディーヌ礼拝堂の別の壁にあったモザイク画。
現存するサンマルタンデネ教会を奉献した聖職者らしい。妙な文様の長衣の上に短いチュニックを着ている。あり合わせの布を継ぎ接ぎして作った粗末な修道士の衣服というような印象を受ける。建物を奉献するほどの財、あるいは権力があった人の衣装とは思えない。

この舗床モザイクは以前から問題にされてきたようで、
左:1607年、ベレスクの要請で修正したモザイク画
右:1854年、A.ステイヤーが、断片で残っているモザイクや銘文などを貼り合わせて作成した舗床モザイクの図
双方共にローマ教皇パスカリス2聖(と記されている)の長衣の裾を教会の塀とみなし、チュニックの裾に両足を移動しているが、現在では長衣の裾とされている。
サンマルタンデネ教会内陣の舗床モザイクの修正案 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より


AINAYは、内陣と後陣では、彫刻が施された装飾が建築の要所に組み込まれており、豊富な装飾的で宗教的なテーマが、教会の他の部分の雰囲気とはっきりと対照を成している。
内陣のかなり大きな淺浮彫では、彫刻家たちは北から南の順に、カインによるアベルの殺害、カインとアベルの神への捧げ物、大天使聖ミカエルの竜との戦い、洗礼者聖ヨハネ、あるいは先駆者、テトラモルフ(四福音書記者のシンボル)、原罪、楽園から追放されたアダムとイブ、最後に受胎告知という。

後陣といえばこの柱頭彫刻
左:カインとアベルの神への捧げ物。カインは農作物を捧げるが神に拒まれ、アベルは子羊を捧げて神に受け容れられる
右:大天使聖ミカエルの竜との戦い

右端の図について『異形のロマネスク』は、唐草文の中に現われているのは、蛇の口に槍を突き刺している聖ミカエルであるという。
その柱頭彫刻が見たいと思ってやってきたのだった。
リヨン、サンマルタンデネ教会後陣柱頭彫刻 『異形のロマネスク』より
 

その両側面の彫刻
左:カインによるアベルの殺害
私には恐怖におびえるアベルの上方に神の右手とその先に小さな人の横顔が見える
右:洗礼者ヨハネ
サンマルタンデネ教会後陣柱頭彫刻の両側面 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より


アダムとエヴア
左:蛇から果実を受け取るアダムとエヴア
右:神が禁じたことをしてしまい、楽園から追放されるアダムとエヴア

その両側面
左:四福音書記者の象徴中央に坐る「栄光のキリスト」。キリストは「Ego Sum Lux Mundi」(私は世界の光)のイニシャルが書かれた本を持つ 
右:大天使ガブリエルのマリアへの受胎告知
サンマルタンデネ教会後陣柱頭彫刻の両側面 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』


クーポールの柱頭彫刻の一つ
左:葉文様の中央の鳥は後ろを向いて羊あるいは牛の角をくちばしで挟んでいる
右:人の顔に長い尾を噛まれた鳥は、後ろを向いてその耳をくちばしで挟んでいる
サンマルタンデネ教会クーポールの柱頭彫刻 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』

後陣の半ドームを支える、半円筒の壁面にはステンドグラスが3つ並ぶ。それを隔てる複合柱が4本。それぞれの複合柱に縦長の扁平な付柱があって、そこに浅浮彫の装飾があった。

私も撮影したが、ピントの合っていたのはこれ1枚。
松笠のような尻尾のある肉食獣が並んで走っている。図柄が面白いと思ったが、柱礎の両側に人物などが彫られていることには気づかなかった。写っていてラッキー🤗
『AINAY』は、有益な価値を持ち、犬に代表される悪の勢力に対抗できるライオンのように、宗教的な意味がありるという。

後陣複合柱の浮彫
サンマルタンデネ教会後陣複合柱の浮彫 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

複合柱の柱礎(鮮明に見えないのは図版の限界)
同書は、中央の窓の柱の基部を囲む10体の小さな人物像のうち4体だけが、控え壁を超えて伸びているため、V.ラサールによって古いものとみなされた。彼は黙示録に結びつけ、石棺から半分出てくる人のように、祈る人のように、選ばれた王冠を持つ人のように、さまざまな人生の年齢に属する人たちをもっともらしく復活させ、全員が救いを待っているという。
サンマルタンデネ教会後陣複合柱柱礎の浮彫 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

後陣の複合柱礎石の浮彫
左:オランスの型で祈る人
右:碇を持つ船乗り
後陣の複合柱礎石の浮彫 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

左:上を向く坐った鹿
同書は、キリスト教徒の魂を呼び起こす鹿という。
右:石棺の中から起き上がって祈る人
コンクのサントフォワ教会タンパンでは、天使が石棺の蓋を開けて死者が蘇る場面の浮彫があった。この石棺から起き上がるというのは、最後の審判で天国に行ける人たちを表している。
後陣の複合柱礎石の浮彫 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

身廊より見た南側廊
やはりアカンサス由来の葉文様だと思っていた。

身廊より見た北側廊
こちらもアカンサス由来の葉文様、にしては平たいかな。

身廊の柱頭彫刻が葉文様が多かったので、側廊もそうだろうと思い込んで、よく見ていなかったのだ。こんなにも面白い柱頭彫刻だったとは。
上図:両端にあるライオンの口から出たアカンサスの葉が柔らかく繊細に彫られている。
中段:同様の図柄だが、おおざっぱなデザイン
下段:円柱の柱頭を飾るのは大きなアカンサスの葉。そのしたにもアカンサスがぎっしりと表されている。
サンマルタンデネ教会側廊の柱頭彫刻 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より


ファサード裏の柱頭彫刻
生命の木と向かい合う草食獣という組み合わせは古くからあるが、ここではアカンサスの葉が密生した円柱に肉食獣が登っている。
サンマルタンデネ教会西ファサード裏の柱頭彫刻 『LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY』より

見残しいっぱいのサンマルタンデネ教会だった。




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参考文献
LYON L'ÉGLISE ROMANE DE SAINT-MARTIN D'AINAY」 2026年 Éditions Lyonnaises d'Art et d'histoire
「石に刻まれた中世の奇想 異形のロマネスク」 ユルギス・バルトルシャイティス 2009年 講談社