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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2019/03/05

アルビ ベルビー館の舗床モザイクは象嵌タイル


サントセシル司教座聖堂に隣接するベルビー館は、現在ロートレック美術館と呼んだ方が有名だが、元は司教館(茶色い部分、13世紀後半)だった。
『Albi』は、トゥールーズ・ロートレック美術館の修復で、建物の歴史を明確にし、使用されずに傷んでいた空間を再利用することとなった。そして、主塔(Donjon)またはマギの塔の基礎にある大きな部屋には、当初は13世紀の施釉タイルが敷かれていた。縁取りに動物寓話や紋章の型押しがいまだに残っている。類似のタイルが正面階段の屋根の中で見つかった。一般には立ち入り禁止の空間となっているノートルダム礼拝堂の上部にもある。これらは例外的なもので、主塔の舗床の元のままの状態、異端審問に使用されたかも知れない部屋の状態が保たれているという。

赤いレンガの尖頭ヴォールトロートレックの絵画を見学していて、壁には絵画の展示はない。
しかし、床は切石を組み合わせたモザイクだった。長年踏まれて当初の色を失ってしまったようだが。

別の展示室でこの床の説明パネルがあった。
元の舗床モザイク。細密な幾何学文様ばかりのように見えるが、

パネルには、その周囲に細部の文様が紹介されている。

斜格子や正方形の繋ぎ文様など
白と黒の市松文様を植物文様の帯が縁取っている
このパネルのどこのものか不明
帯文様の交差部?
ラングドック十字や犬、人物
犬、四つ葉そして後にフランス王家の紋章となるユリの花
ユリの紋章、市壁、角笛を吹く人、四つ葉、グリフィン
八弁花文や蔓草・ロゼッタ文を組み合わせた帯文様、ヒッタイトが起源だと思うが、東ローマ帝国や神聖ローマ帝国の紋章にもなった双頭の鷲も

別の展示室にあったタイルと様々なデザイン

作り方(説明パネルより)
1砂を底にして正方形の木枠を置く 2-3粘土を木枠一杯にいれる 4-5粘土を木枠から取り出し、乾燥させる 6スタンプを押して文様を彫る 7再び乾燥させ、文様の凹みに白い粘土(カオリン)を充塡する 8余分な白い粘土を剥ぎ取る 9鉛釉をかける 10設置する時に分割できるように、表面に切り込みを入れることもある。次に850-900度で焼成する 
絵付けではなく、象嵌タイルだった。
しかも、カオリンと言えば磁器の胎土に使われるもので、ヨーロッパではあまり産出されなかったため、白掛けの陶器が作られていたと聞く。
それが、NHKのアンティークを探す番組で、リモージュにだけはカオリンがあり、リモージュ焼に用いられた他、外貨獲得のため盛んに輸出して、すぐに枯渇してしまったのだとか。だから、このような舗床モザイクの象嵌にそんな貴重な土が使われていたとは驚き😎もっとも、古代ギリシアのいわゆるギリシア陶器は、釉薬を掛けて焼成しているのではなく、焼いた土器に絵付けしているので、正確には土器。それに白地式レキュトスはカオリンを下地に使っていたとか🤔

舗床モザイクと言えば歴史は古いが、キリスト教美術では、ローマの切石による舗床モザイクの技術が受け継がれ、キリスト教関連の主題が描かれたりするようになった。
それがいつ頃まで続いていたかはよく分からないが、私が現地で見たものに限れば、

ギリシアのオシオスルカス修道院パナギア聖堂(10世紀)には、大理石の床に少しだけモザイクが残っていた。色大理石をそれぞれの形に切って組み合わせたものだ。
ローマのサンクレメンテ教会(12世紀)身廊
『イタリアの初期キリスト教聖堂』は、床の美しいモザイクは、ローマに残る最も見事なコスマーティ様式の作品といわれているという。
中央部の釉のなくなってしまった小さなモザイク片の形を見ていると、このような大理石の舗床モザイクへの憧れから、大理石の産地から遠いアルビではタイルを用いて再現したのではと想像する。

それはともかく、イギリスでは13-14世紀に象嵌タイルがつくられていたらしい。
『世界のタイル日本のタイル』は、イギリスにおけるタイル使用の最も早い例として、中世の教会に見られる象嵌の床タイルが挙げられる。タイルの素地を文様に沿って彫り込み、そこに地色と異なる色の泥漿を流し込んでつくられるという。

中世象嵌タイル 13-14世紀 225X225X34㎜ INAXミュージアム蔵
同じモティーフのタイル4枚で円形の文様を構成している

中世象嵌タイル 13-14世紀 134X134X35㎜ INAXミュージアム蔵
ユリの花に似ている。

同書には、上図の象嵌タイルがイギリス製であるとは記されていないので、このような象嵌タイルがイギリスから運ばれたものか、それともフランスでも制作されていたのだろうか。
そこで検索してみると、LIXIL文化活動 世界のタイル博物館 研究レポート アーカイブ世界のタイル事典no.8『ゴシック・リバイバル─英国の象嵌タイル』に、イギリスにおける最も早い装飾タイルとされているのは、12-13世紀初頭にかけてフランスのシトー修道会の指導で制作された、幾何学模様の床用の手づくり象嵌タイルである。これらのタイルは、中世のカトリック教会などのゴシック建築に多用されたという文を見つけた。
また、『ロマネスク美術革命』でも、清貧を旨とするフランスのシトー会は、このコズマーディ装飾をタイル模倣した。高価な色大理石を用いるかわりに、釉薬によってとりどりの彩色をほどこし、かたちもさまざまなタイルを組み合わせて床を飾ろうとしたのであるという。
フランスで始まった象嵌タイルや色タイルによる舗床モザイクだったのだ。残念ながら、人が通るところのタイルは釉薬が失われてしまっているが。

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関連項目
アルビ ロートレック美術館

参考サイト
LIXIL文化活動 世界のタイル博物館 研究レポート アーカイブ世界のタイル事典no.8『ゴシック・リバイバル─英国の象嵌タイル』
参考文献
「Albi GUIDE TOURISTIQUE CNNAÎTRE」 DANIÈLE DEVYNCK 2011年 ÉDITIONS SUDOUEST

「建築巡礼12 イタリアの初期キリスト教聖堂」香山壽夫・香山玲子 1999年 丸善株式会社
「SAN CLEMENTE ROMA」 発行年・出版社不明
「世界のタイル・日本のタイル」 編者世界のタイル博物館 2000年 INAX出版
「ロマネスク美術革命」 金沢百枝 2015年 新潮選書